監視遺物(九)
真希が一週間後に屋上から飛び降りた葬儀の席。カメラは、弔問客の中で一人、無表情に前を見据える結衣の顔を、群衆の隙間から盗み見るように捉える。
(……私は、何も見てない。何も、知らなかったんだ)
その歪んだ独白を最期に、映像は現在の「落下」へと回帰する。
視界の端。屋上の縁に静かに佇む人影。和装に身を包んだ、あの顔のない監視者。結衣は空中で、その存在と正対する。
(……そうか、あなたは。罪を……監視する……遺物なのね)
ようやく正しき名が、剥き出しの真実として脳裏に刻まれる。沈黙を買い続け、秘匿の中に逃げ込んだ者に与えられる永遠の役職――「監視遺物」。
落下の風切り音が「ヒョオォォ」と吹き荒れる中、サラウンドスピーカーが地を這うような低い重低音を響かせる。
【ヒ ソ メ。】
【オ ト タツ ナ。】
【ワ タ ス ナ。】
ドサッ。
画面が激しく揺れ、衝撃と共に暗転する。
不自然な方向に折れ曲がった結衣の指先が、最期にピクリと動くのをクローズアップ。激痛は一瞬。口の中に広がるのは、鉄の味ではなく、ドロリとした墨の苦味だった。右手首の痣が、焼けつくような漆黒の冷たさを放ち、静かに発光する。
結衣の命が完全に消えた瞬間、カメラはゆっくりと天を仰ぐように引き、漆黒の闇に包まれた劇場を深い静寂が支配する。
その直後、画面中央にまるで古い紙へ筆を叩きつけたような、生々しく禍々しい赤い墨の飛沫が走る。滲み、滴る鮮血のような色が、逃れられぬ罪の刻印としてスクリーンに力強く書き殴られる。
『監視遺物』――完
その文字が浮かび上がると同時に、リアスピーカーからは「ギー……コォ……」というあの井戸の滑車音が、かつてないほど巨大な音量で鳴り響き、観客の背後から闇を引きずるようにしてブラックアウトする。




