【速報】ボッキマン、巨人を討伐する その⑥
K地区では大規模な交通規制が敷かれ、警察による避難誘導が行われていた。
消防車や救急車の姿も多く見える。
俺は人々の隙間を抜け、ビルの壁を蹴り屋上へと駆け上がり街の様子をうかがった。
遠くに見えるビル群は炎に包まれている。
空は暗く濁り、その色は徐々に濃くなっているように感じる。
街のあちこちでは悲鳴や怒号が響いている。しかしそれらの音はどこか遠い世界の出来事のように感じられた。俺はさらに高く飛び上がるとビルからビルへと跳び移り、爆発地点の商業施設へと向かった。
黒煙に近づくにつれて空気が熱を帯びてゆき、頬にチリチリとしたものを感じるようになる。俺は更にスピードを上げ、目的の場所へ一直線に向かう。
目的地である商業施設が見えてきた時、
その上空で大きな炎の球のようなものが見えた。
火球は激しく燃え盛る炎の中で、まるで太陽のような存在感を放っている。
あれは能力者による攻撃だろうか。確かにあれだけ強力なものなら、普通の人間では全く太刀打ちできないだろう。
俺は足を踏ん張りブレーキをかける。
そしてビルの屋上に立ち止まり、目の前に広がる光景をじっくりと観察する。
そこは地獄絵図だった。
地面は大きくえぐれ、アスファルトの道路にはいくつものクレーターができていた。その中心には巨大な隕石でも落ちたかのような穴があり、その周りにはまだ生暖かい血液が水溜りを作っていた。
巨大な建造物がいくつも崩壊している。
血と肉片のこびりついた壁や天井の残骸が無残に転がっている。
瓦礫の山の向こう側には、半身を失った死体が転がっている。
そしてそのすぐそばにはEXOスーツを着た男が倒れていた。彼は既に事切れており、うつ伏せの状態でピクリとも動かない。
(……?)
俺は一瞬だけこの男に違和を感じた。何故、事故現場から離れた地点にぽつんとこいつが転がっているのかということだ。
爆発の影響で吹き飛ばされたとしても、この位置は不自然すぎる。
だが今はそんなことを考えても仕方がない。それよりも見るべきものがあるからだ。
俺は男の死体を後にすると、火球の様子を確認するためにさらに現場へと近づいていく、崩れかけたビルの壁面を蹴り、廃墟を踏み越えながら進んで行くと、次第にはっきりとした輪郭が浮かび上がってきた。
狂った太陽が空の上で燃え盛っている。
それはまるで世界を焼き尽くす地獄の業火のようであり、また神の怒りか、あるいは天上の星々のようにも思えた。
どれほどの熱量なのか想像もつかない。無敵の力を持つこの俺ですら直視することを躊躇するほどだ。俺は目を細め、黒煙に視界を奪われながらも何とか火球を見つめ続ける。
(……なんなんだ、一体なんなんだこれは?)
俺は思わず息を飲む。そこにはただ圧倒的な力が存在した。
それはあまりにも巨大で、かつ美しかった。
まるで完成された芸術作品のようにさえ思える。こんなものが存在すること自体が信じられない。それほどまでに非現実的な美しさを持っていた。
(これが本当に人間の成せる技か?)
しかし地上にいる一般人の苦しみはどれほどのものだろう。現場はまさに阿鼻叫喚だ。俺が見ている間も、あちこちで火の手が上がっている。
逃げ惑う人々に対して容赦のない熱と光による責め苦が続けられている。
彼らは必死に逃げようとするが、恐怖と混乱によって正常な判断力が失われているため、どこに向かって走ればいいのかすらわかっていないようだ。
商業施設周辺では必死の消火活動や救助活動が続いているがまったく追いついていない。このままでは犠牲者の数はどんどん増えていく一方だろう。もはや事故どころではない。世界の終わりの光景のように感じられた。
「…………」
俺は改めて眼前の光景を目に焼き付ける。そして自分の心に刻み込むようにじっと見据えていた。しばらく眺めていると、上空で何かが動いた気がしたのだ。
俺は慌てて顔を上げる。
しかしそこには何の変化もない。相変わらず地獄の釜のような火球が空で燃え盛っているだけだ。
気のせいだったのだろうか?
(いや、確かに今なにかが――……)
その時、空に浮かぶ火球が少しだけ揺らいだような気がした。次の瞬間、火球の中にうっすらと人影のようなものが見えた。
「あれは……」
燃える炎の中からこちらを見下ろすその表情までは窺えないが、助けを求めるように手を伸ばし藻掻いているように見える。
俺は息を飲んだ。あの炎の中で生きている人間がいるというのだろうか。しかしすぐに思い直す。違う、そうじゃない。
あれは能力だ。それも恐らくかなり強力な。
だが、何故こんなことを……。疑問に思うが、考えても答えが出るわけでもない。
俺は自分の手をじっと見た。
俺は無敵の男。
俺はゆっくりと深呼吸をする。
(どんな奴が相手でも負けることはない。
この破壊を生み出した奴にだってきっと勝……)
……いや、何を考えているんだ。俺はもう一度冷静になって考える。
「……お前は戦いに来たわけでも人助けをしに来たわけでもないんだろう。
ただ暇つぶしに、様子を見に来ただけじゃないか」
俺は地上に視線を向ける。
地上では最新鋭の装備、設備と知識と技術を持った連中が命を賭けて戦っている。俺がわざわざ出る幕はない。それにそもそも俺は能力者だのゾンビだのと戦いたくてここまで来たわけではない。
俺はただ……ただ、ここで何が起きているか知りたかっただけなのだ。
俺は自分に言い聞かせると、その場から立ち去ろうとした。
しかし、何故か足が動かない。
(……?)
何故だろう。俺は首を傾げる。
何故だ、何故、俺は動こうとしない。
(……わからない)
俺は困惑していた。そして同時に何故自分がこんなにも動揺しているのか理解できなかった。その時、後ろから足音が聞こえてきた。
「ボッキマンさん!来てらしたんですね!」
振り返ると、そこには防護服姿の男が立っていた。
そいつは俺の顔を見ると心底嬉しそうな笑みを浮かべて駆け寄ってきた。




