【速報】ボッキマン、巨人を討伐する その⑭
神代と治安維持部隊は驚いた表情を浮かべている。
俺も自分でも何故そんな言葉を言ったのかよくわからなかった。
ただ、このままあいつらを放置して、お礼の話が無しになるのが腹立たしかったのかもしれない。
「没木さん、あなたは自分が何を言っているのか理解しているのですか?」
「一刻を争う緊急事態だと言うなら民間人の手くらい借りたって構わないだろ」
「それは……」
神代は口ごもり、他の治安維持部隊の隊員たちと目を合わせる。
「心配ならお前たちの中の一人を護衛につけたらいい。
それなら文句はないだろう」
俺がそう言うと、隊員たち互いに様子を伺っていたが、しばらくしてその中の一人が名乗りを上げた。
「神代隊長、自分が責任を持って彼らを護送いたします」
神代は少し迷っていたようだが、最終的には納得し、口を開いた。
「わかりました。あなたに一任します」
「はい!」
神代の言葉に嬉しそうに返事をするその隊員は、先ほど俺を蹴り飛ばした隊員だった。奴は俺の前に来ると、無言のまま手を差し出してくる。握手を求めているようだ。
俺は少し躊躇ったが、仕方なく手を握り返してやることにした。
俺は呆然としているセンドレッド達に歩み寄り、男の手を取って立たせると、
肩を貸しながら俺についてくるように指示を出す。
「この後は自分たちでどうにかしてみせろ」
俺が聞こえるか聞こえないかの声でそう言うと、男は真剣な表情を浮かべながら小さく何度もうなずいていた。
俺は再び男を背負い、センドレッドを抱えて商業施設の入り口へと向かう。
俺の後ろを治安維持部隊の護衛役である隊員がついてきているようだったが、特に話しかけてくることもなく黙々と歩いているだけだった。
神代の元から去る間、ずっと刺すような視線を感じていたが、俺は気にせずに歩く。
完全に廃墟と化した商業施設の入り口前には十数人の別の治安維持部隊らしき連中がおり、
俺と一緒に来た隊員が事情を説明していたが、俺は気にせず歩を進めた。
そして一瞬の隙をつき、俺は人気のない建物にセンドレッド達を降ろす。
「あ、ありがとう……」
「……すまない、ボッキマン君、本当に感謝する」
センドレッドと男は俺に頭を下げてきた。
「助けたつもりはない。もう無関係な俺を巻き込むな」
俺はそれだけ言うと、その場を後にしようとした。しかしその時、ボロボロになった俺の服をセンドレッドが掴む。
「ボッキマン、あたし、あんたへのお礼、忘れてないから……」
「まず怪我を治してからにしろ」
俺は今度こそセンドレッド達の元から離れた。これ以上ここに居ても面倒なことにしかならないだろう。
俺は廃墟を駆け抜け、適当な建物を見つけ屋上まで駆け上がる。
そこからは事故現場が一望できた。
雨と消火活動のお陰で炎はほぼ消えかけているようだ。しかしそれでも未だに黒煙が立ち上っており、その下で黒い雨でどろどろに汚れた多くの人間が慌ただしく動いている。
俺はその光景を眺めつつ、センドレッド達を助けてしまったことに対して考えを巡らせていた。あの場で俺がいたことで連中の運命が変わったとは思えなかった。
「どうでもいい。俺は無関係だ」
俺は自分に言い聞かせるように呟き、思考を打ち切った。
俺には関係のないことだ。
センドレッドと神代たちがその後どうなったかなど知る必要もない。
俺は大きく深呼吸すると、改めて自分の体を見下ろした。
服はもうただのボロ布だ。フードは焼け焦げ、ズボンの生地は破れ、残った部分も黒く汚れている。
「はぁ……」
俺は改めてため息をつく。
その時、俺の後ろで大声が上がった。
「あああぁーっっ!
ボッキマンさん、こんなところにいたんですね!?」
門戸だ。
そう言えばこいつの事を完全に忘れていた。
門戸は俺を見つけると慌てた様子で駆け寄ってくる。
「探したんですよ!?
置いていくなんてひどいじゃないですか!!」
俺が返事をする間もなく、門戸は一人でペラペラと喋り始めた。
「でもあの怪物を倒されたんですね!?
火球も消え去ってしまいましたし、流石です!!」
「記事は書けそうなのか?」
俺は適当に相槌を打つ。
門戸は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「んっ!!もうバッチリですよ!あとはボッキマンさんの写真さえあれば完璧なんですけど……あっ、写真はNGでしたね!ハハハ!怪物が死ぬところを確認できないのは残念でしたけどボッキマンさんがやっつけたと聞いたら父も大喜びしてくれるはずです!!」
「そうか」
「そうですよ!記事のタイトルは『速報!ボッキマン、巨人を討伐する!』こんなもんでどうでしょう!?ハハハ!」
「ああ」
俺は短くそう答えたが、ふと、思いついたある事を門戸に質問する。
「お前は超能力者が集まる組織や対超能力者の特殊部隊のことについて
何か知らないのか?」
「いえ、僕は知りませんけど……そんなことよりもボッキマンさんの事をもっと教えてくださいよ!」
「……」
こいつ、まったく使えないな……。
俺は心の中でそう思いながらも、それ以上何も言わなかった。
「そうか、なら俺は帰る」
「んっ、もう帰っちゃうんですか?もう少しお話を聞かせてくださいよ!!」
「用事は済んだ」
俺がそう言うと、門戸は肩を落として露骨に落胆した様子を見せた。俺はそれを無視して屋上の柵を飛び越える。
そしてそのまま飛び降りようとした時にまた声をかけられた。
「ボッキマンさん、絶対またお会いできますよね!?」
俺はその声に応えることなく、再び振り出した雨の中へと飛び出し走り去った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
俺はぼろ切れをまとったまま、薄暗くなった街をひた走る。
沈みかけた夕日が見ていると何故か不思議と達成感がこみ上げてきた。
俺はその感情を押し殺しながら家路を急ぐ。
部屋の前まで来ると、ドアの前に誰かがいるのが分かった。
ちょうど隣人が買い物から帰ったところに鉢合わせしてしまったようだ。
隣人は黒焦げになっている俺の服を見て絶句していたが、俺は軽く会釈だけして部屋の中に入った。
「……ただいま」
誰もいない部屋に向かってそう言う。
お掃除ロボットの機械音声だけが俺の言葉に応えてくれた。
俺は靴を脱ぎ捨て、風呂場へと向かう。
シャワーを浴びて体を洗うと、新しい服を着た。そしてベッドに倒れ込み、天井を見つめながら今日一日の出来事を思い返す。
K地区に向かい、門戸に会い、センドレッド達を拾い、巨人を倒し、そして神代に絡まれた。後は寝るだけだ。
今日は朝からずっと振り回されっぱなしだった。
…………。
「……朝から?」
朝、俺は何をしていた?
俺は必死に思い出そうとする。しかし頭がぼんやりとしていてうまく考えられない。
まるで夢の中にいるような感覚だ。
俺は頭を振り、考えることを止めた。
……どうでもいい。
俺は眠りにつくために無理やり目を閉じたが、
その時ふと何かの気配を感じ、目を開く。
目を開いた先にいたのはお掃除ロボットだった。
ロボットは封筒に入った手紙のようなものを差し出して来る。
玄関のドアの下に挟まっていたらしい。
差出人は不明だ。
俺はそれを引き裂きこうと思ったが、手を止める。
少し考え、俺はポケットへ手紙を無造作にねじ込んだ。
「……どうでもいい」
俺はもう一度自分に言い聞かせるように呟くと、再びまどろみの中へ落ちていった。
俺の名はボッキマン。
いつでもどこでも立ちあがる男。それが俺だ。
それでも今はゆっくり眠っていた方がいいだろう。




