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怪異館シネマシアター  作者: 弌黑流人


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27/69

孤独視(二)

 二階の踊り場。闇の中からぬっと伸びた手が、誠の肩を掴む。


 「誠! 探したぞ!」


 「拓海……! 無事だったのか」


 拓海の顔がアップで映る。

 瞳は恐怖で泳いでいるが、口角がわずかに震え、不自然な笑みを形作ろうとしている。

 カメラは拓海の背後、低いアングルから二人を盗み見るような位置で固定される。


 「拓海、ここの扉を開けるには血が必要なんだ。壁のこれを見ろ」


 「……ワタシハ、ダレニモ、キョウユウ、デキナイ? 何だよ、気味が悪いな」


 拓海は露骨に顔を歪め、後ずさる。

 カツ、カツ、と乾いた靴音だけが、無人の廊下に大きく反響する。


 「お前、さっきからおかしいぞ、誠。何なんだよ、その血は」


 「おかしいのはどっちだ。お前が提案したんだろ、この肝試し。沙織を利用して、俺を消そうとしたんだな?」


 誠の瞳に、怒りの火が灯る。

 足元に落ちていた陶器の破片を手に取り、掌に深く突き立てた。

 ジュッ、という肉が裂ける生々しい音が、劇場全体を包む。

 誠は溢れ出す熱い血を、学生机に叩きつけた。

 浮き上がった文字は『ワタシノ、イバショハ、ナカッタ』。


 「そんなことより逃げるぞ! 誠!」


 拓海が叫び、引き戸を掴んだ瞬間、扉が内側から爆ぜた。

 木製の椅子が勢いよく飛び出し、誠の腹部を強打する。


 「がはっ!」


 誠が床に叩きつけられる。視界を白いチョークの粉が覆い尽くす。

 霞む映像の向こうで、拓海が一度だけ手を伸ばしかけ、そして、嘲笑うようにその手を引っ込めるのが見えた。


 「悪いな、誠……俺、死にたくないんだ! お前さえいなけりゃ、沙織は俺のモノなんだよ!」


 廊下の奥から、淡い白濁色の人影が、慟哭のような重低音と共に滑り寄ってくる。

 拓海は誠を見捨て、逃げ去った。

 画面は暗くなり、誠の耳元で「ポタ、ポタ」と滴る自らの血の音だけが強調される。


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