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【速報】ボッキマン、巨人を討伐する その⑫

「パー……カーだと……?なんだ、どういうことだ……」


俺は突然頭に響いた声の主を探すように周囲を見渡す。だが、どこにも声の主らしきものは見当たらない。


しかし、声は俺に話しかけ続けている。


『無敵だかなんだか知らねえけどよー、

 不細工な戦い方ばかしやがって。

 おめーのせいで残り少ないアージスが台無しになるだろうが』


「お前は誰だ」


俺の耳には確かに巨人とは別の、頭の悪そうな男の気味の悪い声が聞こえる。明らかに俺とは別の意志を宿した何者かの意志。


その声はまるで俺のことを嘲笑うかのように続ける。


『フッ……お前の一歩先を行く男とでも言っておこうか』


俺は自分の身体が発熱するかのような感覚を覚える。これは怒りだ。その声に何故か俺は生まれて初めて殺意というものを覚えた。


俺は拳を握りしめる。


『誰がどうなろうと俺には関係ない、

 そう言い続けてきたのはお前なんじゃないのか?

 何が保証してくれだ?

 そんなものあるわけがないし、誰にもできないだろ?』


俺は自由だ、誰にも邪魔されない。俺の道を阻むものなど存在しない。

俺はこの世界に生まれ落ちた時からそうして生きて、そしてこれからもこの世界でそう生きるのだ。


『ならお前はさっきから誰に何を遠慮してるんだ?』


俺は誰にも遠慮などしない。

俺は……。


俺は……俺は……、俺の視界が赤く染まる。

それは、火球の放つ光。


もうすぐそこまで迫ってきている。

その瞬間、俺の脳内で何かが弾けたような気がした。


「どいつもこいつも……」


俺は大きく息を吸い込んで叫んだ。


「勝手なことばっか言ってんじゃねえ!!」


俺は拳を振り上げ、目の前にある巨人の背中に叩きつける。凄まじい衝撃とともに巨人の体が粉々に吹き飛ぶ、奴は悲鳴を上げることもなく息絶えた。


俺は空を見た。


火球が二つ目の太陽のように中空で輝いている。火球の中の無数の人影たちは怒号のような叫び声を上げ、激しくうねり、回転していた。

俺はそれに構わず拳に力を込める。


「お前らも……俺の頭の上で……

 勝手なことやってんじゃねえぞコラ!!」


渾身の力を込めて振り振り上げた俺の腕が、火球ごと大空を叩き割った。

俺が放った一撃は火球のみならず空までも巻き込んでいた。空を貫く衝撃波は炎と黒雲の巨大な渦となり天を覆い尽くしていく。


そして、落雷のような音と共に空に閃光が走った。空に亀裂が入る。空が割れ、真っ黒な雨粒が落ちてくる。

俺はその光景を見て、自分の力の大きさを確認していた。


(どうだ……見たか!俺は無敵だ!)


俺は拳を開き、そして閉じる。


「俺は無敵だ!

 俺は無敵なんだ、俺は……俺は……!!」


俺の目からは真っ黒な涙が流れ出していた。

俺は自分が泣いていることに驚き、そして笑っていた。


俺はしばらく笑いながら涙を流し続けていた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


俺は地面に倒れている巨人の残骸に目を向けた。

そこには、もはや原型を留めていない灰の塊が転がっていた。


灰は黒い雨に濡れ、崩れ、ゆっくりと地面へと流れ出していく。


「おい、携帯を返せ」


俺はセンドレッドと男に声をかけるが返事がない。二人は黒い雨に濡れながら呆然と空を見つめていた。


「聞こえなかったか?早くしろ」

俺がもう一度声をかけると、ようやく気が付いたのか、ハッとした表情になる。


「あ、ああ……そうだな、すまなかった……」

男は俺にスマホを手渡すと、床に転がっていた杖を手に取りよろよろと歩き出す。

泡の力なのか、男の腹の傷は先ほどより少し塞がってはいるが、それでもまだ動けるような状態ではないようだ。

それでも男はセンドレッドを背負い、必死に歩こうとする。


「助けて欲しいならそう言え」

俺はそう言うと男を背負い、センドレッドを抱きかかえて歩き出した。


「うん、ごめん……」

そう言うと、センドレッドは俺の肩に手を置いた。


火元の巨人は死に、空にあった火球は消え、黒い雨が降り注いだ影響で火災は収まりつつあった。おそらくあと数十分もすればこの辺り一帯は完全に鎮火するだろう。


「てかさ……ボッキマンは何でこんな所に来てたの……?」


センドレッドが恐る恐る俺に尋ねてきた。

俺は一体何のためにここまで来たのだろうか。


「ただの野次馬だ」

俺の答えに、センドレッドは不思議そうな顔をしていたがそれ以上何も聞いては来なかった。俺も聞かれても困る。自分でもよくわからないのだ。


「お前たちこそなんでこんな所に来た」

俺はセンドレッド達に質問を返す。センドレッドは俺の背中にいる男にアイコンタクトを送り、自分たちの事情を話していいか確認しているようだった。


「んー……まぁ……その、成り行きってやつで……」

「自分の理由は秘密にするのに、俺には聞くのか」

「ごめん……」

センドレッドはそう呟くと、それきり黙ってしまった。


「こいつが足を失ってでもやる価値のあることだったのか?」


俺は男に問いかける。こいつらがあの巨人を相手に何をしたかったのか知らないが命を賭けてまでやるべきこととは思えない。


「私は……私達は……ただ……」

男は言い淀む。

「もういい」

これ以上は興味がなかった。


男が何かを言ったが、俺にはよく聞き取れず、そのまま無視をした。


「あたしは別に足とか気にしてないから!

 最近の義肢って高性能だし、ほら、おじさんだってもう義肢じゃん!」


沈黙に耐え切れなくなったのか、センドレッドはわざとらしく明るい声で喋り始める。彼女の言っていた通り、男の手足はすでに義肢のようだったが、俺にはそれがどの程度のものかはよくわからなかった。


「そうか」

「……」

「……」


また沈黙が流れる。その時、不意に、男が空を見上げて小さく声を上げた。


「あ……あれは……?」

俺もつられて空を見る。すると、黒い雨雲の中に微かに光るものを見つけた。それは、徐々にこちらに向かってきているように見える。


「あ、飛行機かな……?珍しいね……」

センドレッドの言葉を遮るように、男が口を開く。


「いや……あれは治安維持部隊の輸送機だ。

 確か、最近配備された新型だと聞いたことがある……まずいな……」

「まずいとは?」

男の表情が曇る。


「すまない、ボッキマン君、我々は、ここまででいい……」

男は背中から降りたが、すぐに崩れ落ちるように膝をついてしまう。


「センドレッドはどうする」

俺がそう言った途端、腕の中にいたセンドレッドの体がみるみる内に泡に包まれ、透明になって消えてしまった。


「センドレッド……?」

センドレッドがいたはずの場所には何もなく、黒い雨が静かに降っているだけだった。しかし腕の中にはまだしっかりと重みを感じる。


「……これは私の能力だ、この泡に包まれている間、

 彼らは私たちの姿を認識できなくなる。だから安心してくれていい……」


男の声が聞こえる。

男の姿もまた泡に包まれ消えたのか、どこにも見当たらなかった。


「礼があるという話だったんだがな」

俺はそう言うと、見えなくなったセンドレッドの体を地面に降ろす。


「……本当に、申し訳ない……ありがとう……」

消え入りそうな男の声が聞こえてくる。

俺は無言のままその声に背を向けると、着陸姿勢を取る輸送機を後目に歩き出す。


「さようなら……ボッキマン……」

男のそんな言葉が聞こえたが、振り返ることなく俺は歩き続けようとした。


だが、輸送機から出て来た連中は俺の姿を認めると、慌てて行方を遮ろうと近づいてきた。先頭にいた白い軽量型の装甲服で身を固めたリーダーらしき女が動揺したような声を漏らしながら俺の前に立つ。


「ああっ?!

 えっ……えっと、あ、あなたは……!?」

俺は女の問いを無視して歩き続ける。


「ちょ、ちょっと待ってください!こんなところで何を……」

「避難するところだ」

俺の一言で、女はビクッと肩を震わせる。


「ぼっ、没木さん!

 私です!神代しんたいです!」


女は慌てた様子で俺に話しかけてくる。

俺は面倒だと思いながらも仕方なく立ち止まり、顔を上げる。


「ああ、久し振り」

俺は適当に返事をした。

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