意外な演技
美鈴達があーだこーだ言い合う一方、朝陽は普段なら昼食を共にするグループで、既にパタンパスの練習を始めていた。
「はい、朝倉さん!」
バトンを片手にこちらへ向かってくる女子生徒の1人からタイミングよくバトンを受け取る朝陽。彼女はそのまま前方へ勢いよく駆けていく。
「やっぱり朝倉さん相手だとやりやすいなぁ」
「走ってるところもすんごい綺麗……」
バトンを繋げた女子生徒やそれを見守るグループのメンバーが感嘆を漏らす。
長いブラウンの髪を靡かせ、涼しげな顔で走り抜ける。そんな朝陽はある程度走り切ると、ゆっくりとスピードを落としていき、静かに歩き始める。
ふぅと一息つく彼女の頬には額から垂れる汗が流れる。呼吸を整えようと落ち着く朝陽は視界に広がる光景を一瞥する。しかし、落ち着こうとする彼女の息遣いとは裏腹にその視線はどこか忙しなく、行く宛がないように泳いでいる。
視線を泳がせる朝陽が汗を滴らせるその背後から元気に駆け込んでくる存在がいた。
「おーい! あーさくーらさーん!」
グラウンドに響く、弾けるような声。存在感の際立つその声を朝陽が振り向く。
「あ、溝呂木さん。どうも……」
朝陽は小さく会釈を返すが美鈴は勢いを止めることなく飛び込んできた。
「どもども! 朝倉さんこっちおいでよ!」
美鈴はそう言いながら朝陽の身体を抱きしめる。
「あ、ありがとうございます。でも私、こちらの方でもう……」
その言葉に美鈴は数秒動きを止め、そっと朝陽の身体を解放する。
「そっかぁ。せっかくなら私達と一緒に練習してもらおうかなって思ってたんだけど……仕方ないね。ごめん」
そう言って小さく笑みを浮かべる美鈴は和樹達の待つ元
へと歩み始めた。普段とはどこか異なる、少し寂しげな背中。そんな後ろ姿を見つめる朝陽。彼女は拳をギュッと握りしめる。美鈴のトボトボと歩く姿を目にしてしまうと、胸が締めつけられるようだ。
彼女は普段属するグループのメンバーへと一度視線を向けた後、再び美鈴の背中へ向き直り、彼女の元へ走り出す。
「あ、あの!」
少し声を張り上げる朝陽の呼び掛けに美鈴はゆっくりと振り返る。
「……ん?」
美鈴の瞳はまるで何か期待を込めるように潤んでいる。熱い視線を受け止めながら、朝陽は一歩踏み出す。
「もし私でいいのなら、是非お相手お願いします」
朝陽の踏み出した一言を受けた美鈴は静かに見つめ返す。しばし沈黙が2人の間に流れ、ついに美鈴は一歩朝陽へと足を運ぶ……と思いきや、一気に駆け出して朝陽へ再び抱きつく。
「やったぁー! んじゃ、こっち来ようかー!」
先程とは打って変わったように満面の笑みを浮かべる美鈴。彼女はグイグイと朝陽の腕を引っ張る。そんな美鈴の変わりように朝陽は驚きながらも、目を細めて口を開く。
「まるで演技のようですね。お見事というべきか……」
「あはは! まあ良いじゃん! あ、朝倉さんこっちにもらうからー!」
遠くのグループに向かって美鈴は腕を大きく振る。そんな平常運転とでもいうような快活っぷりに、元のグループのメンバー達も苦笑を浮かべるばかりだ。
「いやぁー、朝倉さんは私達に必要だからさ!」
「……本当に、大袈裟なものです」
少しばかり呆れた様子を見せる朝陽だが、その口角は本人にしか分からないほど僅かに上がっていた。
頭上に日照るお天道様は、燦々と光を放つ。
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