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雨空のアスファルト

 「俺も一緒に行く」


 そんな未来の言葉に朝陽は表情を変えることなく、けれど目を見開く。彼女にとっても予想外の言葉だったのだろう。雨空の下で白の傘を開く朝陽は少しの硬直を経て、静かに言葉を紡ぐ。


 「それはありがたいのですが、芹沢さんは大丈夫なのですか?」

 「正直全然大丈夫じゃない」

 「そこは嘘でも大丈夫だと言って欲しいのですが」


 呆れたようにため息をつく朝陽だが、どこか肩の力が抜けたように思える。こんな悪天候の中だ、表情が勝手に強張ってしまっていたのも無理はない。


 「本当だったら家の中に入って雨が上がるのを待つっていうのもアリなんだが、予報を見た感じだとこの後もっと降るみたいだし」


 未来はそう言って普段車を停めている駐車スペースへ視線を向ける。いつもだったら車があるはずなのだが、今日は違う。


  「いかんせん俺の親父が車出しちゃってるから、車で送り届ける事も出来ないからなぁ」


 彼はそう言い、朝陽へと向き直る。雨は絶えず2人の傘を叩く。


 「てな訳で、ここはとっとと帰った方がいい。今はそれが1番だ」


 その言葉に朝陽は頷き、少々頭を下げる。


 「その、ありがとうございます。実は少し、1人で帰るのが不安だったので」


 彼女はそう本音を紡ぎ、帰り道へと顔を上げる。


 「まぁ、この天気だと仕方ないよな」


 朝陽が歩き出すと同時に未来も足を動かす。2人並んで、水面が浮かぶようなアスファルト舗装の道に波紋を生む。


 激しい雨音しか聞こえないほどの悪天候の中、2人は本日何度目の静寂に歩み続ける。

 雫の落下音が2人の頭上を絶え間なく鳴らしている。


 「雨すごいですね」

 「ああ」

 「溝呂木さんのお家にお邪魔するまではあんなに晴れてたのに」

 「俺も天気予報とか見てなかったからちょっと驚いたわ」


 そう淡々と会話を交わす2人。時間が経ちに連れ、雨足はさらに強まる。


 「朝倉の家ってどの辺なんだ?」


 未来の言葉に朝陽は天を仰いで顎に指を添える。


 「そうですね……芹沢さんの家からだとそれなりに離れてる場所です。歩いてあと15分ぐらいでしょうか」

 「そうか」


 2人がそうやって歩き続ける中、キリヤマ書店の前を通り過ぎる。今日からゴールデンウィークのため、お店は休業中のようだ。未来は看板を眺めながらボソッと呟く。


 「またここで本買う時はよろしく頼むわ」

 

 その言葉を耳にした朝陽。彼女は傘で目線を隠しながら微笑を浮かべる。


 「その時が私のバイト日なら、是非」


 そして未来の家から歩き続けて20分が経つか経たないかといったところで、目的地が目前まで迫ってきたようだ。「朝倉」という表札が遠目に見える。


 「あ、ここです。私の家」


 彼女はそう言って自宅を指差す。そして玄関に向かって足を運ぶ。

 朝陽は玄関前に立つと、未来の方へと振り向く。先程の芹沢家前での光景を逆転したやり取り。


 「そうか、じゃ、俺帰る」

 「はい、お気をつけて」


 ペコリと朝陽が頭を下げ、未来も小さく会釈する。そして未来が来た道を戻ろうとしたところで朝陽が声を上げる。


 「あ、あの!」


 その声に未来は振り返る。


 「どうかしたか」

 

 朝陽は指先を遊ばせ、少しはにかむように顔を綻ばせる。


 「私達が買いたかったもの、結局買い忘れていましたね」


 未来はその言葉にキョトンとするが、すぐさま理解する。彼らはドラッグストアでお見舞い品を買ったものの、それぞれが当初買おうとしていたお目当てを購入し忘れていたのだ。


 「言われてみれば確かに。なら、またあそこで出会ったりしてな」


 少しだけ冗談めかして言う未来に朝陽は苦笑を浮かべる。


 「どうですかね。今まで偶然が何回も重なりましたから、正直次はストーカーとでも疑うかもしれません」

 「どうしよう家出れない」

 「冗談ですよ」


 軽口を叩き合う2人。初めて書店で鉢合わせてからもう1週間が経つが、幾分か肩の力を抜いて接するようになった。


 「とりあえず、お見送りありがとうございました」

 「ん、じゃ、また」


 来た道を戻り始めた未来は、振り返ることなく軽く手を振る。そんな後ろ姿を眺める朝陽の手には、既に閉じた白き傘の柄が握られている。

 帰り道を歩く未来は変わることなく黒い傘を握りしめて歩いている。


 チーム正反対とまで名付けた当人達から預けられた、2本の傘。チーム名通り、どこか正反対かもしれない。けれど2人の隙間は、友人達の熱と突然の雷雨が埋めてくれた……かもしれない。


 


 




 


 

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