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地獄耳な子供

 「おーい! 朝倉さん頂いてきたよー!」


 朝陽を引っ張りながらもう片方の腕を大きく振る美鈴。今日も変わることのないそんな彼女の姿を、未来と和樹の瞳が捉えていた。目の前まで駆け寄ってきた2人に和樹は苦笑を浮かべる。


 「はいはい。お疲れ様って言うべきは分かんないけど、とりあえず美鈴の機嫌が治ったのはいいことか。ごめんな、朝倉さん」


 人騒がせな美鈴の長年の幼馴染として、かつ彼氏として謝罪を挟む和樹に美鈴は軽く頭を下げる。


 「あ、いえ。ここまで直球に求められるのも、案外気持ちがいいものですから」


 こちらもまた、少し気恥ずかしそうに苦笑いする朝陽は顔を上げた。


 「よーし、じゃあ始めよう!」


 彼女の掛け声に未来が口を開く。


 「なあ、朝倉の順番はどこに入れる?」


 その言葉に3人が顔を合わせる。


 「そうだなぁ。確か朝倉さんって美鈴とタイムが一緒だったんだよな?」


 和樹の問いかけに朝陽は頷く。美鈴は無邪気に飛び回りながらこんな提案を打ち出す。


 「ならさ、未来、朝倉さん、私、和樹の順番でやってみない? 私と朝倉さんはタイム同じだから順番は前後してもいいと思うけど、これならタイムが遅い順にどんどん速くなってくるからさ!」

 「事実だけどもっと言い方無かったのか」


 この中では1番タイムが下の未来はボソリと呟く。和樹は彼に駆け寄って脇腹をつつきだす。一方、未来の独り言を耳にした朝陽は美鈴に声をかける。


 「あの……」

 「ん? 朝倉さんどうかした?」


 美鈴は朝陽の視線を追う。彼女はどうやら和樹とつつき合っている未来を見つめているようだ。


 「芹沢さんって意外と子供っぽいですよね」


 朝陽が何のためらいもなくそんなことを言い出し、美鈴はキョトンと目を丸くさせた後、思わず吹き出す。


 「あはは! そっかそっか、朝倉さんには未来がそう見えるんだね」

 「あ、いや、決して馬鹿にしている訳では……」

 「それのどこに弁明するところがあるんだ?」


 しっかりと彼の耳に届いていたのか、未来はちょっかいをかけてくる和樹の手を受け止めながら歩み寄ってきた。


 「あ、芹沢さん。聞こえていたんですね」

 「ああ、バッチリ。正直、もう高校生だから複雑ではあるがな」


 未来が和樹の頭にデコピンを喰らわせ、近くに置いておいたバトンを拾い上げる。


 「ホントだったら足の速さで黙らせたいところだけど、俺が1番遅いしな」

 「おいおい、元気出せよ未来。な?」


 肩を組んでくる和樹に未来は顰めっ面で、「熱苦しい」と苦言を零すが本気で拒絶はしないあたり、彼にとっても嫌なものではないのだろう。


 しょうもないいざこざが終わりを迎え、4人は遂にバトンパスの練習を始めようと、改めて軽く話し合いをする。

 

 そんな彼らの姿を青い空に浮かぶ太陽が見つめている。



 

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