【悲報】ボッキマン、ヒーローショーを台無しにする その③
『最強戦士サイキオン』のショーは順調に進んでいった。
主人公のイケメンが挨拶をする。客席から歓声が上がる。それから小芝居があり、サイキオンに変身すれば、舞台袖から悪役たちの登場だ。
「ハッハーッ!!
俺様の名はザコ怪人ザッコデービル!!」
怪人は俺の記憶から三秒で消えそうな名乗りを上げると、観客を襲おうとする。
そしてサイキオンがそれを止める。戦闘開始だ。ステージの上に次々と戦闘員が飛び出して来る。正義が悪を倒す勧善懲悪、王道展開。
しかしそれは観客にとっては退屈なものではないらしく、むしろ大盛り上がりであった。特に子供たちの熱狂ぶりは凄まじく、子供連れの家族が来ているせいなのか、サイキオンを応援する声援が大きく響く。
ネットの感想にもあったが主人公のイケメンのアクションは見事な物だ。
魅せ方を知っているというか、俊敏で、技にはキレがあり、迫力があり、そしてなんとも言えない華がある。これなら番組を見た連中が、アクションだけは絶賛していたの理解できる、
(だが、これは……)
しかし、俺はどうしても気になることがあった。
ヒーローショーにしてはあまりにも血生臭すぎるのだ。
飛びかかってきた戦闘員をサイキオンが回し蹴りで迎え撃つ。
吹き飛ばされた戦闘員は地面に横たわり、血を流して動かなくなる。
……いや、死んでないかコレ。
他の連中も似たようなものだった。だが客席からは悲鳴一つ上がらない。
みんな目の前で繰り広げられる光景に目を輝かせ、興奮しているようですらある。
まるでさらなる流血に期待しているようだ。なんなんだこれは……。
俺は思わず隣に座っているマドワセルを見る。彼女は微笑みを浮かべたまま、ステージを見つめていた。
その表情は楽しげであり、どこか陶酔感すら漂っている。
「ちなみに、サイキオン役のイケメンの彼もあたしたちの組織の一員」
俺の視線を感じたのか、マドワセルが唐突に口を開く。
「そうか」
「あら、冷たいのね。
もう少し興味を持ってくれてもいいんじゃない?」
「どうでもいい。もっともお前らの方から話すなら止めはしない」
そこまでやり取りをするとマドワセルはニヤリと笑う。
「それを聞いてボッキマンさんはどうするつもりなの?」
「内容による」
「ふぅん……」
マドワセルは顎に手を当てしばらく考え込む仕草をする。
「……分かった、じゃあ特別に教えてあげる。私たちの組織の名前は……」
「一応言っておくが、糾業会の名前なら
すでに聞いたことがある。お前らがそうかどうかは知らないがな」
マドワセルの言葉を遮るように言うと、彼女は意外といった表情を見せた。
「あら、どうして……まさかセンドレッドがそう言ったの?」
「いいや」
俺は首を振る。マドワセルもそれ以上は追及せず、話を続けた。
「もしかしてその人のことを庇ってるの……?
まあいいわ。私たち糾業会は表向きはただの商業組合。
でも裏では能力者たちの力を結集させ、この街の本当の支配者である
大企業たちを監視・牽制することで、連中がもたらす拙速な……」
「そこまででいい。よく分かった。
この間もお前らの一員に襲われたが、なんというか……
糾業会というのはずいぶん暴力的だな」
「脅しを脅しとして機能させるためには、暴力が必要だからよ。
理性や愛情に訴えて、大企業の幹部連中が考えを変えると思う?
銀行の頭取や政治家たちが泣きながら、これまでの罪を悔い改めると思う?」
「いいや」
俺が即答すると、マドワセルは満足げにうなずく。
この女は一体何を期待しているのか。
「それで……お前らは俺をどうしたいんだ?」
「あなたの力が、例えば大企業や政治家に渡れば、
それはこの街だけではなく、もっと大きなものまで変えかねない。
あなたはそれを分かってる?
もしあなたと同等の力を持つ存在が作り出されたらどうなると思う?
それはあたしたちのような弱者にとって絶対に防がなくてならないことなの」
俺は無意識にこめかみを指で抑えていた。
俺にはこいつの言っていることに対し、特に意見があるわけでもない。別にどうだっていい。暴力的だと言うならこの街の治安当局だって変わりはしない。
だがこいつの言葉はどこか引っかかった。
「俺を大企業とやら渡したくないなら、もうちょっとマシな方法があるだろう」
「もちろんあるかもしれないわね。例えば色仕掛けとか」
マドワセルはそう言いながら、意味ありげな視線を送ってくる。
「無駄だ」
「あら残念ね。こんなに魅力的な女の子が側にいるのに」
そう言うと彼女はセンドレッドの背後に立ち、肩に手を置く。
センドレッドは俺の方を見て、何か言いたげに唇を動かしていたが、その口から言葉は出てこなかった。
俺は深いため息をつく。
俺たちが話している間もヒーローとザコ怪人たちとの戦いは続いている。
殴られた戦闘員が顔の骨でも折られたのかうめき声を上げて地面をのたうち回る。
それでもヒーローの活躍に観客席は大喜びだ。明らかに異常な光景だろう。
「彼らのことは心配しなくていいわ。夢でも見ているようなものだから。
そのうち目が覚めて、楽しいショーを見たつもりになって日常に戻っていくから」
「お前は催眠術でも使えるのか」
マドワセルは俺の質問には答えず、ステージの方に視線を向ける。
「……強すぎる力にはそれを制御できるようなルールが必要なの。
ボッキマンさんにはあたしたちの組織に入ってほしい。
糾業会ならあなたの道しるべになれるわ。
あなたにとっても悪い条件じゃないはずよ」
「俺を殺そうとしていたことを忘れたのか?」
俺がそう返すとマドワセルはクスリと笑みを浮かべる。
まるでこちらの返事を予想していたかのように。
彼女の瞳の奥にある光からは、ある種の覚悟のようなものを感じた。
「あなたがその気になってくれさえすれば、
交渉の余地はいくらでも残されてる。何しろ首領直々に、
あなたを仲間に引き入れるか、死体を持ってくるよう言われてるの。
それだけ首領もあなたの力にご執心ってこと。」
俺はしばらく沈黙した後で口を開く。
「俺を殺そうとしたり、次は興味がある、仲間になれか、
自分勝手な奴らだな。返り討ちにあったらどうするつもりだ」
「……私たちが真正面から戦うとは思わないで欲しいわね」
「……」
「このままだと、この街にいる限りあなたは苦しむことになる。
その前に手を打とうとしているだけ。これは善意からの申し出なの。
さあボッキマンさん、決断して」
(ああ、脅迫されてるのか、俺は。ずいぶん無謀なことを考える女だな)
俺は考える。
ここで俺が暴れたら何人死ぬだろうか。
こいつらはおそらくこの会場にいる観客たちを人質にすることだろう。
その結果、たくさんの人間が死ぬ羽目になるはずだ。そして俺は糾業会どころかはるかに大きな厄介事を抱え込むことになる。
こいつはそこまで見越しての行動なのだろうか。
(……まあ、どうでもいいか)
俺は無敵の男。
無敵の男を脅迫するなど馬鹿のやることだ。
馬鹿は死ななきゃ治らない。
馬鹿は死ぬべきだ。
そう、今すぐに。
死ね。
俺は戦いに備え、拳に力を込める。




