【速報】ボッキマン、巨人を討伐する その⑮
一方その頃、ボッキマンと分かれたセンドレッド達は仲間と合流し、治療を受けていた。センドレッドの傷を手当てしている青年はテキパキとした動きで応急処置を施していく。
彼自身も傷を負っているのか血の滲んだ包帯を巻いていたが、そんなことは微塵も感じさせないほど元気よく振舞っている。
ボッキマンに背負われていた義肢の男は青年の作業を見ながら静かに呟いた。小さな声だったが、狭く乾いた部屋にはよく響いた。
「10人も仲間を失ってしまった……センドレッドは脚まで……」
「仕方ない。所詮寄せ集めだったからな」
そう答えたのは、口髭を生やした男だった。
男は首筋のタトゥーを掻きながら続ける。
「それに、そいつだって大きな失敗をしている。ある人物の懐柔に失敗し、
おまけに自分の素性を一般人に知られてしまった」
そいつと言うのは包帯を巻いた青年のことだろう。青年は口髭の男を無視し、部屋の隅でうずくまっていた義肢の男に笑顔で話しかける。
「ナイトさん。
みんなが戦ってた巨人ってさ、オレがいたら結果変わってたと思う?」
「……君が強いのは知ってるが、
おそらく……君も死者の一人になっていたと思う」
「あ、やっぱり?そうなんだ」
青年はショックを受ける様子もなく柔和な笑顔を浮かべたままだ。
「でもさ、そういう絶対勝てそうにない相手と戦ってみたい
気持ちもあるんだよね、オレ」
青年がそう言うと、ナイトと呼ばれた義肢の男が困惑した表情を浮かべた。
「やめてくれ……君まで失うような事があれば糾業会は……」
「大丈夫だって。
でもさ、ボッキマンって人すごくない?どんな人だったの?」
青年の言葉にセンドレッドが苦笑いする。
「……わけわかんない奴だった。いい奴だと思うけど……
話しても何考えてるか全然わからなかったし……少し怖かった……」
「でも治安部隊の連中からセンちゃんやナイトさんを
逃がしてくれたんだよね?」
「ああ、彼にどういうメリットがあるのかまったくわからなかったが……
助けられたのは事実だ」
「へぇー、ちょっと興味湧いてきたかも。オレも見たかったな、ボッキマン」
そう言って青年は笑ったが、口髭の男は呆れたようにため息をつく。
「そのボッキマンとやらはシックスパックとイグナイトに
負けたんじゃなかったのか?あいつら、一時期ウザイ程自慢してたが……」
すると、それまで部屋の片隅でうずくまっていてた義肢の男が顔を上げ、
はっきりとした口調で告げた。
「違う。何らかの理由で彼は本気では戦わなかったのだろう。
実際に見れば分かる……彼の力がどういう物か。巨人を一撃で殺し、
空を割った男の力……私はこの目ではっきりと見た……!」
「その目も治してもらえ」
口髭の男はタトゥーをさすりながら素っ気なく言った。
「……ごめんねー、ナイトさん。あいつ疑り深くって、オレもさ、
世の中めちゃくちゃ強い奴がたくさんいるって知ってるから信じるよ」
青年が屈託のない笑顔を見せると、ナイトと呼ばれた義肢の男は黙ってしまった。しばらく沈黙が続いたが、やがて口髭の男が口を開く。
「ボッキマンとかいう変態なんぞどうでもいい。
ずいぶん戦力を失ってしまったがこれからどうするか考えないとな」
「……どうでもいいとはなんだ……どうでもいいとは……。
……そうだ、とりあえず……まずは仲間を急ぎ集めなければ……
現状に苦しんでおり、そして、弱者のために立ち上がれる者を
集めなければならない……」
義肢の男は立ち上がり壁に立てかけてあった杖を手に取ると、
部屋を出て行こうとする。
「どこに行くつもりだ?」
「本部だ。首領に報告するつもりだ。
……ボッキマンという男について、
巨人のことについて……それから、罰を受けよう……」
義肢の男は振り返らず答えると、そのまま立ち去った。
残されたセンドレッドは不安げな表情を浮かべる。
「罰ってさ、どういうものなの……?」
センドレッドの質問に青年が血の滲んだ包帯を見せびらかし得意気に答えた。
「それは秘密。オレも受けたけど、めちゃくちゃ痛かっただけで
死ぬほどのことじゃないから安心してよ」
「……う、うん、わかった……」
「あ、そうだ。ナイトさんに聞いたんだけど、センちゃんって
ボッキマンにお礼する約束してたんだっけ?」
青年が思い出したかのように言う。
「え、ああ、うん……そうだけど」
「じゃあさ、もしボッキマンと連絡が取れたらさ、オレも一緒に行っていい?
どんな奴なのか知りたいんだ」
「……別にいいけど……」
「おい」
突然口髭の男が話を遮ってきた。センドレッドが振り向く。
「お前ら、もしかしてボッキマンを仲間に誘おうとか考えているのか?」
「え……?」
「以前、シックスパックとイグナイトが殺そうとしていた相手だというのを
忘れるなよ。恨まれていても仕方がないんだぞ」
そう言われても、青年は笑顔のままだ。
「まあでもさ、巨人より強いってんならオレも会ってみたいな、
そんなに強い奴なら仲間になって欲しくない?
ねぇ、センちゃんはどう思う?」
「……あたしは……仲間にするのはムリだと思う。
なんか我が道を行くって感じの奴だったし……」
「……そうなんだ……じゃあオレと正反対のタイプだね」
青年はそう言うとゆっくり立ち上がり、頭を掻く。その表情は先ほどまでとは違い、自然な笑顔になっていた。
「みんな何か食べたい物ない?オレ、買ってくるよ」
「俺はなんでもいい」
「じゃあ兄貴は歯磨き粉にするね」
「やめろ!……ああ、もういい、俺も行く……」
口髭の男と青年が買い物へと出かけると、一人きりの部屋でセンドレッドは膝から下が無くなった自分の足を眺める。
「……なんで……」
センドレッドの目に涙が浮かぶ。
「なんでこんなことになっちゃったんだろう……」




