蒼空の聖地巡礼と忍び寄る影
次に向かうのは、トンネルからさらに40分ほど車を走らせた市街地にある、精神科を併設した医師会病院だ。
瞳はカーステレオから流れる軽快な音楽に合わせて指を刻みながら、順調に車を進めていく。
ナビの指示通りに進むと、ほどなくして次なる目的地であり、『監視遺物』の舞台の一つとなった医師会病院へと到着した。車を降りて屋上を見上げると、吸い込まれそうなほど澄んだ蒼空が広がっている。ホラー映画の陰鬱な舞台とは思えないほどの快晴だった。
「中に用事があるわけじゃないから、ええと、たしかこっち側よね……。うん、ここで間違いない」
記憶を頼りに歩くと、病院の駐車場から見て一番左側にある建物が、まさに作中に登場したあの病棟だと分かった。映画の登場人物が絶望の淵で見上げたであろう景色を、今の彼女は同じ角度で見つめている。映画の張り詰めた空気感が脳裏に蘇り、ゾクゾクとした高揚感が瞳の身体を駆け巡った。
病院という場所柄を配慮して、ここでは動画ではなく、手早く写真だけを数枚カメラに収めるにとどめておいた。カシャリ、というシャッター音が、静かな敷地に小さく響く。
「よし、こんなところね。満足満足!」
予定していたスケジュールをすべて消化し、瞳は充実感に包まれながら車に戻った。
このようにして、何事もなく無事に聖地巡礼を終えた彼女は、近くのカフェで少し遅いランチを堪能し、心満たされて帰路につく。お気に入りの映画の世界に浸り、充実した休日を過ごせたことに、胸を弾ませながら。
彼女はただ、純粋に物語の余韻を楽しんでいただけだった。
そしてここでも、先ほど病院で見上げたあの快晴の屋上では、フェンスの錆びついた隙間から「何か」の視線がじっと彼女の背中を追っていた。
楽しかった聖地巡礼の記憶。その日常のすぐ裏側で、確実に破滅の足音が響き始めている。瞳がアクセルを踏み込むのとほぼ同時に、不穏な影が、静かにその距離を縮めていた。




