編集、螺旋の序章。
(コンクリートの質感、荒い息遣い。カメラは美麗の震える背中を追う。いい絵だ、絶望の深さが手に取るようにわかる)
硬いコンクリートの感触が意識を引き戻す。湿り気を帯びた停滞した空気。暗闇に飲み込まれていく螺旋階段。足元に転がる無数の影。彼らは一言も発さず、ただ機械的に足を動かしている。
(音響調整よし。スピーカー後方から「ドンドン」という規則正しい足音を強めに。視聴者の心臓を直接叩くようなリズムを強調して)
「ここ、はどこ……?」
美しい声が消えかかる。彼女は隣の影の肩に手をかけたが、返ってきたのは拒絶の言葉だった。
『構わないで。一段でも多く、上へ行かなければならないのよ!』
(カット割り、今の「否定」に反応する美麗の瞳の揺れをアップに。観客はここで彼女が逃げ場を失ったことを悟る。無理やり踏み出させた一段目、その踏みしめる重さが映像から伝わるだろうか)
登る。それがこの場所に投げ出された者に与えられた、唯一の強制。壁に配置された裸電球の橙色が、彼女の顔の半分を不気味に照らす。
壁の殴り書き【ノボレ】が、この空間の閉鎖性を証明している。
(映像が揺れる。手ぶれ補正をオフに。彼女の精神の糸が解けていく様子を、カメラのピントをわざと甘くして表現する)
太腿の筋肉は悲鳴を上げ、関節は錆びついた機械のように軋んでいる。ふと画面に映り込んだ彼女の背中。そこには、以前彼女自身がつけたはずの小さな綻びがある。
(ここだ。サラウンドを活用する。彼女の耳元で囁く幼い声。左後方から耳に直接吐きかけるように。観客は彼女の背中にある「何か」の存在を音で確信する)
[どうしてあんなことをしたの][みんな消えたのよ][もっと苦しんで]
彼女の唇からこぼれる「むだな、あゆみを、はいじょ、せよ」という砂のような呟き。彼女自身のアイデンティティが、コンクリートの塵となって剥がれ落ちていく瞬間だ。美しくも残酷な映像……。
周囲から漏れ出す、妄執に憑りつかれたうめき声。前を歩く人の背中を追い続ける地獄。精神の崩壊は、肉体の変質よりも早く進んでいるようだ。




