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怪異館シネマシアター  作者: 弌黑流人


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未払生窮(三)

 一台の巨大な自動販売機の前で、男の足がピタリと止まる。

 パネルには「購入」の二文字が点滅し、その下に通貨の代わりに要求されている文字が浮かび上がる。


 [孤独]、[排斥]、[放棄]。


 カメラは、その文字を見つめる男の瞳のアップから、徐々に引いていく。彼の指先が恐怖で激しく震え、爪が手のひらに食い込む音が微かに聞こえる。


 ふと、壁に貼られた古びた掲示物が目に留まるが、背後からの強烈なバックライトのせいで文字が完全に潰れている。男はポケットからガラスの破片を取り出し、それをカメラのレンズを覆うようにかざした。


 青い染みの付いたガラス越しに世界が覗かれると、劇場の色彩が反転し、光が奇妙に屈折して隠されていた真実の文字が浮かび上がる。


 【タイカハ、ウワガキ、サレル】


 男の喉が「ヒュッ」と鳴る。カメラはその瞬間、彼の顔に垂れる一筋の冷や汗をクローズアップし、その汗が床に染み込む静かな音をあえて強調した。


 男は意を決し、最も激しいノイズの発生源へと向かう。通路の最奥に聳え立つ巨大な両替機。


 男が機械の隙間から滲み出すドロリとした黒い液体に向かって、所持していた注射針を深く突き刺した瞬間、スクリーンには彼の顔のクローズアップが重なる。生体組織を力任せに貫通させたような生々しい感触に、男は奥歯を噛み締めた。


 すぐさまスピーカーから、嘲笑を孕んだ声音が降ってくる。


「あらあら、お客様ぁ。せっかくの資産をそんな風に扱ってぇ。痛覚のぉ『無駄遣い』は規約違反ですよぉ? さあ、もっとスマートにぃ、もっと絶望的にぃ、消費してくださいませぇ! あははははっ! 」


 スピーカーからのアナウンスに混じって、無数の人間の嘲笑がサラウンドのノイズとなって観客席の全方位から降り注ぐ。立体音響の暴力に耐えかねたように、男はカメラに向かってあらん限りの声を張り上げた。


「黙れ! このガラクタの塊め! 私の痛みは私のものだ、一分たりともお前たちには渡さない!」


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