支配人・黄泉野完結が語る真髄
薄暗い劇場の客席に、心地よい革の擦れる音が響く。
怪異館シネマシアターのシートに深く腰を下ろした支配人、黄泉野完結は、正面のスクリーンを見つめたまま、地元のローカル雑誌の取材に応じていた。
その隣でスマートフォンの録音アプリを起動させている女性インタビュアーの境は、独特の静寂を纏う黄泉野に、どこか緊張した面持ちで向き合っている。
境はまず、劇場の現状についての質問を投げかけた。
「本日はお時間をいただきありがとうございます、黄泉野支配人。さっそくですが、現在の映画館の評判、特に上映作品の選定についてお聞かせいただけますか?」
黄泉野は視線をスクリーンから境へとゆっくり移し、静かに口を開いた。
「当館の選定は、万人受けを狙ったものではありません。しかし、コアな映画ファン、特に暗闇の恐怖を愛する方々からは、他では観られない名作が揃っていると、大変高い評価をいただいております」
続けて境は、客席の反応について尋ねる。
「なるほど。では、実際に足を運ばれるお客様の声としては、どのような反響が届いているのでしょうか?」
「席を立つお客様の顔を見れば分かります。恐怖に顔を強張らせ、背後を気にしながら帰路につく。それこそが、当館にとって最高の称賛であり、お客様が満足された証拠なのです」
そして、インタビューは核心へと迫っていく。境は事前に耳にしていた、支配人の強いこだわりについて切り出した。
「支配人が求めてやまないホラー、その真髄とは何でしょうか?」
黄泉野は、待っていましたと言わんばかりに、低く、しかし確かな熱を孕んだ声で答えた。
「ホラーに救いがあってはいけない! と私は常々思っております」
境が息を呑む中、黄泉野はその理由を淡々と続けた。
「だってそうでしょう?この怪異館と銘打った看板のもとで、光射す希望など届けてしまっては信用問題に関わります。お客様の期待を裏切らない絶望をお届けすることこそが、この怪異館の使命……。それと、もうひとつ意図がございます」
一呼吸置き、黄泉野はボイスレコーダーに視線を落とし、さらに言葉を重ねる。
「明日は我が身かもしれない、という深層心理にとどまる恐怖が、日常のあらゆる選択肢にブレーキをかけることで、穏やかで明るい道を間違わずに選べるかもしれない……、その一助を担えたら私は光栄にございます。ですから、ホラーにおいて、救いという油断は決して提供してはならないと、このように考えてる次第です」
その独自の哲学に圧倒されつつも、境は次の質問へと進めた。
「怪異館シネマシアターのコンセプトは言うまでもなくホラー映画ですが、今後、挑戦したいホラージャンルはありますか?」
「今後は、人間の心理をじわじわと蝕む精神的ホラーや、土着信仰をテーマにしたモキュメンタリー形式の作品を強化したいと考えています。視覚的な驚きだけでなく、脳裏にこびりついて離れない恐怖を、この空間で表現したいのです」
境は手元の画面で録音時間が進んでいるのを確認しながら、締めくくりの質問をした。
「貴重なお話をありがとうございます。それでは最後に、怪異館シネマシアターのファンの方々へ、ひと言いただいてもよろしいですか?」
黄泉野は再び、誰もいない暗いスクリーンへと視線を戻し、小さく微笑んだ。
「当館の扉を開くということは、恐怖を受け入れるということです。皆様が日常に退屈した時は、いつでもこの暗闇へお越しください。決して、期待を裏切らない絶望を用意して、お待ちしております」




