↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生きる亡霊にされた王女が何かを取り戻す話  作者: 佐屋 理由


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/16

9 意外な事実

 途中、落雷を聞いて慌てて駆けつけて来た騎士達にミアの回収をお願いし、屋敷に戻ったセルマはランに事情を説明する。

 ランはとりあえず元からの屋敷の住人を執務室へと集めた。ただリックは多忙なので除外である。


「嘘でしょう」

「嘘だよねえ」


 セルマの話を聞き終えて、ランとピートは同時に言った。


 執務室に集合したセルマ達は、椅子にも座らず机を取り囲むような形で顔を合わせている。

 ランだけがその手にペンを持っていつでもメモを取れる体勢になっているが、暗殺と言う言葉を聞いた一瞬だけそのペンがミシリと音を立てたような気がする。けれどすぐに平静に戻った。


「暗殺そのものはないとは言いませんが、その実行をあの者が託されたという点については信ぴょう性に欠けています。セルマ様を追い出す為に必死に考えた脅し文句としか思えませんね」

「だよねえ。ミアちゃんの実力は知ってるけど。例え寝所に潜り込めたとしたって無理だよ」


 彼女がユノに対抗できるだけの人物だったのか、ミアをあっさり行動不能にしてしまったセルマは疑問に思っていたのだが、どうやら心配は無用だったようだ。

 軽くピートを睨みつけてから、ソフィアが発言する。


「あの令嬢が本隊とは限らないではないですか。どこぞに一部隊が控えているのかもしれませんよ?」

「ないと思うなあ。上司の命令って言ったんでしょ? じゃあ魔術騎士団が関わってるってことになるけど……あそこの人達みんなユノ様に心酔してるからね? ユノ様の暗殺命令なんて押し付けられたら従うどころか全員こっちに逃げ出してユノ様が王様の国を作りかねないくらいなんだから」

「まあ……そのような方々が……」


 こんな話の最中だが、ユノが部下達から愛されていたと知って嬉しくなってしまう。


「そもそもダイデン殿下が関わっておられる時点でないでしょう。ああ見えてあの方はユノ様贔屓なのです」

「ああ……それはそうね。あの方は側室様のお子様の中では唯一ユノ様と親交がありますし」


 ちなみにダイデン達の母はユノ達の母の死後に正妃へ繰り上がったらしいのだが、ソフィアはいまだに彼女を側室と呼ぶのを止めない。ユリアへの忠義ゆえだろうとセルマは思っている。


 そうして否定の材料が出揃った所で、セルマは先程の自分を振り返る。


「では……私はすっかり騙されてしまったのですね……嘘を信じてミア様に過剰な攻撃をしてしまいましたわ……」


 やり過ぎだった。がっくりと肩を落とせば同情の目が集まる。


「それは自業自得だから気にしなくていいよ」

「脅しとはいえ殺意を表明したのだから殺されても仕方ありませんね」


 そうしてしまわなくて良かった、と心から思う。

 ホッとしているセルマにソフィアが顔を向けた。


「ですがセルマ様。これを機会にお伝えしておきますね。……なんやかんやと理由をつけてユノ様を排除せんとする輩は大勢いるのです。今回が違ったというだけで、くれぐれも油断されませんように」

「そう……なのですね」


 ユノとの結婚が悪条件だと言われていた話の中にもそのような内容があったかもしれない。


「ユノ様はそのお血筋から第一皇子で皇太子であられるレオ殿下の派閥と認識されております。なのでユノ様が魔術師として揺るぎない地位を築かれることを苦々しく思う者達が存在するのですよ。能力では決して叶わないからとそれはそれは醜く浅ましい罠でユノ様を貶めようとして……!」

「ユノ様が、そのようなご苦労を……」


 知らなかった。王宮で策略に足を取られるユノを思うと胸が痛くなる。


「陛下も皇太子殿下も、ユノ様をそういう諍いから逃す為に皇籍を抜けることを推奨して下さったのです」

「そうしたものに煩わされるより、魔術の研究に専念された方がよほど国の利になるとのお考えもありそうですが」


 ランが付け足す。


「ですので……セルマ様のご身分も、そのような者達に新たな言い掛かりを与えるものになってしまうかもしれない、とダイデン殿下は案じられたのでしょう」

「でもさあ、そういう人達の思惑はユノ様がここに引っ込んだことで一掃されたんでしょ? これからはそんなに警戒しなくてもいいんじゃないかなあ」

「そう思いたいのは山々ですけれどねえ」


 うーん、と頭を突き合わせる。

 やがてランが首を振った。


「なんにせよその辺りはあの令嬢が目覚めたら確認しましょう。まだ何一つ確証はありませんし」

「そうね、こういう時こそ研究所の方々の出番ですよ。……セルマ様。今後もこのようなことが起こるでしょう。その時は、皆で知恵と力を出し合って、ユノ様とこの領地の平穏を一緒に守っていきましょう」

「はい!」


 自分がただ守られる側に数えられなかったことが嬉しくて、セルマは元気よく返事をしてしまった。 


 そこで手を挙げたのはピートだ。


「ところで、ちょっと話は変わるんだけど知りたいから聞いていい? ……なんでセルマさんの国って戦に負けたの」


 その質問にはランもソフィアもセルマを注目する。おそらく先程の雷の件を差しているのだろう。そう解釈したセルマは説明する。


「隣国に襲われた際には神聖術を使う私が行方不明でしたし、いたとしてもさすがに一人で大軍を退けるのは不可能でしたでしょう」

「一人? 神聖術を使えるのって一人しかいないの?」


 意外そうなピートに、はい、とセルマは頷いた。


「私の国の神聖術は、血は王家に、知識は神殿に分けられております。それを繋ぐのが一代に一人の姫巫女の存在でした。それは土地と契約した際の決まりなのです」


 セルマはそっと自分の胸に手を当てた。


(今ならわかるわ。……ファンセンチは、自分が神聖国であることを過信していた。我が国の血を取り込むことを名誉と思う者達はあっても、まさか滅ぼそうとしてくる相手がいるなんて考えてもみなかった)


 国内でも、姫巫女を増やすかどうかという議論は建国以来何千年も続けられてきたと言う。

 けれど歴代の王達は結論を否とした。

 あるかどうかわからない他国の脅威よりも、神との約束を違えて恩恵を失ってしまう方を恐れたのだ。


「そういう事情かあ。……ふうん。なんかちょっともったいないよね。もしも姫巫女が大量にいたら、大陸を平定してたのは我が国じゃなくセルマさんの国だったかもしれないね」

「いえ、それはありえません。そもそも神聖術はこの土地でしか使えないのです」


 セルマの言葉にピート達は目を見張る。


「え、セルマさんの力ってこの場所限定なの?」

「はい」


 セルマが頷けばピートはひどくしょぼくれた顔をする。


「うわあ……なんかそれってものすごく惜しいような……あんなに凄い力なんだから、こう、世界中の作物の育たない土地とかで使えたら色々助かっただろうにねえ」

「ファンセンチの見解では、おそらくかつては各地で土地の神々との契約はされていた筈なのに、我が国以外の人間側がいつのまにかそれを忘れてしまったのだろう、と言われていましたわ」


 マイカがファンセンチにしたように。忘れた者達が知恵を持つ者達を滅ぼしてしまったのだろう。

 これを聞いたピートは目を瞬かせた。


「え? じゃあ今からでも土地の資格を持つ人を探し出したらどこでもセルマさんみたいなことが出来る?」

「かも、しれません」

「! 僕ちょっと図書室で古代史を掘り起こして……」


 飛び出しかけたピートはランに襟首を掴まれる。後にしろ、と言ってから、ランはセルマに振り返った。


「なんにせよ。それは我々以外の人間にはあえて言わない方がいいでしょう」

「わかりました。そうしておきます」


 セルマ的にはこの土地を出る予定はないので心配いらない気もするが、気を付けて悪いことはないのだろう。

 そこにソフィアが付け足した。


「そもそも今後のセルマ様は平民を名乗ると決まったのですからその機会もないですしね」


 言われてハッとする。

 ユノからそのような指示を受けたのを、すっかり忘れてしまっていた。


「! そうでした、ごめんなさい、さっき使ってしまいました、後でユノ様にミア様の記憶を消して貰わなければ……」


 セルマが大慌てで謝罪すれば、ソフィアとランが穏やかに首を振る。


「気にする必要はありませんよ。あれだけですぐにセルマ様の素性には結びつかないでしょうからね」

「なんなら雷に打たれて悪夢を見たのだろうと誤魔化しておきますか」


 頼もしい母子は簡単に言って頷き合う。


 すると、ちょっと待って、と怪訝な顔のピートが再び手を挙げた。


「ねえ。セルマさんの力って秘密にするの? ええと、僕は聞いてないんだけど?」

「貴方はさっきまで研究所に籠っていたじゃないですか。なので今伝えましょう。ユノ様と結婚するにあたって陛下の心情をよくする為、セルマ殿は道中で拾った平民とすることになりました。令嬢と騎士達には既に対処済みです」

「ピートさん、申し訳ありません、今後お話を合わせて下さい」


 二人の話を聞き、ちょっと待ってちょっと待ってとピートが非常に焦った様子でその場でくるくる回り出す。

 それから。この上なく申し訳なさそうに三度目の手を挙げる。


「あのう……ごめん、今まで言ってなかったんだけど。実は僕、マイカ領の監視を任されてて」

「……はあ⁉」


 ランもソフィアも声を上げた。セルマはただただ驚く。

 ピートはぱたぱたと手を振り回した。


「監視って言うか! 現状報告? 皆には知らせないで王都にレポート出してたんだよね! でもユノ様に疚しいことなんてないから問題ないだろうって思って引き受けて! ほら僕、君達と違って王都に家族がいるからさ! 無下に断れなかったし気分は良くないけど悪いこととは思わなかったし……」

「ピート! それは貴方が国側の内通者だという告白でいいのか!」

「いやだから隠すことがなければいいかなって、内通者とかそんな裏切り者みたいに言わないでよう!」

「ラン! 今はそれどころではないでしょう」


 ピートにつかみかかるランをソフィアが軽々と引きはがした。が、代わりにソフィアがピートの胸倉を捩じる。


「それで? セルマ様の件も既に国に報告済みなのですね? 何を? どこまで?」

「ええと、セルマさんの素性と神聖術のこととユノ様が気に入ってるってことです。特にユノ様周りの人間関係については変化があり次第逐一知らせろって言われてたから……!」


 ソフィアはピートを突き放し、ランを振り返る。


「ユノ様にお知らせを! 陛下に虚偽の報告をしたと言う実績を残してはなりません!」

「間に合うといいが、」


 幸い執務室ということもあって、ランはすぐさま伝達用の魔道具を立ち上げる。ソフィアが困惑するセルマに教えてくれる。


「これはユノ様が王家からの信頼を失ってしまうかどうかの話なのです。ユノ様の平穏は、陛下からの信用と愛情にかかっていますからね」

「陛下からの……」


 おそらくは。大陸を平定する力を持ったユノが自由を得る為にはその条件が必須だったのだろう。

 人の心など危うい。権力者には少しでも疑いを残してはいけないとセルマも動揺する。


「直接通信は無理ならともかく文字伝言だけでも残して……」


 その時、ノックの音がした。

 ランの動向を気にしながらソフィアが扉を開けると、そこに騎士の一人が立っていた。


「ベイル殿、サンド男爵令嬢を診ている魔術師殿から貴方を呼んでくるようにと頼まれました。来て頂けますか」


 ベイルとはピートの家名だ。

 それを聞いたセルマはさあっと青褪めた。


(まさか、ミア様の容態が変わられた……? 三百年ぶりですもの、加減が効かなかったのかもしれない……!)


「っ……わかった。すぐ行くよ。皆、後で戻って来るからそしたらまた話そう」


 こちらを気にしながらも仕方なく同行を決めたピート。そんな彼が出て行った扉と、見届けて連絡を再開するランの両方を交互に見る。


(落ち着くのよ。まずはユノ様と今後について相談して、その後でミア様の様子を見に行きましょう)


 眉間に皺を寄せながら、無言で魔道具を操作するランの様子を伺う。

 するとソフィアがぽつりと言った。


「ユノ様がランからの緊急通信に何一つ返信されないなんて……よほど取り込んだ状態なのでしょうね」

「な、何か危ないことはされていませんよね?」


 一瞬、武力で王都を制圧するユノの映像が頭に浮かんでしまう。


「そのようなことはない筈です。お話合いが目的と聞いておりますので……」


 そこで再びノックがある。先程とはまた別の騎士が立っていた。


「サンド男爵令嬢がセルマ殿を呼んでいるそうです」


 セルマは息を呑む。

 現在、セルマの身分は平民となっている。となれば、貴族令嬢に呼び出されたと言う事実は行くかどうかの確認ではなく上からの命令だ。

 ソフィアもそのことに気が付いたのだろう。ランに一言言ってから、セルマに付き添って部屋を出る。


(と言うか、どういうことなのでしょう。容態が変わって私が呼ばれる? まさか死ぬ前の恨み言でも?  それとも、私がやったのだと告発される流れかしら……)


 思い浮かぶ様々な最悪の事態に汗が滲む。そんなセルマの背にソフィアがそっと手を当てて励ましてくれた。二人は目と目を合わせてから歩き出す。


 現在ミアがいるのは屋敷に隣接された魔術研究所の方だった。そこが医療所にもなっていると聞いた時にはセルマは大いに不安になったが、必要な時に技術を提供するのは領民の義務となっているので大丈夫だとユノから教えて貰っていた。


 屋敷の玄関を出たセルマは、そこでふと足を止める。

 二人を案内していた騎士が急に振り返って来たからだ。


「? どうしましたか?」

「! セルマ様!」


 何かに気付いたソフィアがセルマと騎士の間に割り込んで来た。しかし、騎士が腕を一振りすると、ソフィアはその場に崩れ落ちる。


「ソフィアさ……!」


 そんな彼女を支え起こそうとしたセルマもまた、騎士の手が体に触れた途端に体中から力が抜ける。

 遠くなる意識の中で、誰かが自分を荷物のように抱え上げているのを感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。