広がる雨空
勝負が終わってから数十分が経過し、少し熱気の籠る美鈴の部屋。部屋の中では肩を預け合う美鈴と和樹、部屋の中を見回す朝陽、そして慣れない上体お越しにで疲労感マックスの未来の姿があった。
「それにしても、ちゃんと整えられてるんですね」
「えへへ、ありがとね! でも朝倉さんの部屋だって整えられてるでしょ?」
「あ、いや、私の部屋は大して……」
自分の部屋の光景を思い浮かべて朝陽は続きを言い淀む。
腹筋を刺激した未来と朝陽は双方汗をかいているものの、その様子は対照的だ。罰ゲームからある程度時間が経ったことで、爽やかにうっすらと汗が滴る朝陽。一方未来といえば全身汗だく、呼吸は荒くなっていてぐったりと項垂れている。
「もう無理……一生分の腹筋やった気がする……」
未来は床に尻をついて乱れる呼吸をなんとか整えようと試みている。
罰ゲームを提案し、見事免れたチーム幼馴染は正反対な2人の様子にクスクスと笑う。
「2人ともお疲れ様! 朝倉さんすぐに終わっちゃったね! すごいよ!」
「な。てか未来、大丈夫か?」
和樹の呼び掛けに未来は右腕だけを弱々しく上に掲げた。事情を知らない者から見れば何か偉業を成したヒーローのよう。しかしその実は上体起こし50回で弱音を上げる男子高校生だ。
「大丈夫ですか芹沢さん」
朝陽から声を掛けられても彼は小さく頷くのみ。運動不足が顕著に現れている。
「未来って本当に体力無いよねー。今年もリレー以外は厳しそうかな?」
ケラケラ笑う美鈴の言葉に朝陽が振り向く。
「リレー? あ、そういえばもうすぐ体育祭ですか」
朝陽は項垂れている未来へ視線を向ける。
「というか逆にリレーなんですか? これで」
「そうなんよな。未来のやつ、走るのだけは人並みなんだよ」
和樹が苦笑して肘で美鈴を小突く。一方未来は3人の方へと顔を上げる。
「運動音痴にも走るのだけはなんとかなる奴だっているんだよ……」
ゼェゼェ言いながら未来は汗を拭う。そして彼はカーテンが掛かる窓へと視線を変える。
「てか外曇ってないか? 来た時はこんなんじゃなかったはずだけど」
それを聞いた朝陽達が外へと視線を向ける。
するとその時、眩い光が一瞬走り、次の瞬間には「ズゴーンッ!」という雷鳴が轟いた。
「キャッ!」
突然の雷に驚いた美鈴は隣の和樹に飛びついた。そして同じく雷撃に小さな悲鳴を上げた朝陽が美鈴にしがみついていた。
ザーッという雨音とガタガタと鳴らす屋根音があっという間に辺り一面を飲み込む。
「あー、そういえば雨降るとか天気予報で言ってたな」
和樹は加わる圧を受け止めながら、美鈴の頭を撫でる。
それに美鈴は顔を蕩けさせて頭を擦り付ける。そして自分にしがみつく朝陽に気づくと、ニヤッと口角を上げる。
「あ、もしかして朝倉さんも雷怖いの?」
「う、うるさいです……溝呂木さんだって同じじゃないですか」
朝陽は顔を赤らめて視線を逸らす。
一方未来はスマホを起動して今後の天気を確認する。
「今日はこの後ずっと降り続ける感じか。ならそろそろ帰った方がいいか」
未来の言葉に美鈴が唇でへの字を作る。
「えー!? もう帰っちゃうの? っていっても今のうちに帰った方がいいのかなぁ。朝倉さんはどうする?」
「わ、私もそろそろお暇に……」
朝陽は立ち上がって未来の横に立つ。
「そっか、お2人さんはもう帰るのか。俺はもう少しここに残るから」
「ああ、あ、あんま美鈴のこと甘やかすなよ」
未来は和樹に、これまで通り釘を刺す。
「どうだかね。お前も彼女作れば甘やかしたくなる気持ち分かると思うけど」
「……それ何回も聞いた」
「何回だって言ってるよ」
未来はため息をつき、ドアノブを握る。
「んじゃ帰るぞ朝倉」
「あ、分かりました……ところで傘は?」
「あー、どうしたもんか……」
手持ち無沙汰の未来は呆然と外を眺める。そんな彼に美鈴は飛び跳ねながら声をかける。
「なら私の傘貸してあげよっか? 2人で一緒に使いなよ!」
含み笑いを浮かべる美鈴の提案に帰宅組2人は顔を見合わせて困ったように眉を下げる。
「傘を借りられるのは助かるんだけど、なぁ……」
「ええ……あの、2つ貸してもらえたりとかは……」
朝陽は勿体ぶるように身を捩らせる。
「えー? ちゃんと使える傘はウチには1つしかないんだけどぉー?」
「分かりやすい嘘だな」
「嘘じゃないもん! で、どうする? 2人で仲良く傘に入るのを選ぶ? それとも仲良くずぶ濡れ?」
未来は朝陽へ視線を向けて、深いため息をつく。
「じゃあ朝倉に傘を貸してやってくれ。俺は濡れても構わな……」
未来が言葉を言い切る前にここで和樹が口を挟む。
「あ、俺の家にも傘あるから持ってきてやるよ」
「え」
美鈴の間抜けな声が空を切る。
「ほら、俺の家すぐそこだからさ。な、それで良いだろ?」
「ああ、助かるわ」
「和樹ぃー!」
美鈴が信じられないものを見たかのような形相で和樹の肩を激しく揺さぶる。
「え、何々?」
「何々、じゃないよ! なんで私がお膳立てした恋愛ルートをすぐに逸らしちゃうの!?」
「そりゃ、2人とも困ってそうだから……」
「んんん! 優しい和樹のバカァ!」
美鈴の行く宛のない叫びが雨空の下で響いた。
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