【速報】ボッキマン、巨人を討伐する その⑧
「信じられないかもしれませんが本当なんですよ。
んっ、まあ、信じてくれなくてもいいんですけどね」
そう言いつつも、門戸はどこか誇らしげな様子だった。
「でも、ボッキマンさんが僕の家族に興味を持ってくれたようで嬉しいですよ!
実は僕の父もあなたのことを知りたがっていたようですからね!」
「何だって?」
俺が問いかけると門戸は目を輝かせ笑みを深める。
「そのせいか以前のインタビュー記事で父を強く失望させてしまいました。
……いえ、別に恨んでないですよ!
今はそれよりもあの怪物を追うことに全力を尽くしたいですから!!」
その時、遠くの方で爆発音が響いた。その視線の先には炎に包まれたビルが見えた。ビルからは黒い煙が立ち上っている。
門戸はどこからかデバイスを取り出すと、ビルと上空で燃え盛る火球を交互に撮影し始めた。
俺は夢中になる門戸を後目にその場から立ち去ろうとしたが、門戸は歩を進める俺に気がつくと大慌てで前に回り込んできた。
「ちょっ!ちょっ、待ってくださいよ!どっ、どこに行くつもりなんですか!?」
「家だ」
「んぼっ、ボッキマンさん、ちょっと待ってくださいよ!
何も終わってないじゃないですか!火災も、救助も、火の玉も!!
それからあの怪物も!!な、何も解決してないですよ!!」
「それがどうした」
「ぼっ、ボッキマンさんのその力があれば、あんな化け物なんて一発でしょう!?
どうにかしようとは思わないんですか!?!」
門戸は俺の腕を掴むと必死の形相で引き留めて来る。だがこいつはいい加減なことを言っている。こいつが知っているであろう『俺の力』はせいぜい治安維持部隊を叩きのめした程度の物だろう。
それでどうしてあんな怪物や火災に対処できると思えるのだろうか。
「現場の連中が何とかするだろう」
「でも、だからといって放っておくなんて……!
んんっ、それにあの火の玉が消えないと、消防も救助も難しいでしょう!?
みっ、見てくださいよ!」
門戸は興奮気味に腕を引っ張り、空を指さす。
上空の火球はさらに大きくなっているようだ。先程まで目を凝らさないと見えなかった火球の中で藻掻く人影は、今やはっきりと視認できる。地上にいる連中からもその姿は見えているはずだ。
しかし彼らは今はそれどころではない、といった感じで必死の消火活動を続けていた。とはいえ、俺には関係のないことだ、どうにかしてやる義理もなければ理由もない。だがこいつはそうは思っていないようだった。
「ああ、大変そうだな」
「でしょう!だからボッキマンさんも……」
門戸がそこまで言うと俺は振り向き、彼を見つめる。
「死ぬかもしれないけど怪物と戦って欲しい、と言いたいのか?」
「それは……」
彼は口ごもりながら視線を落とした。
しかし、実際どうなのだろうか?
例えばあの火球だ。以前、ビルの屋上でイグナイトの火の玉にやったように強烈な衝撃波を打ち込めば、あの火球も消し去ることは可能なのかもしれない。
だが、あの火球は普通ではない。
そのまま黙って消えてくれる保証なんてどこにもないだろう。ひょっとしたら大爆発を起こして商業施設どころか街ごと吹き飛ぶかもしれない。
だから、俺があの火球をどうにかするのは無理な話なのだ。
ならば放っておくしかないのではないか。
そう、俺には関係ない。
俺には関係ないことなのだ。
俺には関係がないのだから放っておいてほしい。
なのに何故こいつは俺を引き留めようとするんだ。
一体何を考えているというのだろうか。
(わからない……)
門戸は脂汗を垂らしながら必死に何かを叫んで、俺を説得しようとしている。
こいつも苦しいだろうに、明らかに常軌を逸した行動だ。
何の力もない一般人のくせに、分別もなくこんな灼熱地獄にのこのこやって来て、怪物を探したり、取材と称して無敵の力を持っている俺に近づいてくるような奴だ。
きっとこいつは、自分なら何とかなると思ってるんだろう。
こいつが父親似ならモンド製薬の責任者はきっととんでもないバカに違いない。
しかし、同時にこいつは母親のために必死に頑張ってもいる。自分の命すら顧みずに。そう考えると胸の奥底が少しだけ疼いた気がした。
「……お前は何を考えている?」
俺はいつの間にかそんな言葉を漏らしていた。門戸は驚いた顔をしている。
その顔を見てハッとする。
何を聞いているのだ俺は。こいつの考えなど知ったことか。
しかし門戸は一瞬、迷うそぶりを見せた後、真剣な表情で答えた。
「……僕の考えですか?」
「あの火の玉を消すためにお前は何をすべきだと思う?」
俺は先ほどの言葉を取り繕うために、そんな質問を口にしていた。門戸は顎に手を当ててしばらく考えた後、答える。
「これまでの状況から、上空の火の玉はあの怪物が作り出したものだと思われます。そして怪物はおそらくまだ商業施設の中にいます。なので、怪物を探し出すことがまず第一です。そして怪物を見つけ出し、交渉して撤退させるか、あるいは、力ずくで倒す……それで万事解決です。んんっ、僕が考えているのはその二つですね」
「そうか……」
どうやらこいつはこの子供が考えたような解決策を本気で言っているらしい。
まあ、期待していなかったがな……。俺は少し考えて口を開く。
「交渉とはどういう事だ?
誰かが裏で怪物を操っているとか言いたいのか?」
「いっ、いえ、そういうわけではないんです。
ただ、映像を確認していた時に、あの怪物から人間の話し声のようなものが
聞こえてきたんで、もしかしたら会話できるんじゃないかって……」
「……そうか、わかった。
もう一つ、怪物を倒せばあの火球も消えると思うか?」
「んっ!?あっ、はい、多分……」
門戸は自信なさげに首を傾げた。俺は小さくため息を吐くと、彼に背を向ける。
「行ってくる」
「えっ、行くってどこへですか!?」
「怪物のところだ」
そう言うと門戸の顔がパッと明るくなった。
「じゃあ、僕も連れて行ってください!お願いします!僕と一緒にあの怪物を取材しに行きましょう!ボッキマンさんが一緒に来てくれればもっとすごい記事が書けるはずです!!」
門戸は必死の形相で懇願してくる。
俺はそれを冷めた目で見つめた後、口を開いた。
「あの炎の中でどうするつもりだ。お前は確実に死ぬだろう」
こいつと行動を共にしても何も得はない。こいつの言葉は聞く価値もなければ、地獄のような場所で連れ回すメリットも見出せない。
「大丈夫ですよ!きっとうまくいきます!だって……」
門戸がそこまで言いかけたところで、俺は背を向けて駆け出した。
後ろで悲痛な叫びが聞こえる。
「……ボッキマンさん!!僕も連れて行ってください!
お願いします!!お願いします!!」
振り返らずに走る。足を止めずに、俺は全力疾走していた。




