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怪異館シネマシアター  作者: 弌黑流人


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26/66

孤独視(一)

 暗転したスクリーンに、古い木材が軋む「ミ、ギィ……」という低い音が、サラウンドスピーカーから重く響く。

 映像が切り替わると、そこには床に伏した蓮見誠の顔のクローズアップ。

 左頬が冷たい板に押し付けられ、鼻腔がヒクつく。ワックスの刺激臭と、鉄の生臭い匂いに誠の瞳が大きく見開かれた。


 ブー、チカッ、ブー、チカッ。


 頭上の蛍光灯が、鼓膜を抉るような電子ノイズと共に明滅する。

 光が弾けるたび、誠の背後の壁に映る影が、巨大な化け物のように不自然な角度で蠢く。


 「……ここは、どこだ?」


 誠が震える手で体を起こすと、カメラは彼の背後にある濃い闇を映し出す。

 サークル仲間の沙織。恋人を気取る拓海。

 三人で廃校へ忍び込んだ記憶が、不協和音のようなピアノの旋律と共にフラッシュバックする。


 ギィ。


 誠が一歩踏み出すと、正面からは誠の荒い息遣いが、背後(後方スピーカー)からは微かな衣擦れの音が忍び寄る。

 誠は喉を「ヒュッ」と鳴らし、必死に口を塞ぐ。

 その視線の先、壁に古いチョークの跡が浮かび上がる。

 『隠れたインクは、血で浮き出る』


 (……血で、浮き出る?)


 誠の思考が、エコーの効いたモノローグとして観客にだけ届く。

 同時に、一週間前の部室の映像がオーバーラップする。

 誠の胸ぐらを掴む拓海の歪んだ笑顔。指先で髪を弄りながら、無関心を装う沙織の冷めた瞳。


 トントン、トントン。


 廊下の奥から、一定のリズムを刻む叩音が確実に近づいてくる。

 逃げ場はない。誠は指先を、教室の引き戸の凹凸に押し付けた。

 爪の間に木の破片が深く刺さり、鮮血が滲み出す。

 その赤が木目に触れた瞬間、血は意志を持つ蛇のように這い回り、文字を成した。


 「……ワタシハ、イマダニ、イツモ、ヒトリ」


 誠がその言葉を口にした瞬間、カメラは背後の闇を急激にズームアウトする。

 そこには、巨大にうねる闇の輪郭が、誠を飲み込もうと迫っていた。


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