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怪異館シネマシアター  作者: 弌黑流人


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錆びついた死線(三)

 この場に留まることは、死の抱擁と同義。

 女はヒントの紙をポケットにねじ込み、空のライフルを抱えたまま、地面を這うように移動を開始した。アスファルトのひび割れ、ひっくり返ったゴミ箱、すべてを盾に選んで、極限まで音と動作を殺す。だが、ピエロの笑顔がさらに深く、醜悪に歪みを見せる。


 背後のスピーカーから、荒い呼吸音と鉈を地面に引きずる「ザリ、ザリ」という不快な金属音が迫る。

 常人には到底不可能な速度で突進するピエロ。


 「アハハハハ! アソビハ、ココダヨネェ!?」


 狂った叫び声と共に、鉈が振り下ろされる。ガァン! 背後でチケット売り場の木枠が粉砕される。女は全速力で公衆電話ボックスの陰へと転がり込んだ。


 ガラスに映るピエロの影。奴は鼻をひくつかせながら、獲物の匂いを求めて不気味に周囲を旋回している。その動きを、カメラは執拗に彼女の顔のクローズアップで追う。彼女の瞳には、死への恐怖が反射している。


 「どこ? どこに隠れたの? ボクの可愛いオニエサマぁ!」


 奴の言葉には愉悦が満ちている。女は巨大な鉄骨の影に紛れ、観覧車へと駆け抜ける好機を待った。土産物屋の残骸を潜り抜け、肺を灼くような全速力でゲートへと辿り着く。鉄骨が音の反響を狂わせている。追跡の足音が、一瞬遠のく。


 ゲート脇の錆びた制御盤。

 フタをこじ開けると、蛇のような配線と共に三つのキーが差し込まれたスイッチボックスが現れる。上部には汚れたメモ。


 「順序。ピエロの涙、嘘つきの舌、道化師の心臓」


 眠れる巨体を揺り起こさなければならない。

 キー1は銀色で涙の形。キー2は赤色でナイフの形。キー3は真鍮色で心臓の形。背後から鉈をこすりつける不快な音が再び近づく。


 鉄骨を叩く「カン……カン……」という音。女の思考が研ぎ澄まされる。


 これは私を陥れるための罠だ。ピエロが欺くための涙、追い詰める舌、奥底に潜む心臓。これらを逆転させ、真実から暴き立てる。


 「まず心臓を貫き、舌を封じ、最後に涙を晒す」


 女は真鍮色のキーを最初のスロットに差し込み、祈るような心地で回す。カチッ。ランプが黄色く灯る。成功だ。だが、その小さな駆動音が、ピエロをより凶暴に刺激する。


 「ソコダァ! ミツケタヨ、オニエサマ!」


 興奮を孕んだ叫びが間近に迫る。

 女は迷わず、赤色のキーを二番目のスロットへ叩き込む。カチッ! 最後に、銀色のキーを震える指先で三番目の穴へ押し込む。


 ウィィィィン!

 重い低周波と共に観覧車が動き出す。錆びついた機構が悲鳴を上げ、一つのゴンドラが降りてくる。ドアの隙間に先にライフルを投げ入れてから身体を押し込む。

 ピエロが姿を現す。躊躇なく鉈を振りかぶる。


 「アハハハハ! オマエェ!」


 ガギィィィン!

 凄まじい火花が散り、ゴンドラの足元が激しく揺れる。しかし回転の勢いが勝り、ゴンドラは鉈を逃れて上空へ上昇を開始する。


 ピエロは狂ったように吠え立てる。だが諦めず、巨大な鉄骨に鉈を突き立て、信じられない身のこなしで追って登り始める。


 「ニガサナイ……ニガサナイヨォ!」


 ピエロの這い上がる爪先が、鉄骨を削る音がサラウンドで響く。観客は、彼女がゴンドラ内で固唾を飲んで潜む緊張感を共有する。


 彼女の視線が、遥か下方でこちらを見上げるピエロの狂気と交差したその瞬間、彼女は自らの過去と対峙する準備を完了したのだ。


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