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【悲報】ボッキマン、ヒーローショーを台無しにする その⑦

咄嵯に身をかわすと、奴の拳は俺に当たることなく空を切る。

しかしサイキオンはその場で体を捻り、強烈な後ろ回し蹴りを仕掛けて来た。


俺は軽くいなしてやろうと思ったが、どうやらそれはフェイントだったようでサイキオンの蹴りに気を取られた次の瞬間、奴の拳が俺の顔面にめり込んでいた。


固く、そして重い衝撃が頭蓋骨から全身へと波打つように伝わっていく。


「どうだ、俺のパンチを食らえばどんな悪党でも脳漿が噴き出すんだ!」


それは確かにすごいんだろうが、ヒーローとしてはどうなんだろう。しかし、こいつ見た目によらずかなり強いな。


「サイキオン、もういいから!あたしが話すから!」


マドワセルはサイキオンに抱きつき、必死に止めようとする。


「離してくれマドワセルさん!

 こんな奴がお茶の間に登場したら気まずい雰囲気になってしまうだろ!」

「大丈夫だから、落ち着いてって!」


「それに奴はセンドレッドの体をいやらしい目で見ていたぞ!絶対に許せん!」

「見てねーよ、どうせお前が見てたってオチだろ」

「だっ、黙れ!!」


サイキオンは俺の言葉を聞くとマドワセルを振り払った。マドワセルは少し離れた所に飛ばされ、椅子に激突する。


「マドワセル!」


センドレッドが心配そうに叫ぶ。


「大丈夫、ちょっと打っただけだから……」

「きっ、貴様ぁ!

 貴様のせいだぞボッキマン!よくもマドワセルさんを!」


サイキオンは俺を指差しながらわめき散らす。


「マドワセルさん、センドレッド!首領ボスの命令を忘れたのか?

 仲間に引き入れることが出来なかった以上、ボッキマンは殺すか

 捕獲するしかないんだぞ!俺一人ではこいつを殺してしまうことになるが、

 マドワセルさんの応援があればあるいは……いや、

 ここにいる皆が力を合わせれば、平和的に解決できるかもしれない!」


「えぇ……でも……」


マドワセルは迷っている。腰か背中を打ったのか表情は少し辛そうだ。

おそらくサイキオンの言っている事は正しいのだろうが、納得できない部分もあるようだ。


「マドワセルさん、早く決めないと俺は正義の名の下にこいつと死ぬまで戦うぞ!」

「わ、わかったわよ……」


マドワセルは両手を突き出す、先ほどの催眠術以外の何らかの能力を使う気なのだろう。結局こうなってしまったか……仕方ない。


俺は横目でセンドレッドの様子をうかがう。彼女は怯えた表情を浮かべたまま硬直していた。俺が死ぬのを恐れているのだろうか。


(いや、違うな……)


俺はセンドレッドの目を見て悟る。あいつは俺が殺されることではなく、俺がこの二人を殺してしまうことを恐れているのだ。


(心配すんなって。俺がそんなことするわけねーだろ)


センドレッドの懸念を鼻で笑い飛ばし、

視線を戻すとサイキオンは既に攻撃態勢に入っていた。


「行くぞ、変態め!

 周囲の迷惑を考えろ!」


サイキオンは格闘技経験者なのだろう、その攻撃の一つ一つには妙な説得力があった。まるで、それが自分が長年培ってきた技術なのだと主張しているかのように。

対して俺は運動と言えばかつてはサッカー、今はと言えばランニングをやっているくらいで別段、格闘技に詳しいということもない。


そもそも無敵なんだから、よし、格闘技を学ぼう!なんて発想にはならない。


サイキオンは鋭いジャブを繰り出し、俺の動きを制限しながら的確に急所を狙い打ってくる。ストレート、フック、俺のガードを上げた所にローを入れ、強烈なストレート、更にミドルキックへのコンビネーション。


動きが素早い上に手数が多く。おまけにそのどれもがかなりの威力なのははっきりと分かる。一撃一撃を受ける度に体の芯がビリビリと震えた。俺じゃなかったらもう10回は死んでいるだろう。


だが、その磨き上げられた戦闘技術も無敵の力の前には無意味なものでしかない。

俺は奴の動きを予想し、軽くパンチを放つ。もちろん全力ではないがそれなりに力を込めたものだ。


「!?」


だが俺が捉えていたのはサイキオンではなく、瓦礫だった。

分厚い瓦礫は俺のパンチを受けると、真っ二つに割れ、鈍い音を立てながら床に転がった。俺は慌てて拳を引っ込める。


(なんだこの瓦礫は……?こいつの能力か?)


それともこれがマドワセルのもう一つの能力か。予想外の事態に俺は少し戸惑ってしまった。サイキオンはその隙を逃さず俺の腕を掴み、一本背負いで地面に叩きつける。俺は受け身を取ることが出来ずにそのまま倒れてしまった。


サイキオンは俺の胸倉を掴むとそのまま持ち上げて、何度も顔面に拳を叩きこんでくる。一発ごとに鈍い音が響く。


痛くも痒くもないがなんとも鬱陶しい。


俺はサイキオンがとどめの一撃とばかりに腕を引き絞った瞬間、奴のヘルメットに向けて思い切り唾を吹きかけてやった。するとサイキオンは一瞬怯み、掴んでいた手を離してしまう。

その隙に奴を締め落とそうと掴みかかろうとした瞬間、視界が回転した。


気づいた時には足元のコンクリートタイルが剥がれて浮き上がっており、足場を失った俺はそのまま床に落下した。


だが、サイキオンが俺に追撃を仕掛けてくる様子はない。

体勢を立て直して、状況を確認すると奴が妙なポーズを取っているのが見えた。


「ボッキマン……

 お前、どうやら本当に死にたいようだな……!」


そう言うと、サイキオンは両腕を胸の前で交差させ、腰を落とす。

すると奴の全身から白いオーラのようなものが溢れ出してきた。それはまるで漫画などで見るような気のようなものだった。これがこいつの能力なのだろうか。


「えっ、なにそれは」

「サイキオンの必殺技の一つ、サイ・ペレグリンだ!」


サイキオンが叫ぶと同時にそのオーラが大きく膨れ上がり、爆発的なエネルギーを発する。あまりのエネルギー量に空気が歪み、陽炎のように揺らめいて見えた。


俺は回避しようとしたがその前にまたも地面が回転し、バランスを崩してしまう。そして次の瞬間には足元が炸裂し、俺の体はサイキオンに向かって投げ出されていた。


「サイキオン、今よ!」


マドワセルの叫び声が聞こえる。


さっきから邪魔していたのはやっぱりあいつか。サイキオンは俺を激突する寸前に急ブレーキをかけると、その場で俺を蹴り上げる。爆発音がしたかと思うと俺の体は遥か上空を飛んでいた。


さっきまで居たショーのステージが眼下に見える。


次の瞬間、背中に強い衝撃が走った。サイキオンだ。

今度は上空から攻撃を加えて、あのステージ目がけて俺を落とそうというらしい。


「うぉおおおおおおおおッッ!!!!」


サイキオンが無防備になった俺の背中を何度も殴りつけてくる。


(この野郎、調子に乗りやがって……)


もちろんまったくダメージはないが、得意げに攻撃を続けるコイツに少し腹が立ってきた。やがてステージが眼前に迫ると、サイキオンは白い光を放ちながら俺を追い越し、落下地点で力を溜めて待ち構える。


「うおおぉぉぁあああっっ!!!

 サァアアーッイッペェレェエエエーッグリィイィンンッッッ!!!!!」


サイキオンは叫び声を上げ拳を天高く掲げると、落下してくる俺の鳩尾に渾身の一撃を打ち込んだ。


俺の体がサイキオンの腕に突き刺さると、奴の体からひと際大きなオーラが吹き上がり、観客たちがどよめき出す。


「決まった……サイ・ペレグリン……完全に決まった……」


サイキオンの言葉に観客席は一瞬、静寂に包まれたと思うと次の瞬間には彼の勝利を祝う大歓声が上がった。

「ありがとう、サイキオン!」「うおお」「これでこの町も安心ね!」


サイキオンはその喝采に応えるかのように、両手を高々と掲げてアピールしつつ、勝ち誇った様子でステージに転がる俺を見下ろしている。


だが、そんな彼をマドワセルが咎め始めた。

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