孤独視(一)
暗転したスクリーンに、古い木材が軋む「ミ、ギィ……」という低い音が、サラウンドスピーカーから重く響く。
映像が切り替わると、そこには床に伏した蓮見誠の顔のクローズアップ。
左頬が冷たい板に押し付けられ、鼻腔がヒクつく。ワックスの刺激臭と、鉄の生臭い匂いに誠の瞳が大きく見開かれた。
ブー、チカッ、ブー、チカッ。
頭上の蛍光灯が、鼓膜を抉るような電子ノイズと共に明滅する。
光が弾けるたび、誠の背後の壁に映る影が、巨大な化け物のように不自然な角度で蠢く。
「……ここは、どこだ?」
誠が震える手で体を起こすと、カメラは彼の背後にある濃い闇を映し出す。
サークル仲間の沙織。恋人を気取る拓海。
三人で廃校へ忍び込んだ記憶が、不協和音のようなピアノの旋律と共にフラッシュバックする。
ギィ。
誠が一歩踏み出すと、正面からは誠の荒い息遣いが、背後(後方スピーカー)からは微かな衣擦れの音が忍び寄る。
誠は喉を「ヒュッ」と鳴らし、必死に口を塞ぐ。
その視線の先、壁に古いチョークの跡が浮かび上がる。
『隠れたインクは、血で浮き出る』
(……血で、浮き出る?)
誠の思考が、エコーの効いたモノローグとして観客にだけ届く。
同時に、一週間前の部室の映像がオーバーラップする。
誠の胸ぐらを掴む拓海の歪んだ笑顔。指先で髪を弄りながら、無関心を装う沙織の冷めた瞳。
トントン、トントン。
廊下の奥から、一定のリズムを刻む叩音が確実に近づいてくる。
逃げ場はない。誠は指先を、教室の引き戸の凹凸に押し付けた。
爪の間に木の破片が深く刺さり、鮮血が滲み出す。
その赤が木目に触れた瞬間、血は意志を持つ蛇のように這い回り、文字を成した。
「……ワタシハ、イマダニ、イツモ、ヒトリ」
誠がその言葉を口にした瞬間、カメラは背後の闇を急激にズームアウトする。
そこには、巨大にうねる闇の輪郭が、誠を飲み込もうと迫っていた。




