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【悲報】ボッキマン、献血を妨害する その④

どうやらハカセコの復讐計画とは昔の俺、つまりボッキマンを自分に依存させる計画だったようだ。

なぜボッキマンでないとダメなのかという天才ならでの謎のこだわりについては俺にはよくわからないが、ハカセコはボッキマンの心を完全に壊すことでボッキマンを自分のパートナーとして支配下に置きたかったのだと思う。


だけどな、残念ながら俺はボッキマンじゃないからボッキマンのようにはいかない。

……常に進化を続ける没木一歩はもうハカセコには止められないし、誰も止めることはできないのだ。


俺は横断歩道に立ち止まりながらぼんやりとそんなことを考えていた。


相変わらず街中には献血カーが走り回っている。


流石に最近はネットにもこの異常な献血フェスに疑問を呈する書き込みが増えていた。それでも『血液製剤の不足』というニュースが津波のように流れ続け、その疑問はかき消されてしまっている。


献血の呼びかけをする女性の声は明るく楽しげで、その表情は笑顔だ。


だがその笑顔に応じる人々は少ない。彼らもおかしいと感じているのだ。

俺はポケットの中のスマホを取り出し、ニュースを確認する。


やはり輸血のストックだとか、血の不足について不安を煽る記事ばかりが目立つ。

俺はふと一件の記事が目に留まった。


『R地区郊外の山中で全身から血を抜かれた死体を発見。

 警察は事件と事故の両方で捜査中。被害者は若い女性と見られ、

 死因等は不明……』

俺は眉をひそめる。


「……おいおい、まさかな」

俺が顔を上げるとちょうど献血カーが逃げ去るように去っていくところだった。

信号は青だ。


俺はスマホをしまい足早に渡り始めると、一台のバイクが献血カーの後を追うように走っていくのが見えた。ヘルメットの隙間からのぞくグラデーションの入った青白い髪。睨むような目つきで、献血カーを尾行している。


あいつには見覚えがある。


「イグナイト……」

俺が呟くと同時に、そのバイクはスピードを上げ、走り去ってしまった。

ちょっと前のことになるが俺がまだビルの上を走り回る変態でしかなかった頃に出会った超能力者だ。


俺は少しの間だけ考えると、イグナイトを追いかけ始めていた。


今の俺は出会いを大切にするからな。

それに、あいつには服をボロボロにされたその請求もまだしてなかったし。俺は交差点で停止しているイグナイトに駆け寄ると明るい声で呼び止めた。


「よっ、イグナイト。

 久しぶりじゃん、こんなところで会うなんて奇遇だな」


俺が声をかけると、イグナイトは不機嫌そうな表情で振り返り俺の顔をじっと見つめていたが、やがて俺のことに気がついたようで大きく目を見開いた。


まあ、当然の反応だろうな。

イグナイトは慌てて前を向いてアクセルを開けると再び走り出そうとしたがバイクの後輪を持ち上げて止めてやった。


「おい、ちょっと待てって。なんで逃げるんだよ」

「うおぉお!やめろバカ!事故ったらどうするつもりだ!」


「お前なら大丈夫だよ。

 それより、なんで献血カー尾行してんの?何やってんの?」

「……お前が知る必要はない!」


「じゃあやっぱり糾業会きゅうごうかいが絡んでるのか?」

糾業会の名前を出すとイグナイトの表情が変わった。

「……なぜ糾業会を知っている」


「い、いやお前が初登場の時に俺に『俺たちは糾業会だ』って言ったんだけど……」


「……」

「……」


「いや、実は最近、色々とあってさ。

 でもまあ、俺は別にその、糾業会と敵対するつもりはないから安心してくれよ」

「うるさい!手を離せ!

 俺はあの献血された血がどこに運ばれてるか突き止める必要があるんだ!」


「よっしゃ、じゃあ一緒に突き止めに行くか。運転よろしくな!」

俺が無理やりバイクの後ろに乗るとイグナイトは諦めたようにため息をついた。

「……くそ!後で覚えてろよボッキマン。絶対邪魔するなよ!」


こうして俺はイグナイトの献血カーの追跡に付き合うことになったのだった。

イグナイトとバイクに乗って後をつけていくと献血カーは街中にある何の変哲もなさそうな献血センターに運ばれていた。


「なんか普通だな。おかしくもなんともなくないか?

 やっぱ血が足りなくなったから献血してるんじゃないの?」

俺はそう言ってイグナイトの方を振り返ると、彼は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「……違う、ただの献血じゃない。

 集められた血液がどこかの闇ルートに流されているんだ。

 もちろん血液製剤の不足は本当に起きている。

 血液が不足しているのも事実だ。

 だが、それを逆手に取って闇ルートに流れる血液の量も増えている」


「……その闇ルートが糾業会なのか?」


「バカ!違う!糾業会はその闇ルートを追っていたんだ、

 そして二人が消息を絶ってしまった。だから俺はその行方を追っている」


「それがあんたの任務ってわけか、もう一人のデカい奴は何をしてるんだ?」

俺がそう言うとイグナイトは口を閉じ、俯き加減で黙り込んでしまった。

何か言いにくいことがあるのだろうか。


しばらく沈黙が続き、やがてイグナイトはゆっくりと口を開いた。


「……俺は独断で動いている。これは糾業会の任務でもなんでもない」

「……そうか」

「消えた二人は俺の友人だ。痕跡でもいいから手掛かりが欲しい。

 だから、俺は独自に調査をしている」

イグナイトは絞り出すように呟いた。友人を亡くして辛いのだろう。

俺はその気持ちを察すると何も言わずに沈黙していたが、イグナイトは再び話し始めた。


「ボッキマンはお前は今、何をしているんだ」

「まあ、普通にランニングとか、シャトルランとかやってるけどな。

 というか俺は、いや、まあいいか……」


俺はボッキマンではなく没木一歩であることを告げようと思ったがややこしくなっても困ると思い、誤魔化した。


「その……お前、ずっと探してたのか?

 献血カーを追ってもこの建物にしか来ないんじゃないか?

 他に調べるところは……」

俺がそこまで言った所で新たに一台の献血カーが入ってきた。

献血カーに特におかしな様子は見られない、イグナイトはそれを見て口を開く。


「何日も尾行を続けていたが結局、堂々巡りだ。

 車にもここにもおかしな所は何もなかった。それでも俺にはここしか

 思い当たる節がない」


「糾業会には尾行だとかこういう調査の得意な奴は……」

「それがさっき言っていた消息を絶った連中だ。それに俺は独断で動いている。

 俺一人でどうにかしなければいけないんだ」

イグナイトは独り言のように呟いているが、それはどこか自分に言い聞かせているようでもあった。


「そうか……邪魔して悪かったな」

「今回の件で痛感したよ。俺が無能でしかなかったことがな、

 俺に出来るのはせいぜい戦うことだけだ……」

「おいおい、そんなことねーよ。お前はなかなか根性があるよ」


「お前に言われても嫌味にしか聞こえないぞ。

 だが、俺はこれからどうすればいいのかわからなくなってしまったよ」


「わかった、俺に任せろ。イグナイト、何も心配すんな……」

そう言うと俺は親指をグッと立ててウインクをした。


「……は?」


「何、気にすんなって。

 こういう事にうってつけの知り合いがいるからな」

俺はそう言ってバイクを掴んで引きずり出すと献血センターを後にする。


「お、おい!待て!どこに連れて行くつもりだ!」

後ろからは慌てふためくイグナイトの声が聞こえるが無視をすることにした。

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