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怪異館シネマシアター  作者: 弌黑流人


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錆びついた死線(ニ)

 ここには何かがいる。剥き出しの殺意の気配。息を殺し、周囲を偵察する。まずは武器が必要だ。この手には何一つない。最も巨大な観覧車の麓、チケット売り場の裏側に、場違いなほど黒く異質な何かが横たわっている。


 (あれは……)


 アスファルトの熱を腹に感じながら、匍匐前進で距離を詰める。長年の訓練で骨の髄まで染み付いたような無駄のない動き。記憶がなくても、身体が最適解を覚えている。


 落ちていたのは一挺の古いライフル。木製の銃床には無数の傷。ボルトアクション式の遺物だが、今の女にとっては命を繋ぐ蜘蛛の糸だ。迷わずその重みを掌に受け取る。


 鋼鉄の質感が肌に触れた瞬間、脳裏に鋭い火花が散る。誰かの最期の苦悶、トリガーを絞る瞬間の静寂。断片的なイメージが、暴力的に意識を突き抜けた。


 「……うっ」


 女が頭を押さえ、顔を歪める。身体は、重量と反動を鮮明に記憶している。弾倉を確認するが空だ。ライフルの下には、厚手の紙片が張り付いている。子供のなぐり書きのような筆跡を読み解く。


 「あそびかた。1、ひるまだけ、かんらんしゃのてっぺんで、ちいさないのちをもらってね。よるは、あぶないよ。2、ピエロはね、おととにおいにうるさいよ。3、おにさまはね、ちからもちで、においにうるさいよ」


 あまりにも稚拙で、底知れない悪意。

 遠くのメリーゴーラウンドの奥から、金属が砂利を掻く妙に軽快な音が響く。カツン、カツン。音が止まり、チケット売り場の角から真っ白な顔が覗く。


 真っ赤な口が耳元まで裂けた、ピエロの笑顔。その濁った瞳は、最初から女を捉えて離さない。彫像のように動かないピエロ。極彩色のダボついた衣装は泥と脂にまみれ、その手には巨大な鉈が握られている。


 奴は、単に私を視認しているのではない。その気配を、獲物を見定めた狩人の視線で捉えている。

 女の指先がわずかに震え、それが服の繊維を弾く小さな音だけが、劇場内の静寂の中で際立って聞こえる。観客は、彼女が背負う生存への渇望を、その張り詰めた筋肉の動きから読み取るしかなかった。


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