孤独視(二)
二階の踊り場。闇の中からぬっと伸びた手が、誠の肩を掴む。
「誠! 探したぞ!」
「拓海……! 無事だったのか」
拓海の顔がアップで映る。
瞳は恐怖で泳いでいるが、口角がわずかに震え、不自然な笑みを形作ろうとしている。
カメラは拓海の背後、低いアングルから二人を盗み見るような位置で固定される。
「拓海、ここの扉を開けるには血が必要なんだ。壁のこれを見ろ」
「……ワタシハ、ダレニモ、キョウユウ、デキナイ? 何だよ、気味が悪いな」
拓海は露骨に顔を歪め、後ずさる。
カツ、カツ、と乾いた靴音だけが、無人の廊下に大きく反響する。
「お前、さっきからおかしいぞ、誠。何なんだよ、その血は」
「おかしいのはどっちだ。お前が提案したんだろ、この肝試し。沙織を利用して、俺を消そうとしたんだな?」
誠の瞳に、怒りの火が灯る。
足元に落ちていた陶器の破片を手に取り、掌に深く突き立てた。
ジュッ、という肉が裂ける生々しい音が、劇場全体を包む。
誠は溢れ出す熱い血を、学生机に叩きつけた。
浮き上がった文字は『ワタシノ、イバショハ、ナカッタ』。
「そんなことより逃げるぞ! 誠!」
拓海が叫び、引き戸を掴んだ瞬間、扉が内側から爆ぜた。
木製の椅子が勢いよく飛び出し、誠の腹部を強打する。
「がはっ!」
誠が床に叩きつけられる。視界を白いチョークの粉が覆い尽くす。
霞む映像の向こうで、拓海が一度だけ手を伸ばしかけ、そして、嘲笑うようにその手を引っ込めるのが見えた。
「悪いな、誠……俺、死にたくないんだ! お前さえいなけりゃ、沙織は俺のモノなんだよ!」
廊下の奥から、淡い白濁色の人影が、慟哭のような重低音と共に滑り寄ってくる。
拓海は誠を見捨て、逃げ去った。
画面は暗くなり、誠の耳元で「ポタ、ポタ」と滴る自らの血の音だけが強調される。




