監視遺物(八)
一年前。あの日の夕暮れ。
カメラはセピア色に沈む美術室を、埃が舞う光の筋と共に映し出す。第2棟、3階。窓の外からは、遠く3年生の補習の声が微かに響くが、室内は耳が痛くなるほどの静寂に包まれている。キャンバスに向かう結衣と真希。
「結衣、トイレに行ってくるね」
そう言って席を立った真希の背中を、カメラは少し離れた位置から、予感めいた静止画のように捉える。時計の針が刻む「カチ……カチ……」という音が不自然に増幅され、15分の空白を強調する。
結衣は立ち上がり、美術室の奥へと歩を進める。準備室の扉がわずかに開き、その隙間から漏れる薄暗い光をカメラが覗き込む。
そこにあったのは、凄惨な光景だった。
狭い準備室の床。真希は上級生の男子生徒に背後から羽交い締めにされ、自由を奪われていた。捲り上げられた制服、剥き出しの太腿。無理やり股を開かされた真希の顔がクローズアップされる。彼女の口は男子の手で塞がれ、声にならない悲鳴が、鼻をすする音と、激しい摩擦の音に掻き消されている。
「ズブッ、ズブッ」という、生理的な嫌悪感を催す湿った肉の音が、リアスピーカーから逃げ場のない生々しさで観客を包囲する。男子生徒の腰が、獣のような規則性で激しく打ち付けられるたび、真希の瞳から溢れた涙が床に落ちる。
隙間からそれを見つめる結衣の瞳が、激しく左右に揺れる。カメラは彼女の喉元を捉え、空気を飲み込む「ゴクリ」という乾いた音を強調する。
(……助けなきゃ。誰かを、呼ばなきゃ)
センター・スピーカーからエコーのかかった震え声が漏れる。だが、カメラは結衣の足元が、自ら一歩後退する様を映し出す。廊下の向こうには人がいる。叫べば届く。しかし、彼女の震える指先は自分の口を強く塞ぎ、呼吸音さえも殺した。
自分が関われば、自分も汚される。その醜い防衛本能が、友情を瞬時に塗りつぶした。結衣は踵を返し、音を立てないよう、幽霊のような足取りでその場を去る。背後では、親友の尊厳を砕く音が鳴り続けていた。




