端役のフィルム
高津の指先がフィルムとなって千切れる直前、突如として空間が硬質な静寂に包まれた。フィルムの足場が氷のように凍りつき、高津の身体はまるで麻痺したかのようにその場に縫い付けられる。
その声は、映画館のどこからともなく、しかしすぐ耳元で聞こえるほど鮮明に響いた。
「鶫さん、編集をお願いします」
支配人・黄泉野完結の命令に、どこからともなく現れた影が応える。影は空間に浮かぶ見えない編集機を操作するように、指先で空中の光を摘まんだ。
「ええ、スクリーンを破らせるわけにはいかないものね。お任せあれ!」
鶫と呼ばれたその影が指をパチンと鳴らすと、高津の全身を覆っていた刑事の執念――その熱量が、銀色のフィルムへと強引に変換され、引き剥がされていく。
高津の抵抗は、成す術もなく制止させられた。先ほどまで支配人を撃ち抜こうと繰り出していた拳は、意思とは裏腹に、まるでスローモーションの映画のように無力な軌道を描いて停止する。
(身体が……言うことを聞かない。俺の意識が、フィルムのコマ送りに強制的に同期させられていく……!)
鶫の編集により、高津の動きは「迷宮を破壊する刑事」という主役の物語から、「銀幕の端で静かに消えゆく脇役」へと強引に書き換えられていく。彼は支配人の前で、まるで糸の切れた操り人形のように俯くことしかできない。
高津の視界の中では、世界がコマごとに切り取られ、フィルムの無機質な重なりへと分解されていく。支配人は満足げに、高津の顔に浮かぶ絶望の表情を覗き込んだ。
「素晴らしい編集ですね、鶫さん。この刑事の憤怒、実に鮮烈な色だ。……では、彼を『作品』のクライマックスへ組み込みましょう」
支配人のその言葉とともに、高津の身体は床のフィルムの渦へと引きずり込まれていく。抵抗するはずだった刑事の魂は、編集者の手によって、ただの映画の1シーンへと加工されていく。
客席の奥底で、鶫は冷ややかな微笑を浮かべ、空間に浮かぶ光の帯を淡々と繋ぎ合わせる。高津という男の「捜査」という物語は、ここで強制的に編集され、二度と結末を迎えることのないループの渦へと追放された。
「それにしても、刑事の執念とは恐ろしい。消えた存在を認識できるとはね。高津刑事殿、黄泉野は感服いたしました」




