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【悲報】ボッキマン、ヒーローショーを台無しにする その⑨

「……え、ちょっとマジか?何やってんだよ」


予想外の展開に思わず動きが止まり、困惑の声が漏れる。


「……ボッキマン、お願い……拉致して……!」


そう言うとセンドレッドは俺の首をぎりぎりと絞め始めた。


「は……?」


俺は困った。


「え、いや、あの、本当にどういうこと?」

「……演技でいいから!」


俺は状況についていけずに混乱していたが、センドレッドは構わず俺の頭を掴むと耳元に口を寄せ囁いてきた。


「あたしを拉致って、無理やり糾業会の本部を聞き出したことにしてみて、

 そうすれば……」

「つまり人質にしろってことか?

 でもそんなことしたらもっとややこしいことになるじゃんか。

 俺は別に糾業会きゅうごうかいとケンカしたいってわけじゃないし」


センドレッドは俺の言葉を聞くと、悲痛な面持ちになった。だがそれも一瞬のこと。次の瞬間、センドレッドの目つきが変わる。

センドレッドは脚を曲げ、踵を俺の鳩尾めがけて叩きつけて来た。冷たく重い義足による強烈な一撃を胸元に感じたが、当然俺はびくともしない。


「もうやめてくれって……」


俺がそう言っても、センドレッドは攻撃を止めなかった。今度は俺の顔に掴むと目に指を突っ込んで来る。


「ごめん、ボッキマン!」


ごめんの割にはひどすぎるだろ、と思いながら俺は目を閉じ、センドレッドの手を掴んで目潰しを阻止する。


「いいから早く離れなさい!」


マドワセルも叫んでいる。


「おい、あんたの催眠術でこいつをどうにかしてくれよ!」

「私に指図しないで!」


そう叫ぶも、彼女はすでに催眠術でセンドレッドを止めようしていたようだ。だが、センドレッドは目を閉じ、歯を食いしばっており、効いている様子はない。


「おい、もう本当にやめろって」


掴んだ手に少し力を入れると、センドレッドは痛みを感じたのか小さく声を上げた。

それでもまだやめない。それどころか、さらに力を込める。


「おい……やめないとこのまま握りつぶすからな」


そう言うと俺は手に力を込める。センドレッドの手の甲が形を変え、めりめりと俺の指が食い込んでいく。


「ぅうおおおおおっ!!」


それでもセンドレッドは雄たけびを上げ、俺の首を締め上げようとする。


「セ、センドレッド!もうやめろ!」


マドワセルに続き、ボケっと突っ立っていたサイキオンまでもが止めに入るが、センドレッドは一向に聞き入れる様子はなかった。

その時、耳元で鈍い音が響き衝撃で頭が揺れた。目の前で瓦礫が割れ、火花とコンクリ片が舞う。


「ボッキマン、手を離しなさい!!」


マドワセルが能力を使い、俺に攻撃を仕掛けてくる。ミサイルのように瓦礫が飛来し、次々と俺の頭に直撃するが、もちろん全くダメージはない。


「いや俺じゃなくて、センドレッドの方を止めろって!!」

「うるさい!私に指図しないでって言ってるでしょ!」


すると、今度は観客席から歓声が上がった。

見れば、観客たちは俺たちが揉める様子を楽しんで見ているようだ。

さすがに頭に血が上ってくる。


こいつら、バカなのか?バカなんだな?


お前ら知らないのか?

バカは死ななきゃ治らないって。


それならいっそ死──……


そこまで考えたところで、俺は自分の思考に違和を感じる。俺は今、何を思った?

冷静に周囲を確認すると、俺の目に赤黒くうっ血したセンドレッドの手が飛び込んで来る。どうやら気付かない内に手に力を入れすぎてしまったらしい。

俺は慌てて手を緩めた。

俺はこいつらを殺すつもりなんかない。ただ、ちょっとだけ脅かして諦めてもらえればそれでいいはずだ。


「……すまん。でも、もうやめろよ。また怪我するぞ」

「いいよ……もう義手くらい怖くないし、

 生身より便利だってよくわかったから……」


センドレッドは苦しそうに肩で息をするもまだ強がっている。俺の首には彼女の腕が巻き付いたままだった。


「ボッキマン、いい加減にその子から離れなさい!」


そう叫ぶとマドワセルは首に巻いていたスカーフを抜き取り、手元でくるくると回す。するとスカーフは刺突剣のような形状へと変化していった。


「……あんまりこういうことはしたくないんだけど、こうなったら仕方がないわ」


そう言うとマドワセルは切っ先を俺に向けて構えて来た。こいつ多芸だな……いや感心している場合じゃない。


「いや、だからこいつが……。なんで俺がくっついてるみたいになるんだよ」


俺はセンドレッドの両腕を掴むと、そのまま引き剥がそうとする。しかし、センドレッドは必死にしがみつき離れようとしなかった。


「もうさ、勘弁してくれよ……俺の言うことは何でも聞いてくれるんだろ」

「ごめん、それ以外のことなら何でも聞くから……」


こいつどんだけ自分勝手なんだよ。

あまりの不条理さに思わず笑いがこみ上げてくる。


「じゃあ、マドワセルを止めてくれよ。

 今にも俺の心臓を突き刺しそうだし……」


そう言って俺は、マドワセルの方に視線を向ける。彼女は相変わらず怒りの形相を浮かべており、今にも俺に飛びかかってきそうな勢いだ。


「その必要はないわ、あなたが先にセンドレッドから手を離しなさい。

 そうすれば私はあなたにはもう手出しはしない」


「いやあのさ……。

 こっちは首を…………わかったよ」


もういい、どうせ無敵だしな。

馬鹿馬鹿しいが好きなようにやらせてやる。


俺はセンドレッドの手を離し、両手を振ってマドワセルに見せてやった。


「……ありがとうボッキマンさん。

 センドレッド、あなたも腕を離しなさい」


マドワセルの言葉を聞いたセンドレッドはやっと腕を離すどころか、

ますます力を込めて来た。


「おいおい、マジかよ……冗談だろ。普通手を離すだろ……」

「ごめんね……ボッキマン。

 あたし、みんなの役に立ちたいから……」


そう言って、センドレッドは口元に笑みを作る。


「落ち着いて、センドレッド。

 そんなことをしても何の役にも立たないから」

「わかってる……自分が役に立ってないってことくらい……。

 あの時だって何もできなかった。

 だから、自分にも何かできるって証明したい……」


「それはあなたの思い込みでしょう。

 そもそも、あなたが役に立たないなんて私は思ってないし、

 周りにも言わせないから安心しなさい」

「あたしはそんなこと頼んでないし、あんたがどう思おうと関係ない、

 あたしがやりたいからやるの!」


センドレッドは叫びながら、俺の首を更に強く締め上げる。


(うるせーなこいつら、人の首絞めながらするような話かよ)


俺は苛立ちながら、センドレッドに首を絞められたまま腕を組む。サイキオンを見るとの二人の顔を交互に見ながら、口をパクパクさせながら棒立ちしていた。


「サイキオン、お前の方から何か意見はないのか?正義のヒーローとして……」

「えっ、あ、うん、ああ……それは、俺はその……二人とも、

 その……仲良く、して欲しいというか……」


「……」


こいつ全然ダメだな。


「もういい加減にして、早くこっちに降りて来なさい」

「だからなんで人に命令ばかりするの!?あんたは自分で相棒だーって

 言ってたじゃん!別に上司じゃないんでしょ!?」


センドレッドの方もどんどんヒートアップしてるのか、マドワセルと言葉を交わす度に俺の首を絞める腕に力が入る。俺が無敵じゃなかったらどうするつもりなのだろうか?


「今なら何も言わないから……さっさと降りてきなさい」

「もう嫌っ!!なんでいつも命令ばっかりするの!?」


「……私はあなたたちに危ない目にあって欲しくないだけなの。

 命令なんてしてないでしょ?」

「嘘ばっかり……」


「ならどんな時に私があなたに命令したか教えてくれる?」

「いつも、いつでも、どこでも」

「……センドレッド、いい加減にしないと怒るわよ」


「ずっと怒ってるくせに……。

 毎回毎回、みんなの食べ物にまでケチをつけて、あんたは何がやりたいの!?」

「あ、あれは、てっ、添加物とか、色々と身体に悪いものが

 入ってるからで……とにかく、あなたたちのためにやってること!

 いいから早く降りてきて、お願いだから!」


「わかった!ストップ!!

 もう俺の負けでいい!

 降参するから、これ以上はやめろ!!」


俺が叫ぶと、センドレッドはハッとした表情を見せる。そして、俺の首に巻き付けていた腕を解くとそのまま地面に座り込んだ。

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