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【悲報】ボッキマン、ヒーローショーを台無しにする その①

俺の名はボッキマン。

同じメーカーのパーカーを何着も持つ男。

コーディネートを考えるのが面倒だからな。


俺はいつものように朝起きて、歯磨きをしながら鏡を見る。そこに映っているのは、どこにでもいる平凡な男の姿。

昨日あれだけ激しく戦ったのにもかかわらず俺の顔には傷一つない。当然だがな。


俺は口の中の泡を吐き出し洗面所から出る。そしていつも通り、スマホのニュースサイトを開くと目についた記事をだらだらと読むことにした。


『……昨日正午頃、K地区の商業施設にて大規模な火災が発生、

 現場付近のガス管に引火したことが原因と見られる爆発により……』

俺は画面をスクロールしながら、記事を読んでいく。

『……警察によりますと、火元はある飲食店の従業員用トイレであり、

 原因は不明とのことです。また、同飲食店の従業員用トイレでは先月も

 男性客が下半身を露出しながら騒いでいるのを清掃員が発見しており、

 警察は事件との関連を……』


なるほど……巨人が大暴れした事件はこんな風に歪めて報道されるわけか……。

他人事ながらいささか無理があるように感じるが、この街の報道に関してはそんなものだろうと俺は割り切っていた。


どこかから現れた怪物がいるだの、それと戦っていた連中がいただの、無能な一般人には何の関係もない。連中にできることなんて限られている。朝起きて、メシ食って、働いて、メシ食って、風呂に入って、寝る。それだけで手が一杯になるような無能な連中の身の上には日常さえあればいい。


そうすれば彼らは勝手に全力で生きている気分になるだろう。あるいはそれだけで手が一杯になるように、仕向けられているのか。


(どちらにせよ、俺の知ったことではないがな)


洗顔を済ませた俺はポケットから紙切れを持ち出してまじまじと眺める。昨日の夜、玄関の扉の下に落ちていたという差出人のわからない手紙だ。


『先日は助けていただきありがとうございました。

 あなたのおかげで大切なものを守ることができました。

 本当に感謝しています。

 もしよろしければ私と会っていただけないでしょうか。

 もしご機会をいただけるのなら、土曜日の〇月〇日〇〇時に

 マツエイビルの屋上まで来てください。待ってます。

 (追伸)

 私は友達からよくかわいいと言われます。

 あなたの好みに合うといいのですが……』


嘘っぽい賞賛の言葉と待ち合わせの時刻と場所が綴られているだけで、差出人の連絡先のような物はない。


俺はこの手紙を読み終えると思わず笑ってしまった。

こうも立て続けに訳のわからないことが起きると頭がおかしくなりそうだ。

俺は力なくベッドに倒れ込むと静かに目を閉じる。


もちろんこれまで俺が助けた奴などいない。

勝手に助かった奴だとか、俺に助けられたと勘違いしている奴ならいるかもしれないが。


「土曜日……今日か、急だな……」


俺の土曜日は平日と変わらない。

いつものように起きると歯磨きをして、着替えて、飯を食う。

それから街に出て、走り、家に帰って、飯を食べてからシャワーを浴び、 後はもう眠るだけだ。


しかし、まあいいか……どうせ暇だし……行ってみるだけならタダだ。

それに……こういう悪戯を二度としないよう俺自ら注意してやる必要があるからな。


『マツエイビル』というのは俺の住んでいるマンションから電車で二駅ほど離れた場所にあるテナントビルだ。


特に用事がないのであまり近づかないが、形状が特徴的なビルなので遠くからでも分かる。


俺はしばらく考えた後、出かけることにした。

目的地はマツエイビルの屋上。そこで待っているという謎のファンとやらに会うために。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


俺はマツエイビルの前に着くと時刻を確認する。まだ少し時間があるようだ。


「……少し早すぎたか。」


俺はため息をつくと辺りを見回す。どうということのない風景だ。


このマツエイビルにも特に変わったところはないように見える。鞄を提げ忙しなく動き回る買い物客の姿や、ベビーカーを押しながら歩く母親、疲れ切った顔の老人、そして清掃ロボットたち。


どこにでもあるようなありふれた光景が目の前に広がっている。

何の変哲もない日常。そこに俺、ボッキマンが紛れ込んでいるだけだ。ぼんやりとそんなことを考えていた。


ただ、普段のマツエイビルの様子は分からないものの、周囲のビルに比べて少し人通りが多いように思える。エントランスにはイベントの告知ポスターが貼られており、立ち止まってそれを見ている若い女の姿が目立つ。


『マツエイビル屋上に正義の超人現る!!最強戦士サイキオン登場!!』


どうやらヒーローショーが行われるらしい。


「スーパーヒーロー登場か……」


もちろん実際は世界を守ってくれる正義の味方なんていやしない。しかし、世の中にはこういう救世主だとか馬鹿げた妄想を信じる連中もいるのだ。

仮にそんなものがいたとしても世界を救うために戦っているんだから、ちっぽけなことで困っている無能な連中を助けるために、都合よく現れたりはしない。


ふと子供の頃の記憶を思い出しそうになったところで俺は頭を振った。くだらない感傷に浸っている場合ではない。今から待ち合わせがあるのだ。

……いや、その待ち合わせは悪戯なのだが。


もしかしてヒーローショーがあるのを知らずに、待ち合わせの場所に選んだのかこいつは?俺はボロボロになった手紙を取り出すともう一度内容を確認した。


(……場所も合っているし、日付も今日で間違いない)


俺はポケットに手紙をしまい込み、空を仰ぐ。

雲一つない快晴で絶好のお出かけ日和だ。こんな天気の中、わざわざ怪人の出る屋上に行く奴らはきっとバカだろう。


時間を持て余していた俺はスマホを取り出し、屋上でショーが行われるという『最強戦士サイキオン』とやらについて調べてみることにした。


結論から言うと、それは有志による合同製作で作られた特撮番組だった。

正義感の強い青年が悪の組織に殺された家族の復讐をするために、異次元のコズミック界から現れた存在に力を借り「サイキオン」として覚醒し……というストーリーのようだった。


よくある話だ。悪い奴、強い奴、悪くて強い奴が現れ、それを倒す。

それだけの単純な物語。


「ふーん……」


俺は少しも興味が湧かなかった。ネットの評判を見てもストーリーは酷評の嵐だ。俺はこういった創作物には全く興味はないが、あらすじを見ているだけでもなんだか随分と暗い気持ちになる作品だなとは思った。


まぁ所詮は素人が作ったものだ、仕方ない。


PVを見てもなんだか全体的に安っぽい作りに見える。しかし、こんな子供だましの番組のお話にムキになって酷評するなんて、よっぽど性格の悪い連中に観られてるんだろう。そこだけは気の毒なのかもしれない。


俺はもう一度あたりを見回した。やはりポスターを眺めている女が多い。こいつらがこの手のイベントに興味のある暇な人間とは思えないが。


もう少し『最強戦士サイキオン』について検索してみる。

どうやらモデル出身の主役がイケメンということと、その割に脚本が酷いということで話題になっているようだった。主役の演技は少々大根らしいがアクションに関しては本物らしく、そこだけは演出やストーリーを酷評している奴らも認めていた。


俺はその情報を見て思わず苦笑してしまう。


『もっとちゃんと話を練ってから作れ。あれじゃ主役が悲惨すぎるだろ』

『こんな酷い番組が初出演だなんて……

 彼のキャリアに傷がついたらどう責任をとるつもりですか!?』

『これエロ番組?悪いけど全然抜けない』


そんな書き込みをいくつも見た。

そして今日はその主演が生身でショーに挑むらしい、何とも仕事熱心な奴だ。


俺は一通り記事に目を通すと、スマホをしまう。これ以上は時間の無駄になりそうだ。待ち合わせの時間まではまだ少しあるが、もう行くとしよう。


どうせただの悪戯で誰も来ないだろうが、一応約束は守ってやることにするか。

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