編集、落下と再生の円環。
(密に詰まった列。先頭の影が膝を折る。ドミノ倒しの始まりだ。カメラは落下する美麗の視点へ。浮遊感、そして強烈な衝撃に合わせ、映像を一瞬でフリーズさせる)
積み重なっていた無数の肉塊と作業着の残骸。骨の砕ける鈍い音が、シアターの重低音スピーカーを震わせる。視界が暗転する。
(再びの暗転からの復帰。同じ床、同じ空気。観客にはここがループであることを告げる、残酷なカットバック)
ドンドン、ドンドン。
私は震える腕でコンクリートを掴み、立ち上がる。先ほどの落下の衝撃が残る中、背中の子供が耳元で鋭く叫ぶ。
『早く登って。遅れるのは無駄よ』
(視点を変える。彼女が自分の足元を見るアングル)
皮膚の色がくすみ、石と石が噛み合う不快な音が響く。もはや彼女の肉体は、この螺旋の一部に組み込まれ始めていた。
彼女は気づき始めている。この階段が、誰かの死骸が押し固められてできたものであることに。
(ここであれと繋ぎ合わせれば……)
急に映像がノイズ混じりのライブ配信画面に切り替わる。今まで見ていたのは、彼女がかつて行った「配信」の記録だったのか。カメラワークは彼女のマスク越しに見る「現実」と、配信画面の「記録」を交互に切り替える。
「皆さん、見えますか。これが都市伝説の異界へ繋がると噂の螺旋階段です」
彼女は語りかける。配信者としての「私」という仮面を被り、効率的に真実を突き止めようとするその信条。しかし、禁忌を破り、屋上で口を開いた瞬間、すべては瓦解する。
(突風。手すりを越える身体。カメラが空中から落ちていく美麗を捉える、スローモーションの演出。彼女の恐怖に満ちた表情と、スマホの画面に流れる無機質な視聴者コメントの対比。これぞ最高のエンターテインメント)
夜の冷たい暗闇が彼女を包む。地面への激突音。ライブ配信は、そこで途切れた。
(再び、硬いコンクリートの映像。最初の風景。だが、今度はカメラが、「彼女」の視点から隣の影を見下ろすように固定して)
「え?わたし! ……ねぇ、ここは一体どこなの?」
(編集者として、このループを観測できる特等席だ。彼女が、かつての自分がそうしたように、機械的に冷たく言い放つ瞬間を待つ)
『構わないで。一段でも多く、上へ行かなければならないんだから』
(カメラは背中の子供をアップにする。マスクをした彼女自身の姿をした子供。それはもう、かつての彼女の残り香だ。後方から響く「早く階段を上がりなさいよ!」という怒号も彼女の声)
ループは完成した。彼女は何も疑問に思わず、ただ登る。登る、落ちる、目覚める。それが、この螺旋に囚われた者たちの結末と始まり。
(素晴らしい。完璧なループ映像ね。今回はこのあたりで一度戻らなきゃ……)
そう思った刹那、いつものように両肩を揺さぶられ、後頭部が真後ろに落ちるのを抱きとめられながら、夫の穏やかな顔で迎えられる。
「お疲れさま。まずはブレイクタイムとしよう」
鶫は完結の淹れてくれた口当たりのよい珈琲をゆっくりと味わいながら飲む。それが、意識を現実へと慣らす安全で確実な行為だと二人は知っている。
「タイトルなんだけど、『螺旋怪段』てのはどうかしら? 階段の『階』を怪しいの『怪』にしただけなんだけどね」




