表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/200

【悲報】ボッキマン、献血を妨害する その①

俺の名は没木一歩ぼつきいっぽ

紅茶よりもコーヒーの男。まあと言っても特に飲み比べたわけでもないし、デカいことは言えないけどな。


ちなみに、俺が飲むのはいつもブラックの無糖。ミルクと砂糖は入れない、必要なのは苦みとコクだ。俺は自宅の椅子にもたれかかりながら、優雅な所作でテーブルに置かれたカップを手に取る。


「(何インスタントでかっこつけてんだあいつ……)」

ブラウニーの心の声が聞こえてくる。


「(なんだよ……いいだろ別に……)」

俺は心の中で反論した。


以前、俺は趣味がランニング程度しかない、と言っていたがあれは訂正したい。

最近はシャトルランがそこに加わった。


「(結局走るだけじゃねえか……)」

またもブラウニーの心の声が聞こえてくる。


「うるせえよ……」

俺は小さく呟くと、コーヒーを飲みつつ目の前のスマホに視線を移した。

そこには以前行われた神代しんたいによる記者会見の模様が映し出されている。


ネットの反応は様々だ。


何しろいきなり『能力者による犯罪』とか言い出したんだからな。当然といえば当然だが、多くの人が混乱している。以前からもネットで噂程度には囁かれていた能力者の存在だが、それでも初めて耳にした人が大半だろう。


普通に生活している人が突然超能力だなんだと言われても困るのは当たり前だ。俺は、スマホに映る神代の姿をぼんやりと見つめた。


『……この街には不思議な力を持った人々が存在します。

 しかし、彼らも皆さんと価値観を同じくし、日々を穏やかに過ごされている

 人々が大半です。ですが中には危険な思想を持った人もいます。

 けれどそういった人たちにも心に平穏があれば、

 きっと問題は起きないと私たちは信じています。どうか皆様、

 平穏に暮らしてください。それが最善なのです。

 私たちは誰かを傷つけるために存在しているのではありません。

 人々の心の平穏を守るために存在するのです。

 私たちの力はそのお手伝いをするためにあるのです。では次に……』


そう言ってカメラに向かって微笑む神代。画面越しに見るその笑顔はとても綺麗だった。


「ずいぶん立派になっちゃって、俺なんかよりよっぽど主人公だよなぁ……」


俺はそう言うと、再びカップを口に運ぶと口の中に残っていたコーヒーを一気に喉の奥へと流し込んだ。


唐突に話は変わるがなくて七癖という言葉がある。

これは人には本人に自覚があろうとなかろうと多少なりとも癖があるというような意味らしい。俺は画面に映る神代の左目がたまに痙攣するのが気になっていた。


(あんな癖あったかな……)


神代と話していたことを思い返しても思い当たる節がない。それとも彼女はただ単に緊張しているのかもしれない。まあ、いきなり特殊部隊のリーダーに抜擢されて、記者会見なんてやってりゃそりゃ緊張するよな。


「……がんばれよ」

俺は画面の中の神代に向けてエールを送ると、俺はニュースに切り替えてだらだらとヘッドラインを眺め始める。

……これも俺の癖なのかもしれないな。


その後、俺は自分の部屋の椅子にもたれかかりながら天井を見上げていた。

今日は休日なので極限までダラダラしていいのだ。


「(いつもダラダラしてるだろ……)」

またもブラウニーの心の声が聞こえてくる。


「うるせえ」

「え?ええっ?何なんですか急に?!」

ブラウニーが狼狽している、俺はつい声に出してしまったようだ。


「あ、い、いやなんでもない……」

俺は誤魔化すように座り直すとニュースのヘッドラインを読む作業に戻る。


「(お前さっきからそればっかだな……)」

ブラウニーの呆れたような心の声が聞こえるようだ。


「(い、いいだろ別に!暇なんだよ!!)」

「(そんなに暇ならランニングでも行ってこいよ!)」


「……お前の言う通りだな、ちょっと外で走ってくるわ」

「え?!は、はあ、いってらっしゃい」

俺は勢いよく立ち上がると、玄関から飛び出した。


「あいつ頭大丈夫かよ……」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


俺はしばらくランニングを続けたが、途中で息が切れたので近くの公園に立ち寄ることにした。俺はベンチに腰かけると、異常に酸っぱいドリンクを一口飲む。


しかし最近、自分の勘違いかもしれないが基礎体力が大分ついてきたように思う。

少し前までは、ジョギングを始めてもすぐにバテてしまっていたのだが、今では40分くらい余裕で走れるようになった。


それに、少し走っただけで全身が熱くなる感覚。以前と比べて明らかに燃焼効率が良くなっている気がする。


「(フッ、このままだと没木一歩ぼつきいっぽには火炎系の超能力が

 身についてもおかしくないんじゃないか……)」


俺はペットボトルの蓋を閉めると、空を見上げた。

雲一つなく、澄み切った青空だ。


俺は、ぼーっとしながらペットボトル用のゴミ箱を探してキョロキョロと周りを見渡した。すると、とある車両広告が目に入った。最近話題になっている献血の広告だ。


(確かあれは……献血カーの宣伝だな)

俺は、何気なしにその車の方へ視線を向けた。


そこには、可愛らしい女性たちの写真のポスターが貼られている。


『今、血が足りていません!』という文字の下に派手な化粧をした可愛い女の子たちが笑顔で手を振っている写真が載っており『あなたの血を未来のために』と書いてある。そして、その下に『命を無駄にしないで』とも書かれている。


なんだか変なコピーだなあ……と思った。未来のために、はともかく命を無駄にするなってどういうことだ?それとも何かの比喩表現だろうか……。


そんなことを考えていると運転席にいた男と目が合った。可愛らしい車とは真逆の不愛想な顔をしたいかつい中年の男だ。男は俺が見ていることに気が付くと睨みつけるような表情をしたが、やがて慌てたように不気味な愛想笑いを浮かべた。


なんとなく気味が悪く感じた俺は軽く会釈をするとその場を走り去った。


そういえばニュースにも献血関連の話題がやたらと多い。


献血ブームってやつなんだろうか。

もともとはムノー製剤だとかの火災の影響で輸血用の血液製剤が不足がちになったことが原因だったと思うが、それにしたって多すぎる気がする。


俺は献血が苦手なのであまり積極的には行くつもりはないけどな。そもそも能力者の血液って輸血とかしてもいいものなんだろうか?


俺は再び、ボトルキャップを開けるとドリンクを喉に流し込んだ。

「しかし気味の悪いおっさんだったな…

 あんなおっさんじゃ献血する気も失せるだろ」

俺は飲み干した容器を自動販売機横のゴミ箱に入れると、家に向かって歩き始めた。


その途中、俺は横断歩道の前で立ち止まる。信号は赤だ。


「うへえ、何だありゃ」

思わず声が出てしまった。


俺の目に映ったのは、献血テント、献血カー、それから献血バスだ。

まるでお祭り騒ぎのようにずらりと並んでいる。


しかもどれもこれも、どこぞのアイドルグループのようなキラキラとした女性の写真が貼ってある。まるで献血フェスだ。いくらなんでもここまでやるか?


またも疑問が湧き上がる。

受付は若い女性だが、実際に献血の作業している男はどいつもこいつも体格のいいコワモテのおっさんが多い。


献血には全く興味がなかったが、この異様な光景を見るとどうしても気になってしまった。


(これってあれか、まさか糾業会きゅうごうかいみたいのが

 絡んでんのか……?)


だとすれば七角ななつのの身に悪いことが起きなければいいが……。

献血のためか女のためか献血フェスに群がる男たちを見ながら、俺は心の中で彼の身の安全を願っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ