開演の誘い
客席の照明が音もなく落とされ、劇場は完全な静寂に支配された。
ただ一つ、無機質な銀幕の前だけに鋭いスポットライトが落ち、そこに一人の男が立っている。
支配人、黄泉野完結。
彼はゆっくりとマイクを口元へ寄せた。低く、だが鋭く通る声が、スピーカーを通じて観客の鼓膜を震わせる。
「ようこそ、怪異館のシネマシアターへ」
その声には、歓迎とは裏腹の冷ややかな響きが混じっていた。
「私は当館の支配人を務めております、黄泉野完結と申します。以後、お見知りおきを。……さて。当館へ足を踏み入れたということは、皆様方は、骨の髄まで響くような恐ろしい映像を求めておいでだ。左様、相違ございませんね」
支配人は、最前列から最後列までを射抜くように、ゆっくりと視線を巡らせた。暗がりに並ぶ観客たちの顔が、銀幕から漏れる微かな光に照らされて、まるで死人のように青白く浮かび上がる。
「もし、万が一にでも、臆病風に吹かれた方がおいででしたら、今しがた潜られたその扉から速やかにお帰りください。その際は代金を全額返金いたしましょう。当館で上映する品々は、なにぶん刺激が強うございます。心臓の弱い方には、到底お勧めできるものではございませんので」
劇場に沈黙が降り積もる。だが、席を立つ者は一人としていなかった。支配人はその様子を眺め、満足げに口角を上げたようだった。
「……ほう、どなたもお立ちにならない。それは重畳。私と致しましても、この身の毛もよだつ『恐怖』を共有し、共に味わえる方がこれほどおいでとは、誠に恐悦至極に存じます」
彼は一度言葉を切り、背後にそびえ立つ巨大なスクリーンを指し示した。
「当館では、皆様の飽くなき知的好奇心を満たすため、毎月一本、選りすぐりの新作をお届けして参る所存です。それでは、記念すべき開館第一作目の上映作品を紹介いたしましょう。演目は『飢餓残滓』」
支配人が静かに一歩、闇を纏うように影の中へと退く。
「間もなく幕が上がります。どうぞ、最後の一瞬まで目を逸らさずにご覧くださいませ」




