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【速報】ボッキマン、巨人を討伐する その⑤

マンションのエントランス前まで来ると、数人が口をパクパクと動かしながらこちらの方を指さし、何事かを叫んでいるのが見えた。


(……俺がボッキマンだと気づかれたのか?)


いや、どうやら違うようだ、俺は人々が指さす方へと目を向ける。


火事でもあったのだろうか。

俺の背後の数キロ先にある空が黒煙で黒く染まっているのが見えた。


「……大変そうだな」

俺はそう呟くと、マンションに入りエレベーターに乗り込む。そして自宅のある階に着くと、俺はエレベーターから出て自分の部屋へと向かった。


その途中、隣人とすれ違う。隣人は何か言いたげだったが、俺は軽く会釈しそのまま扉の鍵を開けて中に入っていった。俺の部屋には当然ながら誰もいない。俺はお掃除ロボットの機械音声に返事を返すと、リビングへと向かい椅子に腰かける。


(火事か)


それから俺はスマホを取り出して、ニュースを調べてみることにする。

しばらく待つと、画面にはいくつもの記事が表示された。


『K地区の複合商業施設で大爆発、原因はガス管の損傷か?』


俺は全く興味を惹かれなかったが、一応最後まで読んでみることにした。記事によると、今日の昼頃に施設の一部が大爆発を起こしたらしい。死傷者も多数出ているらしく、中には行方不明になっている者もいるそうだ。


「……」

俺は無言で窓の外を見る。

今、俺の住んでいる地区は静かだ。聞こえるのは微かな風の音だけ。


しかしK地区の事故とやらはかなりの大規模なものであるということは空の様子からも一目瞭然だ。今もなお、あちこちから黒い煙が立ち上がり、空を黒く染め上げている。だがこの辺りには火の手が上がってはいないようで、それは不幸中の幸いと言えるだろう。


(……不幸だって?)


違うだろう、俺にとっては幸運以外の何物でもない。何故なら……


(俺が巻き込まれなくてよかった)


俺は心の底から安堵したように息をつく。あの煙の下で何が起きていようと俺には何も影響はないのだ。俺は考えることを止め、目の前に置かれたコーヒーを一口飲む。苦い味が口に広がった。


その後、俺は特に何もすることはなくただぼんやりととしているだけだけだったが、気が付くと俺はスマホのニュースサイトを閉じSNSを開いてた。そこで俺は様々な書き込みを見て回っていた。


ここでは誰もが他人に対して平然と嘘をつける。それどころか真実ですら簡単に捻じ曲げてしまう奴もいる。

そんな連中が書き込んだ言葉の羅列を、俺は暇つぶしに眺めていく。


『K地区では今、超能力者が暴れて手がつけられない状態みたい。

 能力者に対抗するために作られた部隊があるってニュースでやってたけど、

 そいつらって今何やってんの?』

『この事故は防衛を軽視した天罰でしょうね。

 今回の事故で人々が目覚めてくれればいいんですが』


『ちょっと待って、K地区に隕石が落ちてきたみたいになってんだけど……』

『外にゾンビがいる!誰かが助けてください!!

 私が閉じ込められている部屋は……』


『あんなとこで平日の昼間から遊んでる奴って金持ちだけだろ。

 死んでせいせいするわ』

『ちょっと!ゾンビが死体を食べてるんだけど!

 あたしもゾンビに食べられちゃいたいわ、誰か早く殺してよ!!』


『これって事故じゃなくてゾンビ掃討作戦の一環で

 ミサイルが撃ち込まれたんじゃない?』


画面の中で繰り広げられる無数の文字たち。それらは全て偽りの言葉。全てが作り物の虚構の世界。俺は次々と流れてくる文字を無感動に眺めていたが、そのうちあるところでふと視線を止める。


そこには一人の男が投稿したと思われる死体の画像があった。その死体は頭を砕かれており、そこから脳漿らしきものが飛び散っているのが見える。


どう見ても普通の死に方ではない。


虚ろな表情で口から血を流しながら横たわる男の死体。彼の皮膚はところどころ焼け爛れており、それが炎によってもたらされたものだということを物語っていた。


しかし俺の目を引いたのはその部分ではない。

男の横には彼の物と思われる下半身だけが写っており、断面からは内臓のようなものが見えていた。とても作り物には思えない。

「……」

俺は無言のままその写真をじっと見つめ続ける。これは間違いなく本物だ。本物の人間の遺体だ。それにこいつの服装には見覚えがある。俺が以前戦った治安維持部隊の『フェイルセーフ』の特殊装甲服と同じものに見える。


『怪物とEXOエグゾスーツを着た連中が戦っていた。

 しかし無駄だった。この人は俺を庇ってくれた。そして死んだ』


写真にはそんなコメントが書かれていた。

「……ふぅん」

そうか無駄だったか。きっとそれが運命だったのだろう。少々頭がいい程度の凡人が集まって何か考えたり、機械の力を借りた所で運命をねじ伏せることなどできるはずもない。


「……怪物か」


もちろんニュースには怪物だのゾンビだのとは一言も書かれていない。だが現場には何かがいることは間違いなさそうだ。


俺は椅子から立ち上がると窓際へと歩ていていき、ガラス戸を開け外に出る。

空は相変わらず黒く染まっている。


しかしその黒は先程よりもさらに暗く、そして重く、その濃度を増しているように見える。


まるで空そのものが落ちてきそうなほどに。


(……飛行機雲か)


俺は淀んだ空を切り裂く白い線を見つける。飛行機雲はちょうど俺の頭上から空の彼方まで真っ直ぐ伸びており、途中で途切れたりはしていないようだ。


それはまるで道しるべのように空に浮かんでいた。

「……退屈だな」

こうして俺の日常はいつも通り過ぎていこうとしていた。


後はシャワーを浴びて、ベッドの上で眠るだけでいい。


俺は自室に戻ると、バスルームで体を洗い、そして服を着替え、歯を磨き、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。


コップに注いで飲み干すと、そのまま俺は玄関に向かう。

「行ってくる……」

そう告げると、俺は鍵をかけて外に出ていた。


(……どこに?)


どうして外に出たのか俺自身にもよくわからなかった。


俺はドアの鍵穴に再び鍵を差し込もうとしたが、何故か途中で手を止めてしまう。

俺はしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがてゆっくりと歩き出す。


気がつくと俺は黒煙に向かって走り出していた。何でこんなことをしているのか自分でもまったくわからない。


俺は一体何をやっている?

この先に何があるというのだ?


しかしそんな疑問とは裏腹に、俺の足は止まることなく動き続けていた。

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