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【速報】ボッキマン、虫捕りに出掛ける その⑦

それでも俺は七角の説得を諦めなかった。

……なぜだろう?

このままでは確実な死が彼に待っていると感じたのかもしれない。


いや、俺以外の全員がここで死ぬことになるかも知れない。なんとなくそんな嫌な感じが拭えなかった。


「ええと、その、なんつーかさ、

 別に邪魔をしたいわけじゃないんだけど、やっぱりほら、

 博士を殺すってのはなんかこう、もったいないっていうか……。

 えっと、つまりさ、博士はなんというか、頑張ってんだよ!それに」

必死で説得を続ける俺に向かって、佐凪博士が話しかけてきた。


「没木、お前の気持ちは嬉しいが彼は本気だろう。

 後はマーリーに任せておけ」

佐凪博士に続き、マーリーも俺に優しく語りかけてくる。


「あなたはとても優しい人なのですね。

 でも大丈夫、博士は殺させません。

 それにあなたの友達も死なせるつもりはありませんよ。

 ちょっとあきらめてもらうだけですから」


そう言うとマーリーは両手を前に差し出しながら、雲の上を歩くような足取りでゆっくりと七角の方へと一歩踏み出す。


「……!」

気圧されたのか、それとも恐怖を感じたのか、七角は一瞬ひるむ様子を見せたがすぐに気を取り直し、マーリーに切りかかった。


そして、マーリーの体に七角の刃が触れようとした瞬間、


彼はマーリーの腕に優しく抱きかかえられていた。


「え?」

「はい、捕まえました。ふふっ」


七角は何が起きたのかを理解できない表情のままマーリーの腕の中で硬直している。

一方で佐凪博士は顎をさすりながら満足げな顔をしており、さも当然の結果と言わんばかりだ。俺もただ呆然と立ち尽くしていた。


「よし、これでいい。

 では改めて紹介しよう、彼女は『クインメイフ』のマーリー。

 私の娘にして人類の次のステージのカギとなる存在だ」


得意気にそう語る佐凪博士の足元にはボンちゃんがうずくまっており、いつの間にか持ってきた小さな木片のようなもので遊んでいた。


「な、なあ博士、七角はこの後どうなるんだ?」

捕まった七角のことが心配になった俺は佐凪博士に恐る恐る質問した。


「どうもならない、先ほど言った通りだ、さっさと帰れ。

 そして組織には任務は失敗したと伝えろ」

佐凪博士はそう言うと、軽く手を振りマーリーに合図をした。


「マーリー、そいつを解放してやってくれないか?」


マーリーが七角の体をそっと床に下ろすと、彼は慌てて剣を構え、マーリーへと刃を向け声を張り上げる。

「俺はまだやるぞ!俺には任務が……」


だがマーリーは攻撃の姿勢を一切見せることなく、少し悲しげな表情で微笑んでいた。佐凪博士はそんな二人の様子を眺めつつ、鞭を右手に持ち、左手の指先でくるくると回している。

ボンちゃんは退屈そうに部屋の隅で寝転んでいた。


「七角、もう帰ろうぜ……」

七角は俺の呼びかけにがっくりと肩を落とす。

「なんだよ……これじゃあ、俺が悪役みたいじゃんか……」

七角の言葉を聞き、佐凪博士は少し考え込んだ後に口を開いた。


「お前は強い力を持っているかもしれないが、かつて私が目の当たりにした

 超人には遠く及ばない。あの男と比べたら赤子同然だ。

 だがせめて目標くらいは大きく持て、誰かの言い分に従って人殺しなど

 していてはせっかくの力も宝の持ち腐れになるぞ」


「……クソッ」

七角は佐凪博士の言葉に背を向けると、無言のまま部屋を出て行った。

俺は七角を追いかけようとしたが、それよりも先に佐凪博士が俺を呼び止められてしまった。


「没木、こっちへ来い」

俺は言われるまま佐凪博士の元へ向かい、隣に立った。すると彼は鼻をならして距離を取るように俺から離れていった。

「下水の臭いか?少し離れろ」

「……」

俺が黙って下がると、佐凪博士はポケットから何かを取り出した。


「破壊しろ」

佐凪博士はそれを俺に投げ渡した。

「破壊?」

「ああ、どんな方法でもかまわん、それを壊してみせろ」

渡されたものを見ると、それは一辺10センチほどの真っ黒な立方体だった。


「なんだこれ?」

「さっき言っただろう、破壊しろと」

佐凪博士の意図が全く読めなかったが、俺は手に力を込め、立方体を握り潰そうとすると少し抵抗があったものの、まるで紙細工のようにあっさりと崩れ、破片が床に飛び散った。


「あ、マジで壊れちゃったけど……いいの?」

佐凪博士は俺の様子を無言で見つめていたが、やがて静かに口を開いた。


「いい、問題ない。

 それを破壊できた者はマーリーと私が過去に出会ったあの男、

 そしてお前だけだ」

「……はぁ」

俺があいまいな返答をすると、彼は話を続けた。


「お前も強い力を持っているな。それも先ほどの若造よりも大きな力を、

 なぜ使わなかった?」

「え、いや、別に使う意味がなかったし。

 まあ七角が本気であんたを殺そうとしてたら使うつもりだったけど……」


「そうか、お前はその力を使って何かやりたいことがあるのか?」

「別に何も……特に使い道とかないし……」


「ほう?そういう風に考えるのだな、それならそれで構わんが。

 だが、一つ忠告しておこう。生命体には使命が課せられている。

 そして人間と他の生命体の決定的な違いはその使命を自覚できるか

 どうかにある。その点において人間は最も自由な生物だと言える。

 なぜなら使命を無視して生きることが出来るからだ」


「えっ、ああ?なるほど?」

俺には佐凪博士の言うことがいまいち理解できなかったが、なんとなく質問してみることにした。


「ええと、それって神様的な何かが命令してるってことか?」


「……さあな、少なくとも我々の理解を超えた存在だろう。

 ただはっきり言っておくとほとんどの人間にとって使命とは

 人間からの命令でしかない。国や社会や組織が望む役割、親が子に託す願い、

 それらが使命となる。しかし、人知を超えた力を持つ者には、

 人知を超えた特別な使命が与えられている。

 その『特別な使命』とは親や国や社会といったちっぽけな人間たちの営みを

 超越したものであり、我々の目から見れば一見矛盾するような使命なのだ。

 私の知り合いにも一人いたが、その男は大きな力を持ちながらも、

 使命に背き、自らの意思に従い、殺人を犯し、それを償うためだけに生きている。

 もしお前がその男のようになりたいというのであれば止めはしない。

 しかしそうでないのならば、もう少し自分に与えられた力を大事に

 することを覚えるといい」


佐凪博士の話はよくわからなかったが、彼は言われているような悪い奴ではなくて、むしろ俺のことを考えてくれているようだということはわかった。


「あ、ああ、ありがとう。

 ……博士はこれからどうするんだ?またどこか別の下水道に住み着くのか?」

「いや、しばらくここに滞在するつもりだ。居場所が割れた以上、いつかはここを離れる必要があるがな」

佐凪博士はそこまで話すと、小さく息を吐いた。


「そっか、じゃあ博士もマーリーもボンちゃんも元気でな……」

俺が別れの挨拶を告げると、彼は軽く手を振りながら口を開いた。

「連絡先を伝えておこう、バイトでいいならこき使ってやる」

佐凪博士はそう言ってポケットから紙切れを取り出すと、何かを書き殴りを俺に手渡した。


「没木さん!」

俺が紙を受け取ると同時にマーリーがボンちゃんを抱いて駆け寄ってきた。

「この子を撫でてやってくれませんか?」


マーリーは俺に巨大なハエの頭部を持つ不気味な生き物を差し出した。

「お、おう、よ、よし、任せてくれ」

生唾を飲み込みながら、恐る恐る触るとぷよぷよとした感触が指に伝わってきた。


「こ、ここの目の部分とか触って大丈夫なものなのか?なんか飛び出してるけど」

「平気ですよ、ほら」

俺が尋ねると、マーリーは俺の手を掴み、ボンちゃんの目へと誘導する。柔らかくなったバスケットボールを触っているような感覚だった。


「う、うわぁああ、ひ、ひええぇー!?」

俺は情けない悲鳴を上げ、ボンちゃんの目に触れた指を慌てて引っ込めた。マーリーはボンちゃんをそっと床に降ろすと、少しかがみながら俺の目を覗き込んだ。


「博士を守っていただいてありがとうございます」

「びひー、ぷす、ぴす」

「いやそんな、俺なんか騒いでただけで大したことできなかったし」

「一応、私からも礼を言っておこう。一応な」


博士も俺に感謝の言葉を述べた

俺は照れ臭くなり、頭を掻いて笑った。


しかし、マーリーは視線を少し下に向けたまま硬直している。


「ど、どうかしたの?」

「……あ、あの、それって」

「へ?」

視線の先を見ると、マーリーは俺の勃起を凝視しているようだった。


慌てた俺は身を捩り、急いで股間を両手で隠した。

「ご、ごめん!これは違うんだよ!」


「お前!マーリーになんてものを見せるんだ、死にたいのか!」

佐凪博士は怒りの形相で俺に詰め寄ると胸ぐらを掴んできた。

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