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【悲報】ボッキマン、献血を妨害する その⑪

部屋に入ると会長はすぐに見つかった。


血液が入っていたであろう黒ずんで汚れ切ったビニールのパックが無数に散乱する中、『それ』は部屋の隅ですがるように氷の壁に張り付き静かに呼吸していた。


矢深やぶか組会長の矢深龍傑やぶかりゅうけつだな?」


会長はまるで俺たちの存在など目に入っていないようだった。

イグナイトの問いかけにも奴は微動だにしない。


「……痛い……痛い、い、たい、痛い……」

会長は苦しそうに息をしながら氷の壁をカリカリと引っ掻いていた。


俺は改めて奴の体をじっと観察する。

奴の体はこれまで見てきた蚊やボウフラとは違う異質な変化を遂げているようだ。

上半身を中心に赤い目のような器官を持つ大小様々なダニのようなものが数千匹単位で蠢いており、その目はギョロギョロと忙しく動き回っていた。


こんなよくわからない化け物のために矢深組はせっせと血を集めてたわけか。

しかし俺にはそんなことをして矢深組にとってどういうメリットがあるのか皆目検討もつかなかった。


「……痛い……い、痛い……、

 痛い……いい、痛い、痛い……」

会長は俺たちの接近に気づく様子もなく、ひたすら苦しそうに呼吸を繰り返し、壁を搔き続けている。


「会長さん」

サスーリカが呼びかけると少し、身体を震わせて反応したが振り向くことはなかった。彼女はそんな彼に優しく語りかける。

「私です、サスーリカですよ」


すると恐る恐るといった様子で会長は振り返った。そこには顔らしき物はなくダニのようなものが垂れ下がっているだけだった。


「うっ、うっ、うっ、いっ、いい、

 痛い、痛い、痛い……た、助けて、助けて……」

「大丈夫ですよ、安心してください。

 いくら痛くても苦しくてもあなたが死ぬ事はありませんから」

サスーリカの言葉を聞いて会長はピタリと動くのをやめた。


「ち、、違う、痛い、と、止めろ。

 助けろ、とと、止めろ、今すぐ……」

会長は苦痛に悶えながら助けを求めていたが、やがて地面に上半身をこすりつけ何かを探すような仕草をした。


「うふうぅ……はば、は、は、はぁ……、サスー、リ、カ、ち、血……ちか、血」

彼がダニに覆われた手で取ったのは黒ずんだビニールパックのゴミだった。


サスーリカは優し気な笑顔で会長の手からそれをもぎ取ると、背後に投げ捨てた。

「それはもう空です。

 それに、まだお食事のお時間ではありませんよ?」

「ぐぉおおおお!!

 俺の、俺のぉあああぉあっ!ば、は、あ、ああ!!!」

会長は大声を上げて必死に抗議しているようだったがサスーリカはまるで意に介していないようで優しい微笑みを浮かべたまま彼を眺めていた。


俺はその様子を見て何とも言えない気持ちになった。なんとなく会長もサスーリカも不幸に見えてしまったのだ。


「会長さん、痛み以外にあなたの体に何が起きていますか?

 教えてくださいませんか?」

「い、痛い。いい、痛くて……い、痛い、痛い……痛、い……」

「会長さん、それ以外にあなたの体に起きていることは何ですか?」


「き、消える、俺の……記憶に、む、虫がたかっている……

 顔が、わからない、か過去が、泡立っている……消え、消える、俺が」


会長の言うことはよくわからなかったが激しく混乱している様子だ。


サスーリカは相変わらず笑顔を受かべて興味深げに会長の「自覚病状」を確認してたが、一体どういう気持ちで聞いているのだろうか。

会長は激しく呼吸を荒げながら苦しそうに喘いでいたがやがて、体を揺らしながら笑い始めた。


「あはは、はははぁ、はは、ははぁは、はは!

 き、消える、俺が、ちっ、力が、無敵の力が……

 はは、きっ、消える、虫、消される、俺は」


サスーリカは会長の前にしゃがみこむと彼の頭をそっと撫でる。

「あなたの力ではありませんよ。

 みんなを脅したり騙したりして奪い取ったものでしょ?」

まるで子供に言い聞かせるような口調だった。


それでも会長はしばらく笑っていたが、急に動きを止めてサスーリカを見つめた。


「せ、世間知らずめ。ち、力があれば……なんでも出来る、

 ははは……雑魚どもなんてどうとでもなる。

 はは、矢ふ…りゅう、う…は、俺は不滅だ、はは、ははは」

「会長さん、今のあなたにどんなことが出来ますか?教えてください」


サスーリカの質問に会長は怒りの叫び声を上げた、しかし一方で奴はサスーリカの存在に恐怖を抱いているようにも見える。

「な、ぜお前は……よ、呼んでいないのに、ここに来た。

 血も持たずに、なぜ……」


サスーリカは何も言わずに会長に手を差し出したが奴は体を震わせ、まるで逃げるかのように後ずさった。

「はあ、はぁはぁ……や、めろ、やめろ!

 サスーリカ、サスーリカ……助けろ、止めろ、助けろ……」


「ダメだ」

イグナイトが言うと会長はビクリと身体を震わせた。その時ようやくサスーリカ以外の人間がいることに気づいたようだった。


「お、お前は何だ……」

「お前が苦しめた人々の復讐のために来た」

イグナイトの言葉を聞いた会長は不快そうに体を大きく振るわせ笑い出した。

「ば、ははぁあ、は、はは、はは、バカが……俺は、無敵、不死身……だぞ……」


「そうか、ならさっさと地獄へ行け」

イグナイトのその言葉を合図に会長は再び乾いた笑い声をあげると、這うような姿勢でイグナイトに突進していった。


「イグナイトさん!」

サスーリカは叫んだが、会長がイグナイトに接触したかと思った瞬間、会長の四肢は爆裂し、上半身だけが地面に転がった。


「あがあ、あはああああああ!!」

会長の絶叫が響き渡る中、イグナイトはじっとその様子を眺めている。


イグナイトはただ突っ立っているだけに見えたが、あの一瞬で熱線を放ったのだろうか。俺は呆気に取られていた。


一方で会長を見ると吹き飛んだはずの四肢がすでに再生していた。どうやらサスーリカの言う通り強力な再生能力を持っているようだ。

しかし、再生した手足は彼の体に群がるダニに一瞬で飲み込まれていく。その様子を見た会長は悲鳴を上げながら地面の上で激しくのたうちまわっていた。


サスーリカはゆっくりと会長のそばに歩み寄ると、まるで安心させるように優しい声で語りかけた。


「大丈夫ですよ。それはあなたの体の一部ですから、心配しないでください」

「い、嫌だ……嘘をつけ、嘘だ。

 やめろ……助けて、痛い……消える、助けろ!」

「あなたは不死身です。安心して」


「と、止めて、はぁ、あはぁ……サスーリカ、

 サスー……リカ……助け、て、痛い、く……苦しい」

「はい、分かってますよ」


サスーリカは微笑むとダニの山でしかない会長の上半身を優しく撫でていた。ダニたちはサスーリカの手に一切の反応を示さない。

まるで彼女の不興を買うことを恐れているかのようだ。俺はその光景を不気味に思いながらも、どこか哀れに感じていた。


矢深龍傑やぶかりゅうけつ、お前も組織の長を名乗った以上は矜持を見せろ。

 お前に臓器移植を勧めたのはどこの誰だ?」

イグナイトはダニの山を見下ろしながら静かに問いかけた。会長はしばらく沈黙していたがやがて掠れた声を出す。


「俺は……消え……るのか、奴らに騙され……

 害虫なんぞに、たかられながら……消える、のか……」

「答えろ」

「……」

「お前の代わりにそいつらを殺してやる」


会長はイグナイトの言葉に長い間考え込んでいた。俺には奴が薄れゆく記憶を必死でつなぎ合わせようと努力しているように見えた。

長い静寂の時間が過ぎ、会長はようやく重い口を開いた。


「……俺に、吸血鬼の心臓を使った移植を持ちかけたのは、もん…」

そこまで言うと会長は突然苦しみ始め、その頭部が数倍に膨れ上がった。


ダニたちは体の異常を告げるかのよう一斉にざわざわと動き出し赤い目を激しく明滅させる。奴の巨大な頭部は今にも爆発しそうだ。


「いけない、母さんが!」

サスーリカはそう言うと会長の体を一瞬で凍結させ、爆発を防ごうとした。


しかし、氷の檻はあっという間に破壊され、

奴の頭部から不気味な色の粘液が噴き出した。


「やべっ、サスーリカさん!」

俺はサスーリカを抱えると会長から距離を取るように大きく飛び退く。

そして間髪入れず、イグナイトが会長の頭部を目掛けて攻撃を繰り出していた。


イグナイトの攻撃は会長の頭を粉々に砕いたが、それよりも早く会長の頭部からすでに異様なものが飛び出していた。

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