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【朗報】ボッキマン、外注業者になる その③

「いらっしゃい。よく来たね」


思わず拍子抜けするような第一声だった。


俺は促されるまま彼の前に並ぶ。俺を出迎えたのは男女合わせて四人だった。


男は三人、女は一人だ。彼らの内で話しかけてきた男以外は皆、黒いスーツを着ており手には銃を持っている者もいる。


しかしこの男が糾業会のボス……なんだろうか?

なんだかイメージと違う。


身長160cm程だろうか、細身で年齢は60歳くらいに見える。上品な立襟の背広服に身を包み、顔にはおしろいのようなものが塗られている。


何より特徴的なのはその髪型だ。まるでダチョウが羽根を広げたような色合いで左右が尖っていた。


「あんたがボスなの?」

「ボッキマンさん、その人は首領ボスじゃないわ……」


マドワセルが小声でささやく。

彼は、この組織の中では幹部にあたる存在だという。


「私がナンバーツーと思ってもらって構わないよ」

「へぇ、てっきりあんたかと思ったんだけどな」


そう言うと男は軽く笑いながら両手を広げ、芝居がかった仕草で丁寧に頭を下げる。


「おい、ボッキマンよすんだ……」


サイキオンが注意するがもう遅い。


「うーむ、ボッキマン。

 なるほどなるほど、確かに、噂通りの……ふふふ」


そう言いながら男はべたべたと体に触り、あげく股間へと手を伸ばそうとする。

思わず悪寒が走る。


「うっ、うわぁちょっと!」


男の手から逃れようと体を捻ると、彼は微笑みを浮かべる。

なんとなく嫌な感じだ。


「失礼、君を首領ボスに会わせることになってるんだ、ついて来なさい。

 マドワセル、センドレッド、サイキオン、君たちも……」


男はそういうと先に歩き始めた。俺たちは黙ってその後に続く。

船の中は改装され、古いホテルのような内装になっていた。空調が通され、内部は快適な温度になっている。


テクノロジーの存在を感じ、俺は少し安堵する。


廊下を歩いている途中、構成員らしき人物とすれ違う。彼らは何かを話し合っているようだったが、声は聞こえない。


彼らは俺を見ると驚いた様子を見せたが、すぐにナンバーツーの存在に気づき何もなかったかのように通り過ぎていく。

だが彼らの目には警戒の色が浮かんでいた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


俺は上階にある巨大な会議室のような部屋に通された。


部屋はかなり広いのだが中央にはドーナツのような大きな円卓が置かれており、利用できるスペースは限られていた。


俺は適当な場所を見つけると、さっさと勝手に腰掛ける。


やはりというべきか、部屋の一番奥、俺の正面向こうに座っている男が

糾業会きゅうごうかい首領ボスなのだろう。


「来たか……ボッキマン……生きているようだな……」


男は椅子のひじ掛けに手をつき半身を持ち上げ、

俺の姿を確認しようとして目を凝らす。


その姿は異様だった。


スーツを着た大柄な男だが、ミイラのように細く、その動きはまるで病人のようだ。

戦国武将のような物物しい兜を被り、その下の顔も面頬で覆われているため、表情は見えない。


ただ、その声は低くくぐもり、どこか機械音声を思わせた。


「……あんたその様子だと自分の頭を守ることしか考えてないみたいだな」


俺はなんとなく思ったことを口にしてしまった。


「ふっ……、ふふっ、

 ふふふふっ、ふふっ……」


すると首領は俺の言葉に体をぴくぴくと震わせて笑い出し

再び体を沈めて、肘掛けに体を預ける。


「そう、そうだ……

 私は頭を守れればそれでいい……それ以外のことはどうでもいい……」


首領は独り言のように呟いた。


その声からは怒りや憎悪といった感情は一切感じられない。それどころか、むしろ愉快そうな調子さえある。俺はそんな彼の態度を見て、またも拍子抜けした。


もっと暴力的な、恐怖政治を行うような人間を想像していたが、どうやらそうでもないらしい。


「さあ、座りなさい……」


首領に促され、部屋の入口で突っ立っていた連中がそれぞれ椅子に腰かける。首領は皆が席についたことを確認すると口を開く。


「マドワセル、サイキオン、センドレッド……よく彼を連れて来てくれた」


そう言うと首領は一呼吸置くように黙り込む。


俺はその様子を眺め、頭の中を整理しつつ彼の次の言葉を待っていた。

すると彼が話すよりも先にマドワセルが口を開いた。


首領ボス、残念ながら……

 まだ彼を味方として引き入れることができたわけでは……」


マドワセルが遠慮がちに答えると、ナンバーツーの男がちらりとマドワセルの顔を見た。その表情からは特に何かを考えているようには見えない。

首領は手を挙げると、マドワセルの発言を遮るようにして言葉を続ける。


「わかった……。

 それについては後ほど、私から話してみることにする……」


ボスはそう言うと俺をじっと見据え、口を開く。


「だがその前に、お前たちの処分を決めなければならない。

 マドワセル、サイキオン、センドレッド……覚悟は良いな?

 ……組織の場所を部外者に漏らしたことについては、

 それ相応の罰を与えなければならない」


あれ?

なんか変なことになってるぞ……。


俺は突然の展開に頭が追いつかずしばらく呆然としていたが、

慌てて首領の言葉に口を挟んだ。


「ちょ、ちょっと、何でだよ。

 俺を殺すか、仲間にするか、それか連れてきて欲しかったんだろ?

 で、連れてくるのは成功したんだから許してやれよ」


俺が訴えても、首領はまるで意に介していない様子だった。


「……我々の仲間になるか、

 生かして捕らえるか……それか殺すかだ。

 ……ボッキマン、見る限りお前はそのどれでもない」


ボスは決定を変えるつもりはないようだ。

ナンバーツーの男は唇に指をあてながら俺の様子を静かに観察している。


「うーん……」


俺は腕を組みながらセンドレッドの顔を見る。センドレッドは怯えたような目をしながらテーブルをじっと見つめていた。


「……そうやってどうでもいいことにまで罰を与えてたら、

 糾業会にとってもいいことはないんじゃないか?」


「……ボッキマン、お前の言いたいことは私にもよくわかる」

「なら……」


俺はほっと胸を撫で下ろす。

しかし首領は首を横に振ると、厳かな口調でこう言った。


「契約と報酬、そして罰。

 ……それは彼らの力を高めるためにも必要なことだ」


「……高める?」

「ああ……端的に言えば、能力が強化される……」


首領は淡々と言葉を続ける。


「だから罰は与えることは必ずしも、我ら糾業会の力を削ぐわけではない……

 つまり彼らの失敗も組織にとっては成功なのだ……」

「うーん……」


そんな秘密があったのか。

俺は思わず考え込んでしまう。


しかしどういうモノかはわからないが、このままだとあの三人は罰を受けることになるわけか、それは可哀想だな……。


だけど……センドレッドもマドワセルもこうなることがわかってて、

俺のことを拘束しなかったんだろうか。


だとすれば俺は少し申し訳ない気持ちになった。


いや、俺は巻き込まれただけで単なる被害者でしかないんだけど。

それにしても、こんな状況になってしまった以上、俺にできることは何だろう。


俺はマドワセルの顔をちらりと見る。

彼女は毅然とした態度で首領の顔をまっすぐ見据えている。


その瞳には微塵も迷いがなかった。

怯えて小さくなっているサイキオンとは対照的になんとも堂々としている。


「…………」


二人の様子を見て、俺にできることがあるとすれば、この場を丸く収めることだけだと思った。俺はテーブルの上で手を組むと、しばしの間黙考した。


(やっぱりこいつらの仲間になるのは難しいな、

 いちいちこんな船まで呼ばれるのってあまりに不便すぎるし、となると……)


生け捕りにさせるしかないか。

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