表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪異館シネマシアター  作者: 弌黑流人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/66

深淵からの呼び声

 呼びかけに応じるように、暗い廊下の先から異質な音が聞こえ始めた。


 カサ……、シュルリ……。

 小刻みに布を床に擦り合わせながら、何かがこちらへ伝い寄ってくる。二人は呼吸を止め、心臓の鼓動さえも漏らさぬよう、暗闇の奥から現れる「主」を待った。


 やがて、影の中から滑り出してきたその姿を目にした瞬間、二人は絶句した。

 そこには、真っ黒な墨をぶちまけたかのように顔が塗りつぶされた、着物姿の女性が立っていた。人ならざる者の気配を色濃く漂わせるその姿に、身体は本能的な拒絶反応で激しく震える。しかし、葉子は溢れ出しそうな涙を堪え、その怪物へと問いかけた。


 「貴女は……私たちの娘、結衣なの? もしそうなら、私たちのことがわかる? 私は葉子。こちらが貴女のお父さんの達臣よ。私たちに見覚えは、ない?」


 続いて達臣も、失われた記憶を取り戻そうとするかのように必死に言葉を繋ぐ。


 「どういうわけか、僕たちの生活からは娘がいたという痕跡も、記憶も全て消え去っていた。だが、あの映画を観てからというもの、胸に穴が開いたような喪失感が消えないんだ。居ても立ってもいられなくて、ここまで来た。……君は、私たちの娘なんだね?」


 二人は、顔のない「監視遺物」を真っ直ぐに見つめ続けた。沈黙が永遠のように感じられたその時、怪物の空洞のような内側から、くぐもった声が漏れ出した。


 『……お、お父、さん……お母、さん……会い、たかっ、た……』


 その懐かしくも悲しい響きに、二人の顔には歓喜と安堵が広がった。しかし、再会の喜びが言葉になるよりも早く、異変が起きた。真っ黒な墨で塗りつぶされていた怪物の顔が、音もなく巨大な渦となって膨れ上がったのだ。


 「結衣……!」


 叫ぶ暇も、逃げる暇もなかった。二人は抗う術もなく、頭上から覆い被さる暗黒の深淵へと一気に飲み込まれていく。


 『……これ、で……これから、は……ずっと、いっしょ、……に、……いら、れる……ね……お父、さん、……お母、さん……ふふ、……ふふふ』


 真っ暗な闇の底で、少女とも怪物ともつかぬ声が、愉悦に震えながらいつまでも響き渡っていた。それは救いなのか、あるいは永遠の囚われなのか。支配人が描いた筋書き通り、彼らは自分たちの「真実」の一部となり、新たな物語の素材として静かに消えていったのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ