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【速報】ボッキマン、巨人を討伐する その③

「きれいだろ?明かりの代わりはならんがな」


その言葉を合図に、灯籠は激しく回転しながら周囲を飛び回る。


灯籠は床に沈み、机をすり抜け、壁を通過していくが現実世界にはまるで影響を与えていないようだった。かなりの速度で飛んでいるものの空気中のチリ一つ動かしているようには見えない。


「これは霊の家だ。そこにいるカガチみたいな奴のな」


幻二四郎がそう言った途端、幽霊がビクッと体を震わせた。


「へぇ、じゃあ、あの中に幽霊がたくさんいるってことなのか?」

「いや、中にいるのはカガチだけだ」

幻二四郎はため息をつくと、俺に説明を始めた。


「……ほかの幽霊を住まわせようとすると

 カガチが怒って八つ裂きにしようとするからな」

「なるほど……」


「で、でも、あたし、先生の為ならどんなことだってやるつもりだし!」

「それじゃあ俺とこいつに茶を用意してくれ」


幻二四郎がそう言いながら指さすと、

幽霊は頬を押さえながらこくりと小さくうなずいた。


「わ、わかりました!お茶ですね!?すぐ持って来ますね!!」


幽霊は慌てた様子で部屋の奥に引っ込んで行った。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


俺はもう謎の幽霊のカガチや灯籠の事よりも幻二四郎のことが気になっていた。

俺が能力者であることを一瞬で見抜いた霊能力者、しかしなぜここまで俺に教えてくれるんだろうか。


「あのさ……幻さん」

「なんだ?」


「ここの目の前に火災でボロボロになってるビルがあるけど、

 あれって悪霊とか出たりしないのか?」

「ああ、あれか」


潮木が死んだビルの話を持ち出すと、彼は湯呑を手に取りゆっくりと口元へと運ぶ。きっと何かがあるに違いないと思ったのだが、幻二四郎の言葉はなんともそっけないものだった。


「そこそこ強い力を持っていた奴が死んだようだが、

 生きている間にある程度の恨みは発散できたんだろ。

 特に霊的な問題のある物件じゃない」


「(そうか、やっぱり潮木は死んだのか……)」

「青い炎が燃えている。そしてお前もそこにいた。どうだ、合ってるか?」

「えっ、うん。まあそんな感じ」


俺はもはや彼の言葉を疑っていなかった。

事実今日、ここで幽霊を見た以上は信じるしかない。この男が俺の見えないものを見ていて、俺が知らないことを知っていることは確実だろう。


「ところで幻さん、なんであんたは……」

俺が再び質問しようとすると、彼は遮るように言葉を発した。


「悪いが、そろそろお前の話をさせてもらおうか」

「俺の話?」


「ああ、お前の魂に大きな問題が起きている」

「それって俺が強い力を持っているわりに心が弱いとかって話か?それなら……」


「違う。心の強い弱いじゃない、お前の魂には大きな傷がついている」


俺の言葉を途中で否定すると、幻二四郎は真剣な眼差しでこちらを見つめる。

どうやらふざけているわけではないらしい。


幻二四郎は俺の目を見ながら、静かに語り始めた。


「お前はおそらく……自分の中の何かを受け入れられていないんじゃないか?

 で、その何かはお前の支配から抜け出そうと必死になっている。

 それで魂が傷ついているように見える」


俺は黙ったまま何も答えなかった。そんな俺を気遣ってか幻二四郎は言葉を選びながら続ける。


「お前の中には今、お前ともう一つの人格がある。

 そしてその二つの間には深い溝があって、互いがお互いを否定し合っている。

 このままではいずれどちらかの人格が完全に消滅してしまうか、

 あるいは……両方が消えるかもしれないな」


「……両方が消えるってどういうことだよ?」

「死ぬってことだ」

「……」


「いや、単にお前が死ぬよりも悲惨なことになるかもな」


心当たりがないと言えば嘘になる。彼が言っている『もう一人』とはボッキマンのことなのだろう。没木一歩として目覚めた時から、乗り越えたい消し去りたいと考えていた過去の自分。


ロボットのように無感情で、機械のように冷徹で、人間のような温かさを持たない存在。俺はあいつの存在を自覚した時からずっとボッキマンが嫌いだった。またあんな風になりたくないと思っていたし、そうなってしまうことに恐怖を感じていた。


「……なぁ、そのもう一人の俺を消す方法はないのか?」


「消そうとするんじゃない。ちゃんと向き合え」

「向き合うってなんだよ?」


「いいか、俺は霊能力者だが、人の心は読めない。

 ただ、お前の魂が壊れかけているのが見えるだけだ。

 そして、俺はそれをどうにかしてやることはできない。

 お前自身がそのもう一人と向き合ってみることでしか解決の道はない」


「そんなことならすでに過去の俺とは決別して、変わっていこうと……

 いや、違うな……」


「そうだ。それ自体がもう一人のお前を痛めつけて苦しめる行為だ。

 だから、お前は自分自身と、もう一人の自分を切り離して考えるな。

 お前はお前自身と、もう一人のお前を一つにしなければならない」


幻二四郎の言葉は俺の中にすっと入り込んで来た。彼の言う通りだったのかもしれない。でも俺には具体的に何をどうすればいいのかわからなかった。すると幻二四郎は湯呑を置き、俺の肩に手を置いた。


「すまんな。無料相談はここで終わりだ、

 ここからはビジネスの時間とさせてもらおう」

「えぇ、金取るのかよ!?」

「当たり前だ。俺は慈善事業で有限会社コンブマンをやってるんじゃないんだぞ」

そう言って幻二四郎は不敵に笑った。


「……わかったよ。で、俺はどんだけ払えば良いんだ?」

「お前はどうせ貧乏だろうし金はないんだろ?

 そこで提案なんだけどな、俺の仕事を手伝って欲しいんだよ」


「手伝うって……何をすればいいんだよ?」

「さっき言ったように、お前の心の中にはもう一人のお前がいる。

 ……で、はっきり言うが俺はそいつに出てきてもらいたい。

 お前じゃなくてな。だからすまんがお前には少しの間、眠っていてもらう。

 あいつが出ている間は大人しくしていてくれ」


「は……?ちょ、ちょ、ちょっと待て!それって……!!」


焦る俺の言葉を無視して幻二四郎は目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をすると何ごとかを呟き出した。


「おい、ちょ、ちょっと待ってくれ。

 聞きたいことがあるんだけど、眠らせるって……俺を殺すつもりか?」


「殺す?

 勘違いするな。

 お前が死んでしまったら、もう一人のお前が出てこれないだろうが」


「そうだけど……」

「安心しろ。眠っているお前に危害を加えたりはしない。

 ただ俺は、もう一人のお前について知る必要があるってだけだ。

 これからのビジネスのためにな」


「……」

「お前は今、魂がボロボロの状態で、そして今のところそれを止める方法はない。

 強いて言えば、一時的にあいつをお前の支配から解き放ち、

 リラックスさせてやるくらいだ。だから、これはお前のためでもある」


「……えぇ、マジかよ。眠らせるったって目が覚める保証は……」


幻二四郎は俺の話を聞くことなく、指を二本立て、何ごとかをぶつぶつと呟いている。どうやら本当に何かが始まるらしい。体が宙に浮かんだような感覚になり、視界がぼやけてきた。


「おい、まっ!ま、待て、まだ聞きたいことがある!

 あいつを目覚めさせてその後どうすんだよ!?あんたの苗字は!?

 カガチって男なのか!?なんでコンブマンなんだ!?」


幻二四郎は俺の問いを苦笑いしながら聞いていたが、少し考えるような仕草を見せた後、真剣な眼差しで答えてくれた。


「俺の髪型がコンブに似ていたからだ」

「一番どうでもいい質問にだけ答えるなよ!」


そんなくだらないやりとりをしているうちに俺の意識は次第に遠退いていった。闇に沈んでいく俺が最後に聞いたのは幻二四郎が発した言葉だった。


「……悪いがもう二度と会うことはないだろう。さよなら、没木一歩」


そして気が付くと俺は雑居ビルの前で呆然としていた。


「あれ……?今まで何をやってたんだっけ……?」

俺は不思議に思いながらも、先ほどまでのことを思い出すことはできなかった。

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