雨の下の決意
「はいよ、傘一丁」
一度美鈴の家を出て、真正面にある自身の家へ傘を取りに戻った和樹。彼は今、手にした傘を開き、溝呂木家の玄関前に立っていた。
「おう、ありがとな」
開かれた傘の柄を握り、未来は和樹からお目立ての物を受け取る。傘を預けた和樹の肩は既に雨粒に打たれ、服にはじんわりと水気が滲み始めていた。
「あ、やばい。このままだと俺も風邪引く」
「んじゃ、俺達帰るわ」
その言葉を隣で聞いた朝陽はずっと背筋を伸ばす。彼女の手の中には既に朝陽から受け取った傘の柄が握られていた。
未来が握る傘の色は濃い黒、対して朝陽が託された傘の色は透き通る純白。
「あの、今日は楽しかったです。傘も含めて、ありがとうございました」
朝陽は深々と頭を下げる。傘も傾けられてしまったため、彼女のスカートに少し雨水がかかる。
「うん! 私も朝倉さんがきてくれてチョー嬉しかった! あ、もちろん未来もありがとね!」
「2人とも、また遊びに来てね!」
美鈴の姉、華彩も2人を見送りに玄関口に立っている。
和樹と美鈴、美鈴が大きく手を振って2人の背中を見送る。
3人の見送りを受けて、来た道を歩き始めた。真反対の色彩が2人を包み込み、空からの雫から身を守る。
遠くでは再び稲妻が迸り、雷鳴が鳴り響く。朝陽はビクッと肩を震わせ、足取りが僅かに乱れる。
空模様が悪化する中、2人は会話を交わすことなく、足元の水が跳ねる音だけが大きく聞こえる。
とここで、未来は隣の朝陽を横目に口を開く。
「今日はありがとな」
その言葉に朝陽は振り向く。
「いえ、私は別に大したことは……」
「大したことじゃなかったとしても、美鈴にはいいサプライズにはなったんだ。十分すぎるお勤めだよ」
彼はふと空を見上げる。
「美鈴だけじゃない。きっと和樹だっていつも以上に楽しめてはずだ。それに俺も……」
未来はそこで一度言葉を止め、一呼吸入れて続きを紡ぐ。
「俺も今日はいつもより楽しかった。だから、ありがとう」
そして彼は自分の言葉に恥ずかしくなったのか、サッと視線を逸らす。一方未来の言葉を受け取った朝陽は目を見開いて少し表情を和らげる。
「どういたしまして、というのが正しいのでしょうか」
そう言って彼女はそっと前を向く。そしてポツリと言葉を零す。
「今日久しぶりに、誰かと一緒に休日を過ごしたんです」
その言葉に今度は未来が振り向く。
「そうなのか。まぁ、学校ではあんな感じだからこういうのが多い感じはしなさそうだけど」
「……結構失礼しちゃいますね。割と学校では周りに人が集まるので、こういう機会が多いと思われているかなと考えていたのですが」
そう言って朝陽は苦笑する。その微笑がどこか寂しげに見えたのは未来の思い込みなのだろうか。
2人は再び無言となり、歩みを進み続ける。
傘が雨に打たれる中、遂に見えてきたのは「芹沢」という表札が掛かった未来の自宅だ。屋根の端から絶えず雨水が垂れ込んでいる。
「ここが芹沢さんのお家なんですね」
「そういうこと」
そう言って彼は玄関へと向かい、朝陽から離れる。朝陽はその中を見つめる。未だ曇り空に雷鳴が轟く中、彼女は何か言い淀むように唇を振るわせる。
未来は自宅の玄関前で、朝陽に振り返る。
「じゃあまた学校で」
「あ、はい」
未来と別れた朝陽は少し重い足取りで歩み始めた。
未来はドアノブに手をかけ、一度彼女へ振り向く。不安げな足取りが視界に入り、彼はそのまま玄関へ向き直る。しかしどうしたことか、彼はもう一度朝陽の方を振り返る。そしてその背中に向けて……
「朝倉」
その声に振り向く、ブラウン色の長髪。未来は水溜りも気にすることなく駆け寄り、意を決して言葉を紡ぐ。
「俺も一緒に行く」
この度もご覧いただきありがとうございます!
是非ブックマークに高評価や感想など、ドシドシお願いします!




