未払生窮(二)
激しく上下する胸を抑えながら、男は手元にある唯一の所持品を確認する。カメラは彼の震える指先をクローズアップした。
古びた鈴の付いた小さな木箱。周囲の白い光を乱反射するガラスの破片。一本の使い古された細い注射針。それらを見つめる男の瞳には、圧倒的な困惑と、それ以上に強い執着が宿っている。
突如、正面の液晶パネルの一つが激しく明滅し、暴力的な広告映像を強制的に割り込む形で、手書きのような歪んだ黒い文字が画面いっぱいにクローズアップされた。
【アンゼンハ、ゼロ】
文字は一瞬でかき消され、再び情報の奔流が画面を埋め尽くす。
男が粘つく床から無理やり足を蹴り出し、光の奥へと歩き出すと、カメラは彼の足元から見上げるようなローアングルで、果てしなく続く自動販売機やガラスケースの列を映し出す。極彩色のスポットライトを浴びた宝石や高級バッグが、スクリーンの中で不気味に明滅していた。
ここで、劇場の後方スピーカーから異質な音が混ざり始める。ガシャガシャ。ジャラジャラ。
硬貨が激しく擦れ合い、機械の底に大量に溜まっていく音が、空間全体の心音のように一定のリズムで鳴り響く。観客はまるで、自分たちもその巨大な機械の内部に閉じ込められたかのような錯覚に陥る。
頭上のスピーカーが弾けるような音を立て、耳が痛くなるほど甘ったるく、しかし内側が完全に腐りきったような女性のアナウンスが劇場全体に鳴り渡った。
「お客様ぁ、本日はご来店誠にありがとうございまぁす。ただいまよりぃ、お客様のぉ『人生の棚卸し』を、開始いたしまぁす。お手持ちの『負債』はすべてぇ、当店の通貨として美味しく調理させていただきますのでぇ、どうぞ安心してお出しくださいね。ふふ、逃げても無駄ですよぉ? お客様の価値はぁ、すでに私共が『査定』済みなのですから」
カメラは天井のスピーカーを見上げる男の顔を捉える。その瞳に激しい怒りの炎が灯り、強固な拒絶の言葉を叩きつけた。
「査定だと? 勝手に決めつけるな。私の人生は、お前たちの陳列棚に並ぶような安物じゃない!」




