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怪異館シネマシアター  作者: 弌黑流人


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36/66

蒐集された恐怖の余韻

 怪異館の薄暗いスタッフルーム。端末から漏れる青白い光が、黄泉野完結の輪郭を鋭く切り取っている。彼は、ホームページの掲示板に刻まれた言葉の群れを、慈しむように、あるいは獲物の味を確かめるように、一言一句逃さず眺めていた。


 各上映作品への感想。


【飢餓残滓】

観終わった後、自分の胃袋の中がひどく空っぽになったような感覚に襲われた。


画面の向こうの絶望が、こちらの喉元までせり上がってくるようで吐き気がした。


食事という行為が、これほどまでに暴力的な剥奪に見えたのは初めてです。


骨を噛み砕く音が寝る前になっても耳の奥で鳴り止まず、眠れなかった。


【監視遺物ー完全版ー】

映画を観ているはずなのに、途中から自分が誰かに覗き見られているような錯覚に陥り、何度も後ろを振り返ってしまいました。あの視線の主は、本当にスクリーンの中だけにいたのでしょうか。完全版になってからの没入感は、もはや映像の域を超えていて、日常に戻るのが困難です。


画面に現れる、顔を黒く塗りつぶされたあの着物の影。あれがかつて自分と同じように呼吸し、生活していた「誰か」の成れの果てだと思った瞬間、背筋に氷を押し当てられたような戦慄を覚えました。あの絶望的な「個」の否定こそ、この映画の真髄だと思います。


前作では見えなかった「空白」が、完全版では明確な意図を持って埋められていて、その真相を知らなければよかったと後悔しています。観終わって帰宅した後、自分の部屋の隅にある影が、劇中の顔のない影と同じ形に見えてしまい、明かりを消すことができません。


【孤独視】

一人で観たことをこれほど後悔したことはない。孤独を肯定されるのではなく、剥き出しにされて解体されるような映画だった。反面教師にするには、あまりにも毒が強すぎる。


自分が「一人でいる」のではなく「誰からも見放されている」のだと再認識させられた。映画館を出た後の街の雑踏が、異世界の出来事のように遠く感じられて恐ろしい。


寂しさを埋めるための娯楽を探してここへ来ましたが、間違いでした。孤独という名の病を、顕微鏡で覗かされ続けている気分です。二度と独りでは来たくありません。


 画面をスクロールする指が、支配人である彼個人への質問や、制作体制への言及で止まる。エンドロールに役者の名がないことへの不審、主題歌がないことへの不満、あるいは自作の歌を提供したいという傲慢な売り込み。


 黄泉野は端末を置き、背もたれに深く身を預けた。暗がりに溶けかかった彼の口角が、緩やかに、そして歪に持ち上がる。


 「……ふふ。役者の名前、ですか。無粋なことを。彼らにはもう、この世で名乗るべき名など残っていないというのに。それに主題歌など、あの絶望に満ちた静寂や、断末魔の呼吸音に勝る旋律がこの世にあるとお思いか」


 彼は天井の染みを、愛しい何者かを見つめるような目で見つめ、低く、愉悦を孕んだ声で独りごちた。


 「皆様、勘違いをなさっている。これは虚構の鑑賞ではない。皆様自身の魂が、ゆっくりとこちら側へ侵食されていく過程……その記録なのです。歌など歌っている暇があるのなら、ご自分の背後に這い寄る影の音にこそ、耳を澄ませるべきでしょうに」


 スタッフルームに、微かな、しかし鋭い彼の笑い声が、冷たい空気と共に沈殿していった。


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