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【悲報】ボッキマン、献血を妨害する その⑫

そいつは針金のように痩せた体の上に直接人間の脳を乗せたような姿をしており、目や鼻や耳といった器官は見当たらない。その腕は人間の腕とは程遠く、無数の触手のような細い腕が生え、それぞれが別の生き物のように独立して動いていた。


「それ」が吸血鬼の仲間、あるいは変異したものだということは、蚊を思わせる鋭い針のような口から辛うじて判断できるだけだった。


「うぉおお!!?

 サスーリカさん、あれって何?!」

俺は思わず叫んだが、イグナイトはすでに次の攻撃に移っていた。


イグナイトの放った熱線はその心臓部を避け、会長の中から出てきたモノの四肢を貫通したが、奴の体は瞬く間に再生し、お返しとばかりにイグナイトに向けて無数の触肢を振り回す。高速で迫る触肢をイグナイトは打ち落とすが、奴はそれすら瞬時に再生させおかまいなしに襲い掛かってきた。


「逃げろ!!」

俺は叫んだが、イグナイトはあえてその場にとどまり、振り下ろされる触肢を全て迎撃した、イグナイトと奴の間に無数の火花が散り、辺りは閃光に包まれる。


埒が明かないと判断したのか奴はイグナイトから飛び退き、少し距離を置いたが、イグナイトは問答無用で奴に向かって大量の熱線を放射した。


何か嫌な予感がする。

「イグナイト、防御しろ!」

俺はそう言うとサスーリカに覆いかぶさり、彼女の盾になるようにした。その直後、俺の背中に衝撃が走る。どうやらイグナイトの熱線が直撃したようだ。


「うぉおおぉ!またパーカーがダメになっただろぉがああああ!!」

俺は慌てて立ち上がり振り返ると、奴の目の前に氷で作られたレンズのような物が浮かんでいた。それがイグナイトの熱線を反射したようだ。

イグナイトは無傷だったが、もはや熱線はどこに飛散するかわからないために攻め手を変える必要があるようだ。


そして、会長の中から出てきたモノはサスーリカと同様に冷気を操ることができることをじわじわと理解しつつあるらしい。


氷のレンズでイグナイトの熱線を避けつつ、イグナイトの動きを妨害しようと彼の足元を凍結させたり、目の前に氷柱を出現させたりと多彩な攻撃を仕掛けてきた。

イグナイトは火の玉の流星群で応戦していたが、奴の動きが素早く、なかなか思うように攻撃を当てることができないようだった。


心なしか、イグナイトの放つ火の威力もだんだん落ちてきているようだ。このままではまずい。


「おい、イグナイト、お前もそろそろ限界だろ!

 いったん退け!」

「ぼ、ボッキマンさん!」


サスーリカは俺の腕の中で暴れているようだが、俺は彼女を離さなかった。

おそらく彼女もイグナイトを援護したい気持ちがあるのだろう。


「お前はよくがんばった!後は俺に任せろ!」

「ボッキマンさんってば!!」


サスーリカが何か叫んでいるようだがよく聞こえない。きっとイグナイトを心配するような内容だろう。

だが、今はそんなことに構っている暇はない。


俺は会長だったモノの方へ向き直る。

気が付くと奴の体の周囲には鋭利な氷のスパイクが無数に形成され、いつでも発射できる状態になっていた。どうやら俺達を逃がすつもりは無く、串刺しにでもするつもりらしい。


「だからボッキマンさんって聞いてくださいってば!!」

「え?何?」

サスーリカの声が急に近くなったので、俺は驚いて思わず聞き返した。

サスーリカはなぜか怒ったような表情で俺を見上げていた。


「ドクターストップです!」

「え?」

「ドクターストップ!!」

「あ……?

 …………ああっ、オッケー!!」


サスーリカの言葉を合図に俺は大きく跳躍し、弾丸の如く奴に飛び掛かった。

渾身の力を込めて蹴りを放つと、俺を認識する間もなく奴の腰は粉々に粉砕された。


その衝撃で胴体を軸にぐるぐると回転する奴の頭部を目がけて拳を放ち、その頭を撃ち抜くと今度は逆回転し始める。

そのまま復活した腰を蹴り上げ、再び頭部を殴り粉砕する。どれだけ高速で再生しようが無駄なことだ。

回転し続ける会長の頭と腰を殴り続けていると、やがてその反動だけで体だけが宙に浮き上がり、空気との摩擦で白い煙が立ち上っていく。


そして次の瞬間、奴の体はサスーリカが作り出した氷の竜巻に巻き込まれた。奴の頭や手足は再生と同時にサスーリカの氷の刃で切り落とされる。

奴は竜巻の牢獄の中で身動きが取れないまま、バラバラに刻まれていく。


しかし、奴はそれでもなお、頭部や触手を復元させながら抵抗を続けているようだった。だが、それも長くは続かなかった。徐々に再生のスピードが落ちていき、ついに完全に停止した。


後はサスーリカが奴の体から母親の心臓を取り戻すだけだ。


イグナイトの方を見ると、奴は俺が戦い始める前の位置から一歩たりとも動いていなかった。眉間に大きな皺を寄せ、氷の嵐の中で為す術なく切り裂かれ続ける会長の体をじっと見つめている。


「……」

「お、おい、イグナイト、すまん、大丈夫か……」

「……あ、いや、ああ……問題ない」


……ちょっとしまらない最後だが、これで終わりだ。


俺はふぅっと息を吐くと、サスーリカの方を向いた。

彼女は驚いたような呆れたような顔をしていたが、どこか肩の荷が下りたような安堵した表情にも見えた。

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