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【悲報】ボッキマン、献血を妨害する その③

『な、なぜ、どうして……ボッキマンであることが……嫌なんだ!?』


「……そりゃ嫌だからだよ、普通に考えればわかるだろ。

 いつも暗くて、迷っていて、何をやってても楽しくない。

 そんな自分に戻りたくはないんだよ。……そもそも名前からして最悪だろ」


これは俺なりのケジメであり、決別の言葉だった。

俺はボッキマンじゃない。没木一歩として生きていく。俺はそのことを伝えるために、ハカセコの質問に答えていった。

すると、しばらく沈黙した後、 ハカセコは絞り出すような声で言った。


『じゃ、じゃあ!

 そ、その……ぼ、ボッキマンに戻ることは……?』


その声は今にも泣き出しそうなほど弱々しく、そして、どこか必死なものを感じさせるものだった。


「ない」


俺はハカセコの問いに対してはっきりと答える。

もう二度とボッキマンになることはない。俺はもう決めたのだ。そう心に決めてハカセコに告げる。しかし、ハカセコはそれでも納得がいかなかったのか、しばらく押し黙った後、小さな声で呟き始めた。


俺はその言葉をしっかりと聞き取るため、スピーカーに向かって耳を傾ける。


『き、貴様の言う通り、彼は……む、無知で、傲慢で、恐ろしくて……』

「そうだよな」


『あ、あの人は、ぶ、不愛想で、れっ、冷酷で、凶悪で……』

「マジかよ……とんでもない奴がいるんだな……はは」


『か、彼は、らっ、乱暴で、野蛮で、自分勝手で、傍若無人で……』

「……ははは、いなくなった方がいいよな……」


『……で、でっ、でも!

 彼は強くて、やっ、やや、優しかった!』


「………勘違いだろ」


『ち、ち、違う!!!』

「違わない。あいつはただ何も考えずに暴れ回ってただけだ」


『違う!違う!違う!違う!

 か、彼は私のことを見てくれた!私の話を聞いてくれた!』

「それはただお前がそう思いたいだけだろ」


『そっ、そそ、それでも!

 わっ、私は、そんな彼に、あ、憧れていたし、

 いかづち稲妻いなずまのために全力で戦い、

 彼らが死んだときに、な、涙を流してくれた彼を尊敬していたし、

 ……いっ、いつのまにか愛してしまっていた。

 この世に生まれ落ちて初めて、ひ、人を理解しようと思った。

 あっ、あの人が何を考えているのか知りたいと思ったんだ。

 あの人と一緒にいることを、そ、想像するだけで、わ、私は楽しかったんだ』


「……」


俺には意味がわからなかった。


なぜあいつでなければダメなんだ?

俺には俺が没木一歩である意味はあっても、ボッキマンでなければいけない理由などどこにもない。それなのに、ハカセコにとって俺は明るい性格の没木一歩ではなく、不愛想で乱暴なボッキマンであることが重要らしい。


だからこんなにも必死になって俺を引き止めようとしているのか。ハカセコの言葉を聞きながら頭を悩ませる。


俺は足元に転がる二つのボールの行方を見つめたまま、じっと沈黙していた。


『こ、こんなことを言っても、ど、どうかしていると

 思われるだけだろうけど……私だって弱い人間なんだ。

 か、彼の心が思ったよりも弱かった時、私は飛び上がるほど嬉しかった。

 彼の弱みに付け込めば、わ、わたしにすがりついてくれるんじゃないか

 とさえ思っていた。彼に復讐したいと思っていたのは本当だけど、

 こ、こっ、心のどこかではずっと……私のことを、

 みっ、見て欲しいと思ってたんだ』


『だっ、だけど貴様がもう彼じゃないなら、

 もう、彼がいないなら、もう……もう私は……

 もう……いやだ……もういやだ……いやだいやだいやだ……』


俺はどうするべきだろうか?


いや考えるまでもない、没木一歩ぼつきいっぽの心はもう決まっている。

俺は目の前に転がるボールを拾い上げ両手でしっかりと掴み取った。


「なあ、ハカセコ……」

『そ、その名前で呼ぶな、き、き、貴様がボッキマンではないなら、

 その名はもう要らない』


「ハカセコ」

『やめろ、違う。もうハカセコじゃない』

「ハカセコ」

『やめ』


「ハカセコ!!!!」


俺はそう怒鳴ると、両手に思い切り力を込めボールを握り潰す。するとボールは金属片をまき散らしながら粉々に砕け散った。

その光景を見たハカセコの息を飲む音がスピーカーからはっきり聞こえてくる。

俺はそんなハカセコに向かって語りかけるように言った。


「ハカセコ、お前がどんな気持ちでいたのかはわからないが、

 さっきも言ったように俺はボッキマンじゃなくて没木一歩だ。

 それからな、ハカセコよ、この際、はっきり言っておくが……」


俺は大きくため息を吐く。


『……な、何』


「お前はこの没木一歩のことをまったくわかってない」


俺は顔を上げどこかで見ているであろうハカセコに対して話しかける。


「ボッキマンが、その、どうしたって?

 無知で傲慢で恐ろしいだと?

 本当に甘い奴だな……この俺、没木一歩は……ボッキマン以上に

 無、いや傲慢で恐ろしいんだ。

 それにな、奴以上に冷酷で凶悪な男だ」


俺はハカセコに向かって大声で叫ぶ。


「それに見てみろ、お前の自慢の新素材とやらは俺が

 ちょっと握っただけで粉々だ。

 それで俺の暴力を克服できそうだなんてよく言えたもんだな!

 お前みたいな凡人がちょっと考えて頑張ったところで、この没木一歩を

 超えられるわけねーだろ!」


俺は地面に転がっている残りのボールも全て破壊していく、叩きつけ、殴り、蹴り、踏みつぶし、徹底的に壊し尽くしていった。

そして最後に残った一つを手に取り、それを全力で握りしめる。

気がつくと、手の中のボールは塵のようになり跡形もなく消え去っていた。


ハカセコが呆然としているのがわかる。暴力の嵐により、その努力の結晶は完膚なきまでに破壊されたのだ。


ハカセコの目に映る俺はきっと悪魔のように見えていることだろう。だがそれでいい。


「俺はボッキマンの一歩先を行く男だ!

 だから、ハカセコ!今から言うことをしっかり聞いておけよ!いいか……」


『……な、なんだ』


「……こっ、今度、一緒に紅茶を飲みに行こうぜ。

 賢いお前は俺よりも詳しいんだよな?

 俺は美味しいお茶の入れ方なんか知らないんだ。教えてみせてくれ」


『……な、な、なにそれ……な、なんなのそれ……』


ハカセコの声が震えているのがよくわかった。俺はそんなハカセコを無視して話を続ける。


「……それからな、今度は二人で映画にも見にいこう。

 俺はボッキマンと違って出会いを大切にする男だからな。

 そして、ボッキマン以上に乱暴で野蛮で自分勝手で傍若無人な男だが、

 お前も王を名乗るなら音を上げるなよ」


『……』



「あとは……そうだな、これからはもっといろんなところに出かけよう。

 ボッキマンはランニングくらいしか趣味のない無趣味なヤツだったが、

 俺は色々と試してみたい派なんだ」


『……』


ハカセコは何も言わなかった。静寂が長い間続いた後、小さな声が聞こえてきた。


『わ、わっ、私としたことが……ま、間違っていた。はは、は、はは!

 しっ、真の敵は、没木一歩、き、貴様だったんだな。

 ま、まずは貴様を倒し、そ、その後でボッキマンと戦うとするか……』


「ああ、そうしろ。どうせお前には無理だろうがな!」


『わ、わっ、私を馬鹿にするなよ!

 か、必ず、貴様を倒し、彼を救い出してみせる。

 そっ、そして、かっ、彼と並ぶ偉大な存在になってやろう!』


「ははは、まあそこまで気合い入れてやることでもないと思うけどな……」


『……』


「さてと……ハカセコ、俺はもう行くけど次の日曜日、紅茶を飲みに行こうぜ。

 おっと!俺は傍若無人だからな、泣いて嫌がっても引きずって連れて行くからな。 

 必ず来いよ。場所はブラウニーから連絡させる」


俺はそう言い残すとハカセコの前から立ち去った。


こうして俺、没木一歩はまたもや厄介事を背負い込んだわけだが、あくまで自分のためにやっていることだ。

何しろ自分を変えるためには変化を受け入れることが大切だからな。


とあるカウンセラーだってそう言っていたし、間違いないぞ。……多分。

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