沈黙の規約
支配人は影の中へと退く足を止め、何かを思い出したかのように、あるいは念を押すように再びマイクを握り直した。スポットライトの光線が彼の横顔を鋭く削り取り、その表情にいっそうの険しさを与える。
「上映に先立ちまして、当館から大切なお願いがございます。快適な鑑賞――いえ、皆様の安全な鑑賞のため、いくつかの禁止事項を設けさせていただいております」
彼は白手袋に包まれた細長い指を立て、静かに、だが逆らうことを許さない重圧を持って言葉を継いだ。
「まずは場内での撮影、録音行為。これは当館の資産に対する重大な侵害とみなします。次に、上映中の私語、および食べ物の摂取も厳禁とさせていただきます。……当館の演目は、五感のすべてを研ぎ澄ませて味わっていただくもの。咀嚼音や余計な雑音は、恐怖という名のご馳走を台無しにしてしまいますから」
支配人は一度言葉を切り、手元にある蓋付きの飲料容器を指し示した。
「なお、お飲み物に関しましては、蓋の付いた容器から直接口を付けていただくものに限り、許可いたしましょう。ストローの使用は、飲み終わり際に耳障りな音を立てる恐れがあるため、当館では一律に禁止させていただいております。一滴の水分、一瞬の静寂に至るまで、当館の管理下に置いていただきたい」
支配人の氷のように冷ややかな視線が、観客のポケットや鞄を透視するかのように動く。
「最後にもう一点。スマートフォンの着信音はもちろんのこと、マナーモードによるバイブ音も響かせぬよう、設定をご確認ください。静寂を切り裂く不快な振動音は、時に予期せぬ『干渉』を招く恐れがございます。……以上の規約、くれぐれも遵守いただけますようお願い申し上げます。万が一、これらをお守りいただけない不心得者がおいででしたら、当館といたしましても、それ相応の対処をせざるを得ませんので」
支配人の口角が、暗がりのなかで不吉なほど深く持ち上がった。それは笑みというよりは、獲物を前にした捕食者の歪みに近かった。
「それでは、間もなく幕が上がります。どうぞ、最後の一瞬まで目を逸らさずにご覧ください」
パチン、と乾いた指を鳴らす音が響くと同時に、スポットライトが消えた。
劇場を完全な闇が塗り潰す。
直後、地を這うような唸りを上げる重低音と共に、銀幕が怪しく明滅を始めた。




