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【速報】ボッキマン、巨人を討伐する その④

俺はその後、コンビニで昼飯を買い近所の公園で休憩することにした。


ベンチに腰掛け、お茶を口に含みながら空を見上げると、一羽のカラスが飛んでいた。カラスは太陽に向かって一直線に飛び続けているようだった。


その姿はまるで太陽という無敵の存在に無謀な戦いを挑んでいるかのようにも見える。それともあのカラスは闇から逃れようと必死に光を求めているのだろうか。


「……無謀だな」

誰に聞かせるともなく俺は呟く。


もし仮にあのカラスが太陽まで辿り着いたとしても、待っているのは灼熱地獄だ。きっと、その身は燃え尽き灰になってしまうだろう。だがそれでもカラスは飛び続けるのかもしれない。


視界を動かすとわたあめのような雲が目に入る。

そしてふと思う。

なんとものんびりした光景だ。しかし見た目を取り払ってしまえば、あの雲は風に流されるだけの無力な存在に過ぎないのだ。


ただ風に流されていくだけ。何もできないし何も残さない。


(……なぜこんなことを考えているのだろうか?)


こんなにも平和なのに、どこかポッカリと穴が空いたような気持ち悪さがあった。その理由はわからない。でも俺は、何かが壊れてしまうのではないかとそんな漠然と不安を感じていた。もしかしたらすでに何か事件に巻き込まれたのかもしれない。


違う……なんだ、この感じは……。

なんだか自分が自分じゃないような気がしてくる。


いや、これは本当に俺なのか?俺は一体誰だ?

いや違う、これは夢だ。


「おい、夢……なのか?」


だが返事はない。あるはずがない。俺は急に怖くなり、慌てて立ち上がって周囲を見渡す。近くには俺以外の人影はなく、遠くの方にフェンスにもたれかかって砂場を見下ろしている男が一人いるだけだった。


「ん?……ああ、そうか。そうだよな」


俺は苦笑すると、再びベンチに座り直す。

何を考えているんだろう、俺らしくもない。


「どうでもいいじゃないか、そんなこと……」


俺は自分の頬を叩き、そして、自分に言い聞かすように呟いてみる。


「……俺はボッキマン、無敵の力を持つ男」


その言葉を口にした瞬間、俺は思わずニヤリとした。


「ははは……なんだそれ」


俺はおかしくなり、一人で笑い続けた。

俺は最強、俺は無敵、最強の力を持った無敵の男。


「はははははは……」


しばらく笑うと、今度は涙が出てきた。

何故だろう?よくわからないけど、胸の奥底から込み上げてくるものがあった。

俺は袖で目を擦り、もう一度空を見上げる。


そこには相変わらず雲があるだけで、カラスの姿はどこにもなかった。


「……こうして見るとゴミ袋にしか見えないな」


白かった雲はいつの間にか薄汚れた灰色になっていた。俺は立ち上がり、大きく背伸びをする。


「……だがお前は自由だ。

 何物にも縛られずどこへだって行ける。羨ましいぜ、まったく……」


そう独り言を言うと、俺はゆっくり立ち上がる。そして永い眠りから覚めたかのように大きく伸びをすると、不安な気持ちは砂のようにサラサラと消えていった。


「俺はボッキマン、無敵の力を持つ男」


俺は再びそう呟くと、自宅へと向かって走り出していた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


俺はいつも通りビルからビルへと飛び移り、最短距離で自宅へと向かう。


途中ドローンが慌てたように俺を追跡してくるが、俺はそれを掴むとビルの屋上に叩きつけてやる。


「おら、こっち来んじゃねえぞ!」

俺は楽しそうな声を上げ、笑いながら逃げていく。

ドローンは諦めたのか、俺の追跡をやめると他の標的を探しにいったようだ。


俺は自由だ。俺は無敵だ。


疲れはしないし、腹も減らない、傷つきもしなければ病気にもならない。

俺の肉体ですら、俺を縛ることはできない。


そんな俺が今さら何を恐れる必要があるというのだろうか。俺はビルとビルの間を跳びながら考える。


(そうだ、俺は無敵なんだ)

俺に敵はいないし、誰も俺には勝てない。


俺は今とても気分がいい。まるで生まれ変わったかのような清々しい気持ちだった。

俺はこれからもずっとこうやって生き続けていくはずだ。


俺はいつの間にか大声で叫んでいた。


「あああぁああぁっっ!!」


突然、悲鳴のような叫びが聞こえた。俺の声ではない。


立ち止まり周囲を見回すと、俺の眼下で子供が車の下敷きにされてしまっていたようだった。子供の母親が泣きながら必死に声をかけているが、車は子供を押しつぶしたまま動き出す気配はない。


だが俺はそんな光景を見ても特に何も思わなかったし、何もしようとはしなかった。


(まあいいか、別に。どうせ助からないだろうしな。それに、俺は……)


「俺は……」

子供はもう動かない。母親はいつまでも泣いている。子供は口の端から血を垂らしながら、虚ろな瞳のまま頭上にいる俺を見つめている。


こいつの目には俺がどんな風に映っているのだろうか?

きっと死神か何かに見えているに違いない。


「……おい、助けてほしいか?」

俺は数十m下にいる子供に問いかける。当然、返事はない。


でも、もし助けを求められたとしても俺は無視するつもりだった。何故なら今の俺は……俺は、俺は、俺は……


(俺は……俺は……?)


「……」

俺はビルの屋上から飛び降り、そのまま落下していく。

地面に着地すると、衝撃でコンクリートの道路に大きなヒビが入る。


俺はそのまま子供の傍らに近づき、その顔をじっと見下ろす。まだ幼い顔だ。このくらいの年だと、何を考えて生きているのだろう。

そして再び視線を上げると、目の前では車が子供を轢き潰しながらゆっくりと動いているところだった。


「何をしてるんだお前は……?」


俺は呆れたような口調で呟く。俺はその様子を見ても何も感じるものはなかった。

だが、なぜか気がつくと俺の手は車を持ち上げて道路に叩きつけていた。アスファルトが砕け散り、車の形が変形してしまうくらいに。


それから何時間経っただろう?いや、本当はほんの数秒しか経っていないかもしれない。俺はとどめとばかりに車を蹴り飛ばし、ようやくその場から離れた。

もちろん俺のやっていることは善行でもなんでもない。死の運命に逆らい、子供の苦痛を長引かせただけだ。


だがそれでも俺は構わない。俺は自由なのだから。


俺は立ち上がり、遠くの方を見る。救急車がサイレンを鳴らしながらこちらに向かってくるのが見えた。


俺は無残に転がっている車を一瞥すると、さっさとその場から離れる。

これでガキが助かるかどうかなど知らない。俺には関係のないことだ。


俺はボッキマン、無敵の力を持つ男。


俺は再び家に向かって走り出していた。

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