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怪異館シネマシアター  作者: 弌黑流人


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67/70

錆びついた死線(四)

 カメラはゴンドラの外、夜風にさらされる鉄骨の隙間から、内部を覗き込むように固定されている。ピエロの狂気的な笑い声が、左右のスピーカーから不規則に回り、観客の耳元をかすめる。


 ゴンドラの座席。手元で震える一枚の紙。カメラは超クローズアップで、紙の上で躍る指先を捉える。紙の端がめくれ、女の顔がモンタージュされたデッサンが浮かぶ。


 その顔の左頬に、17、29の赤い数字。画面全体がチカチカと不規則に点滅し、劇場内の照明もシンクロして明滅する。


 音響。ピ、ピ、ピ、ピ……と、高い硬質な電子音が、背後から前方へスピーカーを移動する。


 女が点検用の鏡の前に立つ。カメラは鏡を正面に据えるのではなく、女の背後越しに鏡を映す。鏡に映った女の瞳が、焦点の定まらぬまま左右に揺れ、次に自身の瞳を射抜くように凝視する。モノローグはエコーを帯び、女の呼吸音と重なる。


 「赤と青。ピエロが嫌うもの、それは、嘘」


 カメラは女の瞳の反射を捉える。瞳の奥で、無数の罪の残滓が揺らぐのが見える。


 「……17。純粋な希望の残滓」

 「……29。嘘と自己欺瞞の末路」


 女が一度だけ、喉を鳴らして深く息を吸い込む。カメラは彼女の震える唇と、真っ白に引きつった指先を交互に映し出す。


 「差は十二年」


 観覧車が頂点に達する。鈍い金属の衝突音と共に、天井のハッチが叩き割られる。カメラは一気にゴンドラの外へ飛び出し、中心軸にある金属の箱を俯瞰する。


 【ソノ総量ヲ示セ】と刻まれた文字。女の掌が冷たい金属に触れる瞬間、劇場全体の音が消える。

 静寂。観客が固唾を飲む気配だけが支配する。


 「12」


 吐き捨てるような短い言葉が、劇場のサブウーファーを通じて低く響く。

 カチリ、と錠が外れる乾いた音。

 それは弾丸が薬室に収まる音にも似ている。


 開いた小箱からこぼれるのは、銀色のライフル弾。一発、二発。ボルトを閉じる動作を、カメラはスローモーションで追う。薬莢が金属に触れる音、ボルトが噛み合う機械音が、極端に強調されて劇場に響き渡る。


 女の指先から、黒い油と混じった血が滲み、ハッチの鉄板を汚す。カメラは、その一滴が観覧車の軸を伝い、暗闇の中へと落ちていく様子を追う。


 滴が落ちるその先。下界では、ピエロがふと動きを止め、何かに気づいたように顔を上げる。 

 クリーンに映る女の表情は、もはや恐怖に歪んでいない。残酷なまでに清廉な、冷ややかな殺意が、その面貌に刻まれていた。


 観客は、彼女が背負ったその12という数字が、ただの過去ではなく、これからの死のカウントダウンであることを悟る。


 音楽が突如として止まる。

 静寂の中、ライフルのボルトを引く音だけが、劇場内に鋭く突き刺さった。


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