アカズノエキ(二)
ヴェインの背後に、先ほどの顔のない子供が立っている。画面は彼を中央に据え、背後から迫る闇をじわじわと広げていく。澄んだ声が観客の耳元で囁くように響く。
「前へ進むためには、小さな嘘を見つけなきゃいけないんだ。ボクについてきて。出口まで案内してあげる」
「君は……誰だ? このダンジョンには存在しないはずの個体だ。ここはどこなんだ? さっきまでの駅とは構造が違う」
「ボクはボクだよ。ここは……見ての通り、駅さ。君がさっき壊した壁の裏側だよ」
子供が歩き始めると、線路脇の信号機が拒絶を示す赤色に染まる。スピーカーからは割れたノイズとともに、警告音が鳴り響く。
『次はアカズノエキ。オモドリクダサイ』
「戻れって言ってるぞ? 私の解析によれば、この信号は警告ではない。このエリアから排除するための排斥魔術だ」
「言ったでしょ? 嘘を見つけなきゃいけないって。お兄さんの地図、ぜんぶ間違ってるよ」
ヴェインが子供の指差した先へたどり着くと、そこは元の場所だった。
「なんだと……どういうことだ」
『次はトビラノエキ。距離は五分』
「……構造が変わった。進めるのか? だが、この距離算出は……距離ではなく、死までの猶予時間だとしたら……」
「うん。でも、急がないと。あいつらが、また巡回に来るよ。もっともっと、たくさん」
ヴェインが立ち止まる。彼の心拍音が映画館の空気を支配する。分析官として、彼は目の前の子供が発する魔力の波長が、ダンジョンそのものと同期していることに気づいてしまった。
「貴様、この迷宮の心臓の一部か……!」
「バレちゃったか。でも、もう遅いよ。あいつらが、君の嘘を見つけに来るから」
子供の輪郭が揺れ、観客の背筋に冷たいものが走る。彼は疑いながらも駆け出すが、その背後で轟音とともに機関車がホームを破壊し始める。鉄の巨人が彼を追ってくる。




