ハナチョン
そんなこんなでバトンパスの練習を始めた未来、朝陽、美鈴、和樹の4人。燦々と照りつく陽の光を浴びながら、バトンが手元にやってくるのを待つ。
先陣を切った未来が、ちょうど空きのできたレーンを駆け抜けていく。彼の左手にはクラスカラーである淡い青色のバトンが握られていて、プラスチック特有の軽い質量が伝わってくる。
グラウンドに敷かれたトラックの半周先で待つ待つ朝陽は未来が向かってくるのを見守る。出番が迫る間際まで高まり続ける、この瞬間特有の緊張感が彼女の胸の鼓動を加速させている。
いよいよ未来との距離が10メートル程になる。朝陽は前方へと顔を向け、脚に力を溜める。近づいてくる彼の足音を頼りに、ついに一歩踏み出した……と思ったその時、事件は起きた。
「あっ……」
朝陽へバトンを託そうと腕を伸ばした未来は、平坦な地面であったにも関わらず、爪先の行方が悪かったのか、思いきり身を前へ傾け、地面に倒れ伏した。
彼が倒れ込んだ所からは砂埃が僅かに舞い、朝陽に手渡されるはずだったバトンは音を立てることなく地面に転がる。
一瞬の間に起こった小さなハプニングに朝陽、美鈴、和樹、その他これに気づいた生徒数十名が呆気にとられる。練習に励む生徒達の喧騒をよそに、確かな静寂が生まれる。
目の前で起きたアクシデントに声を出すことさえ無かった朝陽だが、我に返ると小さなため息をつき、倒れる未来に歩み寄る。
一方倒れていた未来は近づく足音に顔を上げる。彼の見上げる先には慌てることもないと言わんばかりに落ち着きを見せる朝陽がこちらを見ている。
朝陽視点でも、顔を上げた未来の惨状が目に入る。倒れた時に被った砂が顔にくっついていて、体育着にも見た者に転んだことが否応無しに伝わる砂の模様が出来上がっていた。
そんな彼に朝陽はスッと手を差し伸ばす。
「大丈夫ですか?」
その一言に背中を押されたの如く、未来は彼女の手をとって立ち上がる。彼の身体から砂が溢れ落ち、噴煙が微かに巻き起こる。
「悪いな、朝倉」
彼はバツが悪そうに珍しく視線を泳がす。彼の言葉を受けた朝陽は、気にしていないと言いたげに首を横に振る。そしてそっと彼の顔に向かって手を伸ばす。
「あの、付いてますよ」
彼の鼻先についた砂を優しく指先で払い取る。
「っ……!」
朝陽からの慣れない距離に未来は思わず顔を背ける。
一方朝陽はというと、指先についた砂をパッパッと振り払い、困ったように眉を下げながら微笑む。
「リレーで転ぶなんて、本番当日に起こるものだと思っていたのですが。流石というべきか、芹沢さんらしいというか」
朝陽の言葉に未来は耳を仄かに赤く染める。ここまで羞恥心、気恥ずかしさに揺らされるのは慣れていない。彼は小さな声で「ありがと」と呟き、朝陽はそれに小さく頷く。
もちろん和樹と美鈴はニヤニヤしながら見守っていた。
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