世話の焼ける疲労感
一騒動を経て、練習を再開した4人。晴天の下で練習に励む生徒達はそれぞれ楽しげに友人達と切磋琢磨している。リレー以外の競技に参加する生徒達も各々がやるべきに取り組んでいる。
そしてかの4人といえば、朝陽が加わってからさらに調子が上がっているようだった。
「朝倉!」
「はい!」
特に未来と朝陽は息がぴったりと合っている。美鈴の家へお見舞いへ向かったあの日の連携は嘘のように、タイミングが噛み合っている。
足の速度は朝陽が僅かに上回っているが、何回も試行を繰り返し、ベストなバトンパスのタイミングをお互い感覚的に把握しつつあった。
もちろん、朝陽と同等の速度を誇る美鈴、クラス1位の速さを打ち出す和樹もバトンを渡す技術、バトンを受け取るタイミングなどに磨きをかけていた。
4人が順番にバトンを繋ぎ、その身体に熱を灯して汗が滴る。朝陽も3人と徐々に馴染んでいっているのか、肩の力も少し抜けたように表情を和らげることも。
しかし初夏の日照りにダウン寸前の存在も。我らが芹沢未来、彼は慣れない疲労感と共に呼吸が徐々に乱れていた。日常的に運動することの少ない彼は早くも脱落しかけていた。
「未来、ちゃんと水飲んでるか?」
見かねた和樹が彼の肩に手を置く。未来は振り返って自身の、黒光りする水筒を掲げる。水筒のずっしりとした重みと妙に中身の無さが伝わる質量が、彼の腕を通して伝わってくる。
「もう水無くなった……水道の方に行ってくるわ……」
度重なる練習の疲れが彼の足取りを乱す。和樹は慌てて彼の腕を掴み、重心となって支える。
「水取りに行ったら一回休もう。ちょっと危ないぞ」
「うん、未来にしては結構やったよ。一旦休も?」
「……ん」
和樹と美鈴の言葉に静かに頷いた未来は汗を拭う。朝陽も未来の疲弊気味な様子を前に心配になったようだ。
「芹沢さん、ちょっとそこでじっとしててください」
そう言って彼女は木陰に置いていたタオルと未開封のペットボトルを手に取る。ボトルのキャップを外し、タオルに水をかける。淡い黄色のタオルにはひんやりとした冷たい水分が広がり、彼女は迷わず未来の首にそれを当てる。
「っ!」
少しばかりボーッとしていた彼は不意に首元を襲った水気のある何かにビクッと肩を震わせる。
「冷たいって、朝倉」
未来は力のこもらない瞳で朝陽を睨みつけるが、首から全身へ心地よい涼感が広がったのか、顔に浮かぶ表情も僅かに和らぐ。
「どうせならみんなで水を確保しに行きましょう」
朝陽の提案に美鈴と和樹は顔を見合わせ、頷き合う。
「だな。このまま未来を1人で行かせたら、遭難してもおかしくないし」
「同意同意! 私もそろそろ水筒の中がからになりそうだし、みんなで行こ!」
朝陽は水をたっぷり含んだ自身のタオルを未来の首にかける。
太陽の光は燦々と照っているが、未来の体には十分に爽涼が巡る。
「朝倉、ありがとな」
未来は顔を上げて、先を歩く朝陽の背にそう言葉を飛ばす。朝陽はその言葉に振り返ると呆れたような、それでいて慈悲を込めた目で微笑む。
「ほんと、世話が焼ける人です。こっちは貸しを作ってますから」
そう言って前方へ向き直り、足を運び直す。心なしか、足取りが弾んで見えるのは未来達の見間違いでは無かっただろう。
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