未払生窮(四)
ピッ、ピッ、ピッ。
鋭い警告音が三回、劇場の前方に響き渡り、巨大な両替機が完全に停止した。絶え間なく鳴り響いていた貨幣の音が消失し、訪れたのは耳が痛くなるほどの完全な静寂と、画面を白く染める閃光だった。
次の瞬間、空間全体の液晶パネルが一斉に動きを止める。
画面の中のモデルや通行人たちが、操り人形のようにゆっくりと首をこちらへ向けた。彼らの瞳から人間らしい色彩が完全に失われ、瞳孔が極限まで開く。そこから真っ赤な、飢えた光が漏れ出した。
カメラは、男の怯えきった表情と、一斉にこちらを向く無数の赤い目を、激しいフラッシュの中で交互にフラッシュバックのように映し出す。
男が頭痛に耐えながら凝視するディスプレイに、不気味な赤い数字がカウントダウンを刻み始める。
【00:00:14】
劇場のスピーカーから、秒針が刻む重い音が響く。
男は通路の隅にある、最も地味なガラスケースへと飛びついた。中には色褪せた一枚の紙切れと、どこにもかみ合わない形状をした不完全な鍵。
【00:00:05】
男が握りしめていた鈴の小箱を、ケースの角に全力で叩きつける。
乾いた破壊音が静寂を破る。ロックが外れ、男は飛び散る破片の中から鍵を強く掴み取った。カメラはその手のひらに食い込む鍵の鋭さを映す。
【00:00:01】
カウントがゼロになった瞬間、ガシャアアアアアンと両替機が咆哮を上げるように再起動し、再び轟音と光の奔流がスクリーンを埋め尽くした。
「0 Yen」と表示された自動販売機の前に、男は滑り込む。
鍵穴に不完全な鍵を差し込み、決然と回した瞬間、スクリーンが上下に激しく反転する視覚効果がかけられる。
通路を覆っていたノイズが音量を最大まで上げ、数千人の叫び声となって劇場のサラウンドスピーカーから響き渡った。
液晶パネルに浮かび上がる文字群。
『お前の罪には価値がある』
『それを手放すな』
『買い手はいくらでもいる』
液晶パネルから、赤い目をした監視者たちが立体的に手を伸ばしてくる。男は腹部に走る激痛に顔を歪めた。彼が注射針を自らの皮膚に深く押し当てる様子が、影となって壁に大きく映し出される。
(私は商品ではない。私は、痛みを感じる生き物だ)
男は立ち上がり、目の前の液晶パネルに鈴の小箱を何度も叩きつけた。
「価値があるだと? だったら、その安っぽい棚ごとぶち壊してやる!」
粉々になった画面から、ガラスの破片が飛び散る。映し出されていた過去の映像が次々と砂嵐へと変わり、パネルが「OFF」という沈黙の闇に染まっていく。
すべての音が消え、あまりにも清浄で冷たい沈黙が劇場を支配する。
足元に現れた巨大な空間の亀裂。その内部には、黄金色に輝く細かい砂の渦が巻いている。男が鍵を投げ入れると、深い場所で正しい場所に嵌まったような微かな音が、後方スピーカーから静かに聞こえた。
男が亀裂へと飛び込むと同時に、画面は暗転する。




