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【悲報】ボッキマン、ヒーローショーを台無しにする その②

マツエイビルはテナントビルで一階から三階まではテナントとして飲食店が入っていて……四階は……。そうそう、五階には服屋があった気がするが、それ以降はオフィスかなんかで……まあどうでもいい、今は関係ない。


休日なせいか、あるいはヒーローショーのせいか中はそこそこ賑わっていた。

エレベーターに乗り込むと上へ向かうボタンを押す。扉はすぐに閉まり、ゆっくりと上昇を始めた。エレベーターには俺以外に何人か乗り込んで来たが、皆、目的はヒーローショーのようだ。


上昇する間、特にすることもないのでスマホでもいじろうと取り出すが、電波が届かないらしい。俺は大きくため息をつく。


(屋上に行けばなんとかなるか……)


そう言えば俺には目的のようなものはない。


今日だって別に何をするというわけでもなかった。


もちろん、さっきまでは取りあえずこのマツエイビルに向かうことだったり、今は悪戯ファンレターの犯人に会うのが目的なわけだが。


俺はなぜこんなことをしているんだろう?


今、こうしてマツエイビルに来ているのだってただの暇潰しに過ぎない。

いや、むしろ暇潰しですらない。

こんなくだらないことに付き合わされるくらいなら家で寝てた方がマシだ。


しかし、俺はここまで来てしまって、

しかも悪戯とはいえ呼び出しにも応じてしまっている。


一体なんなんだ?


自分が分からない。

俺はこんなところでいったいなにをしているんだ……。

俺は自分が何のために動いているのか分からなくなった。


(なぜって……悪戯を止めるためだろう)


じゃあ、それが終わったら俺はどうするつもりなんだ?

俺の目的は……俺は、どこに行くんだ?

……なぜこんなことを考えてしまうのだろうか?

俺の悪夢はまだ続いているのかもしれない。


「……どうでもいい」


そんなことを思っているうちにエレベーターは目的の屋上に到着した。

ドアが開くと同時に客たちが降りていく。俺はそれに続いて降りると、屋上へと足を踏み出した。屋上はまるで遊園地のような光景が広がっていた。

中央に噴水があり、その周囲にはいくつかのベンチが置かれている。さらに周りを取り囲むように小規模ながら様々なアトラクションが設置されていた。


ヒーローショーの舞台はすぐに見つかった。

屋上の中央部分にはステージがあり、その前方には観客用のベンチが並んでいる。ステージのサイドには関係者用なのか小さな小屋のような建物が設営されていた。


ベンチにはすでに多くの客が着席していて、談笑しながらヒーローショーが始まるのを今か今かと待っているようだった。

俺は辺りを見回し、ステージに向かって歩き出そうとして足を止めた。


……違うだろ、しっかりしろよ。


ヒーローショーを観に来たんじゃない。

俺は悪戯の犯人を捜すためにここにやって来たのだ。俺は改めて辺りを見回す。この中に犯人がいるかもしれない。俺は目を凝らすようにして注意深く観察した。だが当然と言うべきか、それらしき人物は見当たらない。


俺は肩を落としながらも屋上を見て回ろうと思ったが、ヒーローショーのために屋上は貸し切り状態になっており、奥に進むにはチケットが必要なようだった。


もちろん俺は『最強戦士サイキオンショー』のチケットなど持ってない。困惑していると、係員らしき女に呼び止められた。


「チケットはお持ちでしょうか?」

「いや持ってない」

「その他、入場証か招待状をお持ちでしたらお通しできます」

「チケットはここで買えるのか?」


「その他、入場証か招待状をお持ちでしたらお通しできます」

「いや持ってない」

「当受付ではチケットの販売を行っておりません」


係員は俺の質問には答えず的外れな案内を続ける。俺は苛立ちを感じ始めていたが、何とかその気持ちを抑えて聞き返す。


「ショーに用はない、屋上に用がある」

「その他、入場証か招待状をお持ちでしたらお通しできます」


女性は小馬鹿したような愛想笑いを浮かべている。こいつ、人の話を聞いていないのか。うんざりした俺はポケットから『ファンレター』を取り出す。


この手紙の主の目的は一体何なのだろうか。

もちろん悪戯の類いだとは思う。しかしわざわざこんなものを送ってこんな場所に呼びつけるなんて何か意味があるのではないだろうか。


そんなことを考えながら手紙を睨みつけていると、突然女の態度が変わった。


「そちらで構いませんよ」

先ほどまでの事務的な対応とは違い、急に笑顔になる。

そして俺の手からボロボロのファンレターを受け取ると、俺の手を引き奥へと連れ込んだ。


(どういう事だ?この女が差出人なのか?)


呆気に取られてしまった俺は、そのまま係員の後を連れられて、小屋の中へ案内される。そこは小さな事務所のような部屋で、机と椅子がいくつか並んでいた。壁際には衣装でも入っているのか大きなロッカーが設置されている。

俺は壁際に立て掛けてあったパイプ椅子を手に取るとさっさと腰掛ける。部屋の中には俺一人だけだ、意味が分からない。


どうしようかと思っていると、先ほどの係員が一人の女を伴い部屋の中に入ってきた。この女の方は見覚えがある。昨日、会ったばかりの奴だ。確か名前は……


「……センドレッド」


俺がその名前を出すと、係員は満足げに微笑み、俺の方に歩み寄ってきた。


「ようこそマツエイビルへ

 初めましてボッキマンさん。私はマドワセル、サイキオンショーへようこそ、

 歓迎しますわ!」

「……俺を知っているのか」


「そりゃそうよ、なにしろセンドレッドの命の恩人なんだから」


マドワセルと名乗った女は嬉しそうな顔で答え、隣にいるセンドレッドの顔を見る。

センドレッドの方は火傷がまだ癒えていないのかあちこちに包帯を巻き、顔には絆創膏が貼られている。

彼女に再会を喜ぶ様子はなく、困惑した表情でおずおずと俺に話しかけてきた。


「ボッキマン、あんた……もしかしてあの手紙を本気にしたの?」

「そんなわけないだろ。

 それで結局、俺の家に悪戯をしたのはお前たちということでいいのか?」

「それは……」


俺の言葉を聞いた瞬間、気まずそうな顔をするセンドレッドを庇うように、マドワセルが一歩前に出て、俺に頭を下げる。

それは謝罪というより感謝を示すような動作であった。


「そうね、ボッキマンさんが来ることになるとは思わなかったけど。

 あのマンションにお住まいでいらしたのね」


なんだこいつら、俺の家だと知らずにあんな悪戯してたのか。

一体なぜ?するとマドワセルは俺の考え見通したかのように話を続けた。


「ごめんなさいね。けれど、これも私たちのお仕事だから許して欲しいの」

「わかった、もう二度とやるな」


俺はそう言うと席を立つ。

これ以上ここにいても仕方がない。さっさと帰って寝よう。

しかしマドワセルはそれを許さなかった。


マドワセルが目配せをすると、センドレッドはそれに答えるように小さくうなずき、ゆっくりと俺の腕に手を絡めて来る。

その体は少し震えており、俺を見上げる瞳は怯えていた。


「まあまあ落ち着いてよ。

 さっき言った通り、あなたが来るとは思ってなかったの。

 お家がどこにあるかは知らなかったから。

 別に嫌がらせしようとしたかったわけじゃないの」

「……」


その時、どこからか音楽が流れ始めた。どうやらショーが始まったらしい。

俺はステージの方を見つめる。スーツを着た進行役らしき人物が立っており、客席に向かって手を振りながら何やらしゃべっていた。


「話は後ほどにしましょう。とりあえず一緒にステージを見に行かない?

 これからサイキオンが戦うんだから」

「興味ない」


俺は即答した。こんな所にもう用はない。

俺の反応を見たマドワセルは残念そうにため息をつく。


「あらそうなの?残念。せっかくあなたの席を用意したのに……どうしましょ?

 センドレッド、あなたからもボッキマンさんを説得してくれる?」


マドワセルがそう言うと、センドレッドはビクッと体を震わせ、俺の袖を掴む。

そして消え入りそうな声で俺に語りかけてきた。彼女の瞳に宿るのは恐怖、そして懇願だった。


「……頼むよ、ボッキマン。

 あたしみたいな可愛い子が泣くところなんて見たくないだろ?」


俺は黙ってセンドレッドの顔を見下ろす。


どうでもいい。


泣きたいなら勝手に泣きわめけばいい。

どいつもこいつも、なぜ俺をほっといてくれないのか。


だが、センドレッドの足が義足であることに気づいた俺は彼女を突き放すことが出来なかった。俺は仕方なく、薄暗い舞台袖にある関係者専用席に座り込む。

観客席にはすでに大勢の客が座っており、歓声を上げながらヒーローの活躍を待っていた。


俺の意思を確認したマドワセルは嬉々として俺の隣に座ると、ステージを指差す。


「ほら、あれがサイキオンよ、かっこいいでしょ?」

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