アカズノエキ(三)
画面いっぱいに広がるのは、灰色の作業着を着たマネキンたちの虚ろな視線。彼らは動かない。しかし、その配置はヴェインの逃げ場を完全に封鎖している。
「こいつら、生きてるのか……? いや、魔力の反応がない。ただの無機物だ。だが、この配置……地図上に存在しない幾何学的な封印陣か」
「さあね。でも、触れられたら終わりだよ。お兄さんの心臓と同じくらい、冷たくなっちゃうから」
子供の声が嘲笑へと変わる。ヴェインは壁に沿って慎重に歩を進めるが、一人のマネキンが首を不自然に曲げ、ヴェインを見つめる。
「ボクが言ったのは、嘘の中に混ぜた『本物の嘘』だよ。君、信じちゃったんだね。あっちに行けば助かるなんて」
「貴様、最初から……! 私を特定の地点に誘導して、この封印陣の一部に組み込むつもりだったのか!」
出口を求めて機関車へ身を投げ出したヴェイン。視界が反転し、現実へ生還したはずの街は、静まり返ったマネキンの群れに占拠されていた。彼は肘から先がプラスチックへと硬化していく中、電波塔へ向かって走る。その動きはギチギチと無機質な音を立て、映画館の重低音と共鳴する。
「私は、こんなところで、留まったりしない……! 分析官として、必ずこの迷宮を解体する。それが、私の最後の仕事だ」
彼はマネキン化した腕を振り上げ、天井を粉砕する。観客は、降り注ぐプラスチックの破片の雨を、息を詰めて見つめる。
「もう、引き返せないよ。残念。お兄さんの地図、最後まで埋まらなかったんだね」
子供の無邪気な声が、崩壊する天井の音に消えていく。ヴェインの意識は、すでに自分の身体が支配されていることに気づき始めていた。




