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【速報】ボッキマン、巨人を討伐する その⑦

俺が黙っていると、男は不思議そうに顔を覗き込んで来る。


全身を白い特殊繊維製のスーツに身を包んだ細身の男だ。ヘルメットのせいで顔はよく見えないが、この男のことは見たことがある。


名は、確か……こいつは──


「お久しぶりです!覚えてますか?

 月刊『モンドリューツ』の編集長兼ライターの

 門戸流都もんどりゅうつです!」


俺は記憶の糸を辿る。

ああ、いたなこんな奴……確か俺のことを取材したいとか言ってたな。


「んっ、きっと来てくれると思ってましたよ!

 いやぁ本当に良かった!」

「ああ……」


俺は素っ気なく答えると、さりげなく周囲の様子を伺った。

どうやら他に人はいないようだ。


俺は門戸に向き直る。ヘルメットの灰色がかったレンズ越しに見えるその顔は少し苦しそうだが、瞳には希望と喜びが溢れているように感じられた。


「それにしてもこないだは困りましたよ!」

門戸は両手を広げて、まるで舞台役者のように大袈裟な身振りで語り出す。


「だってあなたのインタビュー記事、どう頑張っても1ページにもならないんだから!まあ仕方ないかなって思って、記事の下の方に塗り絵を付録として追加したら父に叱られちゃいましてね!括約筋を使って割り箸を割る一発芸で許してもらいましたけど!いや、あれは傑作だったなぁ!」


門戸は一人で楽しげに笑う。何がおかしいのだろう。

門戸は俺の様子など気にせず話を続ける。


「危うく父にスポンサー契約を打ち切られるところでしたよ!まあそれも過去の話ですけども!んっ、それよりも今はこの大事件ですよ!まさかこれほどとは思わなかったなぁ!いやーもう驚きの連続ですよ!!ほら、あれを見てください!!」


門戸は興奮気味に手を振り回しながら空を指差す。


俺は促されるままにそちらへ目を向けると、そこには先程までと同様に狂ったように燃え盛る巨大な火球が浮かんでいた。俺は無言のまましばらく眺める。


気のせいか、火球は前よりも大きくなっているような気がした。


「……ああ、知ってる」

「そうですか!じゃあこれはどうですか!?」


次に門戸が見せたのは、タブレット端末の画面だった。そこに映し出されているのはこの近辺で撮影されたと思われる動画のようだ。


「この映像は現在炎上中の商業施設内の様子を撮影したものです!すごいですよ!顔にたかってるダニまで撮影できるカメラで撮ったものですから臨場感たっぷりですよね!いや、でもちょっとこれ画質悪いかな?あっ、そういえばボッキマンさんはダニとか大丈夫ですか?」


俺は返事をせずにその映像を眺めていたが、門戸は勝手に喋り続けている。

映像の状況から見るに爆発事故前のものらしい。


しかし爆発どころか何の事件性もない状況で何故わざわざこの建物を撮影しているのだろうか。俺は疑問を抱きながらも、画面に見入る。

そして爆発音と共に建物が大きく揺れ、人々が建物の外に吹き飛ばされていく。


「…………」


俺と門戸は黙ったままその様子を見ている。


門戸は無表情だったが、彼の瞳の奥底に得体の知れぬものが渦巻いているように感じた。そして次の瞬間、画面の中でそれは起こった。


炎の中から、突然現れた巨大な何かが手を伸ばして一人の人間の首根っこを掴むと、そのまま握り潰したのだ。血飛沫を上げながら、その人間だったものは空中でバラバラになって地面に落下していく。


そしてその巨大な何かがゆっくりとこちらに近づいてくる。


俺たちは黙ったまま、そいつの挙動を凝視していた。


そいつはカメラからその姿が見えるギリギリの位置で立ち止まると、カメラの存在に気が付いているのかいないのかただ黙って下界を見下ろすように立っていた。


(……なんだ、こいつは……)


俺は思わず目を見開く。その姿はあまりに異様だったからだ。まるで頭部を失った巨大な人間だ。しかし全身が血に塗れ、腕や脚の関節はあり得ない方向に曲がっている。そして背中からは人体のような器官が何本も生えており、それらがまるで蛇のように絡み合い燃え盛っていた。


怪物は動かない。ただじっとその場に立っているだけだ。俺もまた視線を動かせないまま、画面の中にいる異形の姿に釘付けになっていた。


やがて、怪物はその身を翻すと、何処へともなく消えていった。

その直後に炎の嵐が巻き起こると、その熱量にカメラも耐えきれなかったのか映像はそこで途切れてしまう。


俺が暫く言葉を失ったままでいると、

門戸は興奮気味に鼻息を荒くしながら俺の肩を揺さぶってきた。


「すごいでしょう!?きっとこいつは世界を破滅させるために異世界から召喚された悪魔に違いありません!!僕は信じてましたよ!きっと破滅の時が来ると!いやぁ、まさかこんなに早くその時が来るなんてなぁ!!んんっ、こうしてはいられない、一刻も早く記事を書かないと!!」


興奮しながらまくしたてる門戸の話は、

もはや俺の耳にはほとんど入ってこなかった。


「…………」

「あれ?もしかして興味ありません?」

「お前は悪魔だの破滅だの本気で言ってるのか?」


そう言うと門戸は驚いたように目を丸くして、慌てて取り繕う。


「い、いえ、そう言った方が興味を持っていただけるかと思いまして……

 すみません……」

「別にいい」


門戸はどこか寂しそうな笑みを浮かべていた。その瞳には先程の狂喜や狂気は微塵も感じられず、いたって平凡な青年のものに戻っていた。


門戸は再びタブレット端末を覗き込むと、少し考えるような仕草をして口を開く。


「でも……これならたくさんの記事が書けます。

 父も喜んで定期購読を続けてくれるはずです。

 母さんもまだまだ生きられるんです。

 犠牲になった人たちには申し訳ないことですが、本当に最高ですよ」


俺は無言のまま門戸の横顔を眺める。彼は穏やかな笑顔を見せていが、その顔には火炎が照り返し不気味な影が落ちていた。


「母さん?」

俺の言葉に門戸の動きがピタリと止まった。


「……はい?」

「母さんが生きられるとはどういう意味だ?」


門戸の顔から笑みが消える。その顔は先程までのどの表情とも違い、能面のように感情を感じさせないものだった。


「はははは……母さんは僕の母さんですよ……。

 んっ……ただ、その、母はちょっと体が弱くて……

 もう長くは……ないんです。

 ……それで……父に援助してもらおうと思って、

 そのためにはモンドリューツの記事が必要なんです。

 父が……定期購読の契約を結んでくれれば、

 母さんの治療費を負担してくれることになってるんです」


そこまで言うと門戸は一拍置き、再び話し出す。


「だから僕は記事を書いているんですよ!

 この世でただ一人の読者、僕の父を楽しませるために!!」

「そうか」


「お前の親父が許可しないとお前の母親が死ぬということか」


俺の問いに門戸は歯を剝き出しにして答える。


「そうなんですよ!それが嫌なら面白いモノを作って契約させてみろって!びっくりしますよね!んっ!でも父の援助がなければ母さんの治療はできないのも事実です!だから、そのために僕は毎日街を走り回り事件を追い続けているんですよ!」

「……」


こいつの言っていることは意味不明だが、大筋は何となくわかる。

こいつは母親に死なれたくないから、その治療のために父親の興味を引くような面白い記事を書こうと必死になっているのだ。


そしてそれが出来ないようなら、母親の死は確定というわけか。しかし、俺には理解できない。契約だって?こいつの親父は一体何を考えているんだ?


門戸は俺の沈黙をどう受け取ったのか、気まずそうに頬を掻く。


「すみません。ボッキマンさんには全然関係ない話なのに、

 長々と喋っちゃって……」

「いや、いい……お前の親父は変わった奴だな」


門戸は一瞬きょとんとした顔をしたが、

すぐに満面の笑みに変わり再び歯を剝き出しにする。


「んんっ!!はい!自慢の父親です!!知ってましたか!?僕の父親はあの、モンド製薬最高経営責任者の門戸薬人もんどやくじんです!!つまり、僕の父は世界で一番凄い人間なんですよ!僕も母さんも彼のおかげで生きているようなものです!」

「そうか」


門戸の話によるとモンド製薬は医薬品業界ではトップシェアを誇る大手企業らしい、他にも義肢を用いた自立支援や再生医療の研究も行っており、その分野の最先端を行っているそうだ。


また最近では環境対策や福祉にも力を注いでいて、世界的に見ても非常に影響力のある存在のようだった。


そう言えば小学生の頃、サッカーで怪我をした時に使っていた塗り薬のメーカーがそんな名前だった気がする。


そしてそんな会社の責任者が、母親を人質に息子に雑誌記者の真似事をさせてるというわけか。

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